遅刻魔と絶望の将軍

1


 軽々と門番の前を通り抜け、浩介は敵司令部へ侵入する。中は薄暗く、明かりであるランタンがチラチラと揺れている。

(ランタン揺れてるな...。風が吹いた感じもしないし、誰かが通ったのか?)

 揺れるランタンを不思議に思いつつ、浩介は司令部内をぐんぐん進んで行く。

 その時ガタンッと何かが落ちる音が鳴り響く。

(ッッ!?あ、危ねぇ。危うく声出すとこだったぁ。今のはなんだ?自然に起きたのか...?まさか俺の存在が認知されていて、俺を炙り出そうとしてわざとやったわけじゃないよな...。)

 まさにその通り。落下物の上では密かにマルコが潜んでいたのだ。

(今確かに何もないとこから足音が聞こえたから落としたけど...。さすがに声は出さないかー。声さえ出してくれれば大体の場所は掴めるんだけど)

(...人気もないし、やっぱり俺の考察は違ったようだな。ビビんな!俺!)

 だが、現実はそう甘くない。勘違いをしながら浩介はそのまま階段を上がっていく。

(あれー?足音が聞こえなくなったなぁ。奴の狙いは恐らく通信網の破壊だから、階段をそのまま上がっていくはず...。まぁ焦らず上の階で物陰に隠れながら奴の様子を伺うとしますかね...。将軍は最後の壁として機器が全部ある通信室にいるはずだし)

 マルコも外から軽々と上へ上がっていく。まだ両者がぶつかる事は無さそうだ。



 時々現れる兵士を音もなしに抹消しつつ、浩介は4階にたどり着いた。因みにこの司令部は7階まである。

(今、ここは4階、か。にしてもこの司令部階段が一段一段高いから結構疲れるんだよな。)

 階段に対しいちゃもんをつけながら4階を歩く。しかし、余裕を見せられるのもここまで。闘いはここから本番なのだ。なぜなら、

 浩介が4階と5階を繋ぐ階段を通ろうとした瞬間、ヒュンッと風を切るかの如く、一斉に矢が左右から飛んできたからだ。

(ヤバっ!?な、なんだいきなり、なんかスイッチとか押したっけか俺!?てかマズイ!!スケルトンスーツに矢が刺さったら透明でいられなくなる!!ここは一旦下がらないと!!)

 オリバが授けた特装級の道具、スケルトンスーツは、着ている対象の人物を透明化させる効果がある。しかし、スーツに大きな刺激が伝わるとすぐに破れてしまうデメリットがある。その為浩介は、細心の注意を払って慎重に行動をしていたのだ。

 ひとまず矢の噴射地帯から退こうとした浩介。しかし先程も言った通り、現実は甘くない!!

「将軍の指示通りなら、奴はここにいるはず...!(ガラガラガラ)(シャッターを閉める)」

「あ、おい!テメェ!?何閉めてんだコラァ!?」

(しまったっ!つい声を出してしまった!!)

 なんと影で浩介の様子を伺っていたマルコが4階から3階への階段の道をシャッターで封鎖したのだ。

 そしてシャッターを閉めるマルコに意識を移してしまったために、今までなんとか避けてきた矢に対して遅れを取り、

「ぐっ...!?」

 ついにというか早くも矢がブシュッと弾ける血と共にスケルトンスーツに刺さり、透明化の効果が途切れてしまった。

(見えた...アイツが火を操る一般人か。いかにも熱血って感じがする顔つきだよ...。さて、あとはこの中に殺人ガスぶち込んで終わりかな。...もはや将軍の出る幕もなしってね。)

 まんまとマルコの罠にハマってしまった。もはや、何も打つ手なし。と本来ならそう言って物語を終わらせるのだが、彼には頼れるべき存在である異能がある。したがってまだ諦める時ではない!!

「うおぉぉぉおおぉ!!」

(...?なんだ?今雄叫び的な声は...ていうかシャッター溶けてるよな...?)

 浩介の力強い雄叫びと共にシャッターが熱気に包まれる。紛れもなく彼が出した火だ。

 浩介の出した高火力の火によってシャッターは簡単に溶かされ、ついに浩介とマルコは対面を果たした。

「...オリバの言う通りなら、コイツやっちゃっていいんだっけか」

「君さえ殺せば我が軍は絶対的な勝利を掴める...!将軍のためにここは引くわけにはいかない!!」

 第一回戦、マルコvs浩介。ここに開幕!!


