第22話 行方
行方
・・・・・・居場所はどこだ?
・・・・・・俺はどこにいる?
俺は何者で、一体何のために生まれたのだ?
わからない。何もわからない。考えるだけ無駄なのかもしれない。
でも考えてしまう。自分の生に意味があると自分で納得し、自分を慰める。
故にこの生に意味はないのかもしれない。自己を否定し、生きることを否定した俺は死を彷徨い、生を得た。
俺はどこへ向かうのだろう。何回痛い目を見るのだろうか。
何度輝きに翻弄され、幾度の嫉妬に身を焼かれてきたのだろうか。
行方は知らず、いや俺が行く道に行方なんてものはないのかもしれない。
当てのない旅。未来へ繋ぐ旅。その結末は・・・・・・
10月29日 20時
五代が八咫烏を去った。
やはり普段から3人での行動が多かったからか、少し寂しい気がする。
身近な人がいなくなるというのは心細いものだ。
人には居場所というものがある。
それは自分が一人でいる時や家族で過ごす場所、友達や大事な人と過ごす空間、学校や職場がそれに該当すると俺は思う。
一人でいる空間、例えば部屋で過ごす時間というものだって人には必要だ。
その時間と空間が人に精神的な休憩をもたらしてくれる。
人といると必然的かつ自然的に、無意識的に人に対して何かしら思うところができてしまう。
どこでどう発言しよう、こんな時どう気遣えばいいのだろうかとか。
それらを無くしてくれるのが一人でいられる空間だ。
空間があれば必然的に時間もくっついてくる。
だが居場所は一つだけだと、人間というものは単純かつ外部からの影響を受けやすいもので、精神的に縮こまりやすくなってしまう。
簡単に言うと、意固地になり、視野が狭くなる傾向があるのだ。
それらは人に生きにくさを与える。
それらを無くすためには新たな人と関わる時間とその空間に行く必要性があるのだ。
人は他の人といる時間はその人と同じ空間で過ごすこととなる。
そういった時間と空間が次第に居場所というものを形成するのだ。
俺が心細い理由はきっとその居場所の形成の土台となったものが抜け落ちてしまったから。
飛月と五代と過ごしたおよそ3か月半で俺が気づかないうちに作られた居場所。
五代というパーツが無くなってしまったことにより俺は少し、ある一種の物足りなさのようなものを感じているのだろう。
なんて思ってみても結局自分の中のモヤモヤは消化されない。
そんな中、俺の元へ一本の電話が来た。
電話については情報が漏れないように組織から支給されたスマホか組織内の電話のみ許可されており、今回はスマホの方に連絡が来たのだ。
「もしもし、立花ですが・・・・・・」
『おお!アルト君。久しぶり。元気にしてるかな?』
「村田さん!お久しぶりです!お元気でしたか!?」
村田さん、俺がこの組織に入る前にお世話になっていた農家のご主人だ。
何かと縁があって俺はその農場で5年間働かせてもらっていた。
古き良き我が友人たちもそこで今も働いている。
『ああ、元気だよ。女房共々ね。みんなも元気にしてるよ』
「そうでしたか!よかった。すみません、なかなかこちらからご連絡ができなくて」
『いいんだよ。それよりさ、アルト君。うちで育てているカボチャ。今年は豊作でさ。良かったら取りに来てよ』
「え?いいんですか?いただいちゃって」
『ああ、ああ、もらっていってくれよ。余っちゃうしね。孤児院の子どもたちにでもわけてやってくれよ』
「ありがとうございます。明日の午後にでもお伺いしますね」
『おう、待ってるよ。他の子たちも女房も待ってるから、ぜひきてね』
「はい!わざわざ連絡していただきありがとうございます!」
そこで電話は終わった。
ありがたいものだ。今までの人生、いろんなことがあったけどもやはり人の縁というものは大事なもので・・・・・・
こういった懐かしい人たち、自分のことを思ってくれていたり待っている人がいると思うと心が温かくなる。
守っていかないとな。
こういった人たちが平凡に暮らせる日々を。
「どなたからか連絡が来たんですか?」
受験の勉強をしていたチヨが部屋の扉を開けてリビングに出てきた。
「うん、村田さんのところから。カボチャがたくさん取れたらしいから明日にでもでも取ってくるわ」
「了解です!そろそろ収穫祭も近いですし、ちょうどいいかもしれないですね」
「そうだな。なんか作って孤児院の子どもたちにもっていこうかな」
子どもたちが喜びそうなもの、なんかあったかな。
「お手伝いしますよ!」
「チヨは勉強があるだろ。また来年な」
「はーい」
そう言ってチヨはリビングでお茶だけ飲んで部屋に戻っていった。
来年か。普通に来年を迎えられるといいな。
10月30日 15時過ぎ 本部内
この時間は俺と飛月が特訓をする時間であった。
午前中までいて、昼ご飯の時は一緒に食事もしていたのだが。
だが、飛月の姿が見当たらない。
俺は本部内で飛月が見当たりそうな場所を片っ端から探す。
休憩室、会議室、作戦室。
一旦は寮にさえ戻った。
だが、どこにも飛月の姿はなかった。
おかしいな。あいつは若干ひねくれてはいるがまじめなやつだ。
無断で特訓を休んだりはしないはずだ。なのに何故だ?
