第48話・【追憶の旅路】No97




 意識が覚醒すると俺は半透明な状態でいた。


 何を言ってるか分からないが、そのまんま、半透明だったのだ。

 手足が透けている状態。


 声を出そうとするが、何故か声は出なかった。


 意味の分からない、余りにも現実味のなさ過ぎる状況に困惑する。

 いや、違う。

 おそらくではあるが、あの指輪のせいだ。

 【追憶と輪廻の指輪】の権能・【追憶の旅路】の効果によるものだろう。

 といってもおそらくだ、あの声の通りであればという話だ。


 それに気掛かりなのはあのけたましく鳴り響いたエラー音だ。

 明らかに大丈夫じゃない気がする。

 

 クソ、考えても分からないな。取り敢えず行動をしてみよう。


 俺はあたりを見渡す。


 目の前に俺がいた。

 何を言ってるか分からないが俺がいたんだ。現実世界そのまんまの俺が。

 そして俺の隣には白髪の美しい少女がいた。

 少女と俺は仲睦まじい姿を見せている。

 まるで、恋人のようだ。




 ピコン




【追憶の旅路】No97

 相川の裏切りを始めます。






 そう声が頭に響いた瞬間に視点が変化した。





――――――――――――――――――


 体が半透明じゃなくなった。

 横を見ると件の白髪の美少女がいた。

 

 声を出そうとするが声は出ず、体が勝手に動いていく。


「た、大変だ。一丸が脱退するって手紙を残していなくなってしまった」

 リーナによく似た、いや違うな。おそらくリナであろう人物が俺に向かってそう告げてきた。


「一丸が、嘘だろ・・・いや、でも何か理由があるのかも知れん。探すぞ」

「ありがとう。ユウヤ」


 体が勝手に動き俺達は一丸を探す。

 色んな人の手を借りて協力して探す。

 だけど見つからなかった。


「一丸何処に行ってしまったんだ。あの馬鹿、私を一生守るって言ったじゃない。もしかして、あの時私が振ってしまったから・・・」

 リナがそう呟く。


「リナのせいじゃないよ。きっと一丸君にも事情があったんだよ」

 白髪の美少女がリナを慰めている。


「ありがとう。イト」

 え?待て、イトと言ったか。今リーナはイトと言った。

 この白髪の美少女がイト。

 おそらく1周目の世界で俺の最愛の人であり、亡くなってしまう、あのイトなのか。


 クソ、気になる。

 気になるのに体が動かない。知りたい。彼女についてもっと知りたい。離してみたい。

 なのに物語が勝手に進んでいく。俺の体が動いてしまう。


 俺達は一丸を探す。

 探してる時、PKギルドに襲われてしまった。

 必死に戦い、PKギルドのメンバー4人を殺害し、3人は捕獲し、13人は逃してしまった。

 そして、こちらからは大事なメンバーが4人死んだ。

 イトやリナのような俺とずっと一緒にいる初期メンバーではなかったからか、俺の悲しみもそこまで大きくはなかったが、それでも、涙で前は見えなくなり、PKギルドのメンバーを心の底から恨んだ。

 ただ、ここで大きな問題が起きてしまう。


 俺達のスキル構成やビルドをPKギルドのプレイヤーが知ってる動きをしていたということだ。

 明らかにメタる為の装備をしてきたし、呪耐性スキルを獲得してない人にピンポイント呪いをかけてきた。


 これは、どう考えて見ても誰かが俺達の情報を漏らしたとしか考えられなかった。


 そして、俺やリナにイトは違う者の、一部メンバー、特に今回殺されてしまった4人のメンバーと仲が良かった人達が急に脱退した一丸が情報を売ったのではないかと邪推し始める。


 俺は最初はそれを否定したかったが、余りにも状況証拠が整い過ぎていた。

 それに、俺は理不尽に仲間を奪われた彼ら彼女らが誰かのせいにして、少しでも心の痛みを紛らわせたいという思いを痛いという程理解出来た。


 だけどリナだけが絶対に違う。

 一丸がそんな奴じゃないと訴え続けていた。


 そうしてギルド間でギスギスとした空気が流れている中、情報屋と名乗る相川が現れた。


 どうやらこの世界では相川は前線の攻略組には入らずに情報屋をしていたらしい。


 そして俺達に情報を教えてくれた。


 一丸は俺達を裏切ってPKギルドに情報を渡し、巨万の富を得たが、PKギルドによって殺されてしまったという情報


 見るからに嘘くさくて怪しい情報。


 でも、実際にPKギルドに襲われて犠牲者が出てしまっている状況。

 更には今まで相川は情報屋として間違った情報を一つも言っていないという事実が、そうではないかと信じ込ませてしまった。


 そして、悩みに悩んだ末に捕らえたPKプレイヤーに非常に貴重な真実の魔眼というアイテムを使い情報を聞き出した。


 一丸が裏切って情報を流した後、殺されたとという情報が発覚した。


 真実となってしまった。


 俺は絶望して、一丸と仲の良かったメンバーは発狂し、荒れた。

 特にリナの絶望は強く、暫く立ち直れない程の悲しみを背負ってしまった。


 そして、ギルドメンバーの2割が今回の出来事を受けて脱退し、俺達の心の中に最低最悪の裏切り者一丸の名前が深く深く刻み込まれてしまった。


 





 

 ピコン

 【追憶の旅路】No97

 相川の裏切りが終わりました。


 これにて、【追憶の旅路】を終了させます。


 そして、俺は意識を失った。






―――――――――――――――――――


 一応言わせて欲しい。

  【追憶の旅路】No97

  相川の裏切りが終わりました。


 これは誤字じゃないです。


 とどのつまりどういうことかといいいますと、そういうことです。

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