              2


 マルコという実力不明のダークホースを目前とし、今にも戦いが始まろうとしている最中、ドルとオリバは作戦失敗時の尻拭いの準備をしていた。

『...意外と時間、掛かる物なんだな』

「まぁ今頃誰かと戦ってんだら。アイツの火はめちゃくちゃ強いし、そう簡単には負けないだろうけど」

『うむ。何せ私の契約者だからな。あんくらい余裕で倒してくれないと私の顔に泥を塗るから困る』

「お前、そう思ってんなら援護行けよな」

『やだ』

「お前なぁ...契約者だろ?もっと大事にしな

『だが、何か嫌な予感がする』


 火を纏った硬い拳と短剣がぶつかり合う。一見拳が不利かと思われるが、逆だ。むしろ拳が有利だ。拳の周りにある超高熱の火が、短剣の鉄の部分を溶かしているのだ。

 したがって今の戦況は、少なからず浩介が有利となっている。

「...火力は、予想以上、だな」

「へっ...アンタ短剣失ったけど大丈夫か?ま、お子ちゃまみたいな短剣だったけどなw」

「ぐっぬぬぬぅ...うらぁぁぁぁあ!!」

 浩介の煽りをモロに受け止め、何も特徴のない拳で血眼になって浩介に殴りかかる。

「この短剣はッ!じいちゃんのッ!形見なんだッ!馬鹿にするんじゃ...ないッ!!」

「うるせぇ!こちとら国の命運背負ってんだ!テメェの家庭の事情なんか気にしてる場合じゃないしどっちにしろテメェもじぃちゃんと同じ所に行くんだからよッ!!」

「それはまるで僕が君に殺されるみたいな言い方じゃないか!?」

「そうだよテメェはここで死ぬんだよ!ちょっ逃げんなぁ!早く始末しないと作戦が失敗すんだよ!」

 各々の言葉がぶつかり合いながら、浩介は火をマルコに向け放つ。しかし、予想以上にマルコの逃げ足が速いため中々当たらない。傍から見ると鬼ごっこをしているに見えるほどコミカルな絵だ。

「「ハァ...ハァ...」」

「や、やるじゃねぇか。何も能力持ってないのに」

「き、君が火を当てるのが下手なだけじゃないのかい...?」

「お?言ってくれるじゃねぇか。なんなら俺のとっておき、見せてやるよ」

「こ、この期に及んでまさかまだ本気を出してない、とか言うのかい?」

「あぁそうだ。まだ、本気、出してない」

「ハッタリはよせって。そうやって時間を稼いでるんでしょ?なんならこのまま最上階まで行って将軍にやっつけてもら

 この一瞬だった。先程までコミカルな絵だった、この小白戦線対策本部に冷酷で残虐な雰囲気が漂い、荒々しい炎が一人の人間を包み込んだのは。

「...俺、法とかで裁かれないよな...ってここは日本じゃなかったか...」

 生肉が剥がれ、骨のみとなったマルコの頭を脇に抱えながら浩介は呟く。普通日本だったら、殺人を犯すものなら、ソイツはこの先ろくでもない人生を送るほど世間から咎められる。しかしこの世界では戦争が勃発しており、これはその中で起きた出来事。特に咎められる事はない。

「...今の奴、将軍がどうのこうの言ってたな。まだここのトップは生きてんのか...。まぁそう遠くはねぇだろうな」

 業火に包まれた4階を堂々と浩介は通り抜け、5階へ足を運んで行く。まだ将軍には出会っていない、将軍の実力も分かっていない、そもそも女性なのか男性なのかも不透明。

 だが、一歩ずつ、確実に、スワーム大共和国の勝利へと進んでる事を確信しているのだった。


 ~ 第一戦 浩介vsマルコ 浩介の圧勝&マルコ焼け死に ~


             3


 7階。ついにここまでたどり着いた浩介は、目の前にある通信機などの高性能な機器に圧倒されていた。

「な、なんだ...これ。俺のいた地球より技術が発展してやがる...。本当になんなんだ、この世界は」

 HIRIにミニ宿グッズに空飛ぶ絨毯。とても現地球ではなお見えになれない物ばかり揃うもう一つの地球、黒土。一体この星はなんなのだろうかと思いを馳せる。そして何よりプラッシュドール。あのAIが発展したようなロボットがこの星では200年も前に存在していたのだ。現地球では、恐らく1800年代。江戸時代末期、イギリスの産業革命の時代だ。格が違う。

(1800年代の強国であるイギリスでもあの技術力だろ...?マジで変な星だ...意味が分からん)

「機器に発情するのはもういいかね...?火の一般人よ」

「なっ...!?」

(気配が、気配が分からなかった!?)