「うーん」
夕方前には村田夫妻の農場に行ってカボチャをもらっておこうと思ったのだが、訓練を優先しないと有事の際に後悔する羽目になりそうだし・・・・・・
「とりあえず、旦那に相談するか」
「何、飛月の姿がどこにもない?」
「ああ、そうなんだ。いそうな場所を探したんだけど、見当たらなくて」
旦那はすかさずスマホで連絡をかける。
だが留守番電話に繋がるだけで、一切の応答はない。
「妙だな。あいつが連絡一つも寄越さずここから離れるだなんて。性格上ありえない話だ」
本部内が少しざわつく。
俺はあいつと出会ってからはあまり時間が経っていない。
だが、ここにいる人たちは俺よりも飛月のことを知っている。
だが、そんな彼らにも把握しきれていない行動を飛月は取った。
「飛月に何かあったのかもしれない。長倉。位置情報の開示を頼む」
「了解しました、キャプテン」
長倉さんは自前のパソコンで何か操作を始める。
「旦那、位置情報って?」
「ああ、黙っていてすまなかったな。職員に支給したスマホは強制的に位置情報が入るように構造されている。壊れた時や充電が無くなった際にもその痕跡を終えるようにもな。そしてその情報は有事の際のみ俺と長倉だけが見ることを許可している。勿論、前までいた五代もその権利を有していない」
「そうだったのか。全く知らなかったよ」
「俺も個人のプライバシーに関する事だから厳重に管理しておきたいのでな。しかし、俺たちはいろんな人間が集まって構成された組織だ。誰がどこで襲われたりするかわからない。そのためには必要なものだったのだ。だが、状況に気づいてから確認するため、すべてにおいて後手に回ってしまうのが欠点だがな」
位置情報とかも外部に漏れれば確かにこの秘密組織はいろいろと立場が危うくなるし、職員が何よりも危ない。
しかし、事が起こってから出ないと対応ができない。
それは警察だって同じだ。
組織も警察も事前に物事を止めるのは難しいのだ。
「ルート、確認できました」
俺と旦那が長倉さんのパソコンを眺める。
「どうやら、生きてはいるようだ。だが一体誰にも言わずにどこへ向かっているのだろうか?」
地図に映し出された飛月の歩いた痕跡。
ところどころに町の名前や店の名前が表示されている。
見覚えのある所に見覚えのある町の名前。
そこは・・・・・・
「おいおい、俺の住んでるところじゃんか!なんで飛月が?」
飛月のやつ、何かがおかしい・・・・・・最近の俺との二人きりの時の発言といい何かを知っているような口ぶりが多かったからな。
多分、何かある。俺の9割型外す予感がそう言っている。
「アルト、任せてしまっても大丈夫か?」
「ああ、任せてくれ。そこなら俺もよく知っているところだ」
俺は本部を抜け出して、急いで故郷に向かった。
16時過ぎ 村田農場近く
「・・・・・・あそこか」
ある男が近くの森から農作業をしている人々を覗き見る。
中年で少し腹部がふくよかな男。スーツを着込んだその姿は一般的なサラリーマンのような風貌である。
しかし、その男の目には確かな強いものが宿っている。
・・・・・・男は見つめる。農場の人が一か所に集まった瞬間を狙う。
誰にも逃げられたくないからだ。
農場を見つめるその眼光には様々な怨念が乗っかっている。周囲にとてつもない殺気と恨みが立ち込めているようだ。
「待ちなよ、スーロ」
男は自分の名を呼ばれ、殺気を消した。
気配を隠すためにか、はたまた自分の名を呼ぶ仲間の声に反応したからだろうか。
「・・・・・・何故ここにいるとわかった」
男は疑問に満ちた声を出す。
ここにいることを誰にも告げていなかった。
加えて、この少年の存在は彼らにとってあまりよろしいものではなかった。都合が悪いとかの類でもなく、邪魔者というわけでもなく。一言で言うならば彼は中途半端な存在である。
