俺の物欲センサーがぶっ壊れているらしいので、トップ配信者の幼馴染と一緒にダンジョンにもぐってみる
奥州寛
1-1 初心者用ダンジョンでの出会い
第1話 猛犬系ストリーマーは子犬系幼馴染
生まれついての人気者って言うのは、まあそれなりにいる訳で、もっと言えばテレビとか見ればその人気者の中でも人気者、エリート中のエリートみたいな存在は、案外簡単に見ることができる。
『飼い主殿のみんな―! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー!』
今ネットの向こうでストリーム配信をしている彼女、犬飼ちくわもそんな上澄みの一人である。
「どこが猛犬定期」
「おはチワワ」
「ミニチュアダックスフントに負けそう」
滅茶苦茶に叩かれているように見えるが、これが平常運転である。
『今日はケルベロスに挑戦しちゃうよ! 応援よろしくぅ!』
「無理すんな」
「怪我したらどうするんだ」
「救護班の人いつもお疲れ様です」
セルフプロデュースとして、彼女はいわゆる身体を張った「汚れ系」を選んでロールプレイしている。なんでも「そっちの方が炎上した時に許してもらいやすい」かららしい。
それでもこういう系統の配信者は伸びづらいものなのだが、彼女は生まれ持っての明るい性格と、圧倒的なルックスによってそれをねじ伏せている。いわゆる「美人だけどあいつだけは恋愛対象として見れないわー」とクラスの男子全員から言われつつ、そう言っている全員が心の中で(まあ、あいつの良さを分かってるのは俺くらいだがな)と考えているようなパターンである。
なので、先程の書き込みも叩いているというよりも「好きな女の子には意地悪したくなる心理」である。
まあなんというか、それでも好意を素直に伝えてくる奴もいるんだが、不可侵条約というか、紳士協定というか……あまりファン同士からは好かれていない。
逆に勘違いして「ヘタクソ」とか「死ね」とか言うような輩もいるのだが、そちらは運営対応に加えて、ファンからのネット私刑もありうる危険な行為となっており、彼女のファンコミュニティで仲良くやるには、思春期の中学生みたいな恋愛観と繊細なバランス感覚を持っていなければならない。
さて、今日の配信内容はダンジョンボス「ケルベロス」討伐と書いてあるが、実際に挑戦するかどうかは考え物であり、ちょっと戦って「ま、まあ今日はこれくらいで勘弁してやるか」的な物言いをして採取をして回る。みたいな配信をしているのがいつもの流れである。
この辺りが「チワワ」と呼ばれる所以であるが、彼女自身「ちくわ」なんていう狙っている名前をしているので、今の芸風は計算づくの物だろう。
「っ……はぁ、ちょ、ちょっと今日は調子が悪いからこれくらいにしようかなー?」
「いつもの」
「リスポーン地点」
「親の声よりよく聞いた負け惜しみ」
未知のエネルギー「ゾハル」が発見され、それと同時にダンジョンが発生してから二十年、初期は相当な災害として認知されていたが、人類はなんとか未知のエネルギーの利用法を見つけた。それが身体強化を行う「スキル」と他者に干渉する「魔法」である。
その二つを使い、人類はダンジョンの封じ込めに成功する。現在の所、危険が無いわけではないのだが、一応は管理できている。
管理できると、次は利用したがるのが人類である。新エネルギー「ゾハル」の原料はダンジョン内にあり、それを採取する探索者が職業として認知され始めたのだ。そのあたりのゴタゴタは授業でやったが、ろくに聞いていなかったので忘れてしまった。
とりあえず、今の俺達に重要なのは「ダンジョン探索者がストリーム配信で今一番アツい」ということである。
『あっ』
画面に目を戻すと、彼女が何か土色をした塊を採掘したところだった。
「は?」
「遺物系装備拾ってて草」
「研磨石マラソン開始である」
どうやら彼女が手に入れたのは、結構なレアアイテムらしく、コメント欄が高速で流れていく。それと同時に赤色の課金コメントがすごい勢いで飛んでいった。
『わわっ、御主人さまたちありがとー! スパコメは夜に返信するね! ……ってことで! 配信はいったん終わろうかな!』
「地獄の耐久配信待ってます」
「研磨石200個集めるまで寝られません配信するってマジ?」
「手伝いたいけど研磨石なんて採掘しないで捨てちゃったからなあ」
配信が切られた後でもコメント欄ではレアアイテムと研磨石とやらの話が続いていた。
「ふぅ」
俺は配信画面を閉じて、別の動画を見るためにスクロールをしていく。
しばらくスクロールすると、丁度よさそうな動画を見つける。クソゲーのRTAである。長い再生時間が表示されており、プレイ時間の水増しを強制されているのが、ありありと感じられるものだった。そうそう、こういう悪意しか感じないクソゲーのRTA好きなんだよな。
しばらく見ていると、スマホに着信があった。相手は幼馴染の犬飼愛理である。
「どうした? 愛理」
「優斗ごめん! 助けて!」
通話口に聞こえてきた第一声がこれである。俺は溜息をつきたくなるのを堪えて、冷静に返す。
「わかったよ、今度は何?」
「研磨石200個集めなきゃいけないの!」
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