「どど、どうやって気配、消したんだ...?」

「黙れ機械オタク。貴様が機械に夢中になっている時に近づいただけだ」

 野太い男らしい声を掛けられ振り向くと、そこには、筋肉モリモリで背丈が190cm位ありそうな大男が、浩介の後ろにドンと立っていた。162cmの一般的な筋肉を持つ一般人(足は速い模様)である浩介が、肉体戦で太刀打ちできる相手ではないと一瞬で判断できる程だ。コレがゴビ将軍。小白戦線を仕切る提督。

「む...その脇に挟んでいる骨ね頭...さてはマルコか?」

「マルコ...?あ、もしかしてさっき俺が焼いた奴の事か。いやー”弱かった”ぞ、あいt

「弱い...?偶然貴様がマルコより強かっただけじゃないのか...?」

「ぐっ...がっ...!?」

 次に浩介が瞬きをした時には、既に浩介は地に伏せていた。一瞬で、この浩介が弱いと言った直後に、この大男は浩介を地に伏せさせたのだ。

「貴様がマルコを弱く言うのは気に食わん。奴は死にこそしたが有能な部下だった。ここに司令部を建てることを提案したのはマルコだし、俺が何も言わなくても、効率的な作戦を立て、実践した。もちろん完璧な実績を残して、だ」

「で、でも一般人に呆気なく焼かれた...そうだろ?」

「それはそうだ。しかし、それがマルコが弱いという証拠にはならん」

「ぐあぁ...あ、頭が...」

 浩介の頭では、骨ね軋む音が、メリィ...メリィと響いている。あまり時間は保たない。

「...ここでマルコの仇は確実に取らせてもらう。貴様の仲間が外で待っているのだろう?ソイツらも一緒に天国、いや地獄に送ってやろう」

「こ、このぉぉ...」

 事態の打開として火を出そうとするが、その動作は相手からしたら丸見えだ。案の定一瞬で差押えられてしまった。

「火は、出させないぞ」

「くっ...そぉ」

「では、我が国のため、マルコの仇打ちのために死ぬがよい」

「...っ...」

 ゴビ将軍のがっしりとした右手が浩介の首に触れる。どうやら首を絞めてじっくりと殺すらしい。当然浩介は苦しみ悶える。

「苦しいよな?貴様には、マルコが味わった一瞬の痛みより、じっくりとした痛みの方が似合うと思ってな...。きっと天国のマルコもさぞかし喜んでいるだろう」

(ぐ、ぐるじぃ...!!やばい...マジでやばい!!死ぬ!)

 酸素の通りが悪くなっているため、あと1分もしたら浩介は死んでしまう。手は塞がれて火は出せない。首は絞められているから呼吸が困難。まさに八方塞がりの状況だ。ジタバタしても全く意味がない。

 50秒40秒、20秒15秒、と死へのカウントダウンが刻まれる。それに伴い、だんだんと浩介の目に輝きが失せていく。頭も真っ白でただ一心に、

(何で俺は異世界コッチに来たんだ?俺は結局何もできなかったな...)

 と、後悔の念を思うだけ。10、9、8、7、

(勝ったな...これで我が国は完全な勝利を掴める...!)

 6、5、4、3、2、

(マルコ、お前の仇は打ったぞ...)

 1ッ!千布浩介の人生は幕を、

(我が軍の勝r


「ごぶぅ!?」


 下さなかった!!突如として将軍は背後から銃弾と火弾を受けたことで壁にぶっ飛び、そのせいで折角千布浩介をあと1秒で殺せたであろう右手を放してしまったのだッ!!

「.........グフッ、ゲッホゲッホ!!...ハッ!?ここは、天国!?いや、違う、何で生きてんだ俺ェ!?」

 咽せながらも呼吸を整え、辺りを見回す浩介。自身の右には、さっきまで自分を殺しかけていたゴビ将軍が。そして左には、

「お、お前ら!?な、なんで」

「うるせぇな死に損ない。ドルがお前の事が途中で心配になってよ。んまぁ行って良かったな?ドル」

『黙れ。何か不吉な予感がしただけだ』

「お前らなぁ...」

 浩介の信頼できる仲間がいた。浩介にも元の世界にいた時とは違って、自身を気にかけてくれる仲間が2人もいるのだ。しかも、これからドンドン作れる。

 一方、銃弾と火弾に弾け飛ばされたゴビ将軍は、瓦礫に押しつぶされていた。

「あ、あり得ぬ!!俺は勝ってたんだぞ!?あと1秒でッ!!ていうか元々勝ってたのに!!」

「うるせぇよ発情期のサルか、お前」

「んなっサル!?」

『そうだな、サルだ』

「ふ、ふざけるな!!俺は勝ってるんだ!!お前らも本気になれば一握りつぶせ

「『だから』」

 サル、もといゴビ将軍の発言を遮った上で2人はサル以上の叫びでこう返した!!



「『いつから勝ってたと妄想していた、このド変態サル野郎ッ!!!!!』」



 形成逆転。さあ、くそったれサル将軍を潰そうじゃないか。

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