「お前に教える義理はない。目的はなんだ?」
「簡単な事だ。シュラバの無力化、そして悪神を放ち人類を滅ぼすこと。この星を再び我らのものに戻すためだ」
「侵略者風情が、そのためにわざわざここにやってきたと。方法は・・・・・・ざっと、シュラバの精神状態に悪影響を与えるために思い出深い場所の破壊や、知人や面識のある人々を殺害。シュラバから変身能力を失わせる、若しくは巨大化できたとしても精神が安定しない状態で戦わせエネルギーの消費を速くさせ、自滅させる。
そしてシュラバ亡き後に獣を放ち、人類を壊滅させる。果てにはこの星の人類や資源を独占するってところだろ」
「・・・・・・獣?そうか、潜伏先ではそう呼ばれているのか。そしてその考察力。モルモットにしては頭の回転が速いな。誰から聞いた?もしやリードか?」
「・・・・・・」
少年は答えなかった。
「何回目になるかわからないが、あえて聞いておこうか。今、八咫烏以外で別の組織が編成された。誰の差し金だ?誰が適合率を図り、誰が龍玉を所有していた?」
男はポケットにしまっていた手をため息つきながら出し、少年にある物を見せつける。
「逆に聞こうか?何故お前はこのボタンを押しているのにも関わらず何故死なない?脳内に埋め込んだチップはどうしたのだ?以前からお前から全く情報が流れてこんかったが、まさか取り外したとでも言うのか?」
「・・・・・・」
少年は再び口を閉ざす。
お互いに話したくないのか。若しくは、話せないのか。
「どちらにせよ、邪魔をするな、ジェラ!ビィの忘れ形見とは言え、我々産みの親に歯向かうのならば容赦はしない!」
少年は左手を握りしめる。
「じゃあやり合う前に聞いておこうか。何故シュラバをそんな意図的に陥れる?」
「・・・・・・アイツさえいなければ、アイツさえいなければ!我々はもっと簡単に人類を奴隷にすることができた。ひたすらマイナスエネルギーを吐かせ続け、いづれは星を超えての侵略活動も夢ではなかった!なのに、アイツが・・・・・・アイツが!余計なことをしたせいで!」
「それは前任者、コード:ファーストの話だろう?コード:セカンドである立花在人とは関係ないはずだ」
「知るかそんなもの!私は私自身の恨みを果たすため、ビィとスラを殺したやつと同じ力を持つ立花在人から力を・・・・・・いや命を奪い、再び人類奴隷化計画を進めるのだ!すでに家は燃やした!今頃跡形もなくなっているだろう!
そして次はこの農場の人々を殺害する!
仕上げにやつが一番大事にしている人間であろう桜田千世を殺害する!絶望に落ちたシュラバが巨大化しなければそのまま殺す。万が一にも巨大化した場合はその状態で民衆の前で殺害し、人間どもを食らいつくす!」
「ずいぶんと活動的だな。怠惰の名が泣くぞ」
少年は小バカにするように鼻で笑う。
「肉体の調整もままならないまま施設を破壊し、出ていったモルモット風情が!まずはお前からだ!」
男の体が白く濁ったオーラに包まれる。
そして、男の姿が見えるとそこには男の姿はなかった。
正しく言えば、そこにはいるのはこの星の人間のものではない。
人型ではあるが全身が真っ白な身体。
君の悪い黄色い目玉のようなものが顔や腹部にあり、蠢いている。
後頭部には枕のような四角く茶色い枕のような物がついていて、厚手のマントを羽織っている。
「さあ、その細胞、我々に返してもらうぞ!ジェラ!」
ジェラと呼ばれたその少年は腕から黒い籠手を外し、力を解放する。
左手から腕にかけてが真っ黒に染まる。
腕の周辺や指には小さな棘があり、触れたものを傷つけてしまうだろう。
少年の目の色がダークブラウンから緑色に変わる。
その目の色はまるで、嫉妬の・・・・・・
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