遅刻魔と奇抜な作戦
1
小白。そこはスワーム大共和国に存在する街。果物野菜肉といった食料の生産が盛んで、食料を求め多くの人々が集まる。しかし、そんなのどかな街も今となっては...
「...綺麗な街並み、か。今や完全に火の海だがな」
戦争の最前線となっていた。
燃え盛る炎や、たまに飛んでくる鉛玉を避けながら浩介御一行は街を突き進む。
「んで千布浩介。戦線布告した割には全くといっていい程攻撃してないじゃないか」
「ふふふ...そんな事はないな。一応俺だって策は考えてあるんだからな」
「ほぅ?聞こうじゃないか」
浩介はドヤ顔で言った。
「今から近くの敵司令部を叩く」
「ふざけんな死にたいのなら勝手に死にやがれ」
「待て話しを聞くんだ。まず質問だが、何故スワーム軍がこんな自国の領土で苦戦を強いられていると思う?」
唐突な質問に一瞬戸惑ったオリバだったが、気を取り直し答えた。
「ロンリー軍の規模が大きかったり、物資の品質があっちの方が良いからなんじゃないのか?」
その回答に浩介は頷く。正解かとも思われたがそうではない。
「いいや違うね」
「じゃあ何だよ」
「指導者だよ」
「指導者...?」
「良い軍隊を率いている人は皆優秀な人なのが相場だ」
「あっ...じゃあ指導者が多数いる司令部を叩けば...」
『敵軍は指導者が滅されどうすれば良いか分からず混乱...というわけか』
「で、混乱している内に一気に畳み掛けるって感じだな」
「お前、割と考え方がクズ寄りだな」
「何とでも言いやがれ...とにかく行くぞ」
作戦が練り上がったところで敵司令部へと向かう浩介とオリバ。しかし、ドルはその場を動かない。よく見ると、ドルは呆れた表情を浮かべ浩介らをジッと見つめている。
「...どうしたドル。一刻も早くしないと遅れた分だけ民間人が死んじまうんだぞ」
『いやお前らはそう言うけどな、肝心の敵司令部はどこにあるのか知ってんのか?』
「「あっ...」」
『おい』
冷や汗ダラダラに流しながらドルからジリジリと後退するマヌケ二人。
『どうすんだ。確かにお前の案は、ちと卑怯だが効果的だ。だが、司令部が分からん以上何もできないぞ』
「そ、それは...」
「...仕方ない、この手は使いたくはなかったんだがアホ面晒して死ぬよりはマシだ。このオリバ大佐に任せろ」
『なんだ?敵司令部を見つける手段があるのか?』
「あるにはあるんだがな。少々時間を取るんだよ」
そう言ってオリバは先程使った、HIRIを取り出し、命令した。
「HIRI!小白周辺に発生している通信電波の中で、スワーム大共和国には存在しない通信電波を発信している所、つまりは敵司令部を探し出せ!」
[...少々お待ちください]
「具体的にどのぐらいかかる?」
[...推定1時間だと想定されます]
「1時間か...よし、千布浩介。やることがないし、ひとまず俺たちは戦場へ向かうぞ」
「あ、別に構わないんだが...」
「ん、どうした?」
「いや、その、何でさっきHIRIを使う前に、この手を使いたくはなかった、って言ったんだろうって」
「あぁ...そんなことか」
オリバは意外に長い前髪をそっと上げ、額を見せた。
「こんくらい便利だとな、それ相応の代償があるってもんだ」
彼の額には、血管から噴き出したであろう血液が音もなしに垂れていた。
2
「チッくそ!弾薬の補充はまだか!虹来からの援軍はどうした!?」
「どちらもまだです!このままでは押し切られます!」
「んなもんは分かっている!」
ピリピリと立っているだけで感じそうな戦場で、兵士達はロンリー軍を相手に銃を構える。しかし、この場もそう長くはもたないだろう。なにせ相手は普通の兵士にプラスして怪物を混ぜた混合部隊なのだ。それもとてつもないコンビネーションな攻勢を常に仕掛けている。
「ぐっ...ここは限界かもな。」
「私たちの部隊も半壊しています。ここは引きましょう...ん?」
「どうした?早くしないとまずいんだが」
「いえ、敵軍の方で爆音が聞こえたんですが」
二人が撤退について話している中、一つの爆音が周辺というか敵軍の方で鳴り響いた。
「気のせいだろう。何せ今は私たちが攻められているのだぞ?防御に専念している私たちが、敵軍の中心に爆弾を放り込む余裕などないしな」
「で、ですよね」
明らかに爆音が聞こえたのだが、攻められ側の自分たちにそんな事をする余裕などない、という事でなかったことにしようとする。
が、しかし、またもや爆音が耳の奥まで鳴り響いた。しかも今度はもっと大きく、さっきよりも近くで。
二人は見つめ合い、無言で何が起きているのかの確認に向かう。爆音の音源に近づくにつれて兵士の悲鳴が聞こえてくる。一体何なんだろうと様子を伺うと、
「フハハハハハハハハ!!俺、最強!!燃やせ燃やせ!逃げろ逃げろ!フハハハハ!」
『これを見てると、どっちが攻められてるのかが分からなくなるな...』
「あぁ...今のあいつは単なる放火魔に過ぎんよ」
攻めていたはずのロンリー軍らが一人の放火魔によってギッタギタのボッコボコにされていた。
敵司令部の場所が判明するまで1時間。やる事がなかった浩介御一行は、近くにいたロンリー軍の部隊を襲撃していた。ドルやオリバが手を借す間もなく、浩介は片腕に炎を纏いながら一人で特攻していった。
「ブハハハ!!はーっはっはっはっはぁぁぁぁ!!やっべぇぇ!!アレだアレ!そう!人がゴミのようだ!的な!」
「「「うわぁぁぁ!?」」」
「「「に、逃げろぉぉ!!」」」
「な、なんだアイツ!?なんで手の平から炎出てんのぉ!?うわっまた来たぁ!!」
『すまない。ウチの契約者がこんな戦闘狂ですまない』
「あ、あぁ。い、一応大佐だが、こんな一方的な戦場は見たことないよ」
「おいお前らも攻勢に参加してくれ!ちょっと一人じゃ軍隊ぶっ潰すの面倒だからさ!」
『...あの脳筋も言ってるし...私たちも時間潰し、しますかね』
「へーい」
結局その後敵部隊は崩壊し、御一行の程良い時間潰しとなった。
そして1時間たった。
[解析が完了致しました]
「おっ。来たな。で敵司令部はどこなんだ」
[敵司令部は小白から北東に進んだロンリー大帝国にある小規模の街、「フト」にあります]
「...だそうだお前ら。できれば敵部隊が壊滅し、敵側に混乱がもたらされた今この時にフトに行きたいんだが構わないな?」
『別に構わん』
「おい作戦を立案したのは俺、つまりリーダーは俺だぞコラ。勝手に仕切んなミスター裏口」
一部理解し難い反応をした者がいたがおおよそ大丈夫なようだ。
各々の反応を確認したオリバは、彼らに背を向け敵司令部が点在する街、フトへと足を運び始めこう言った。
「行くぞ。我が主ルピー王の名にかけて、絶対に敵司令部をぶっ潰し、ロンリーのクソ野郎共に引導を渡そうではないか!!」
「いやだから作戦を立案したのは俺だし、そもそもお前ここに来る道中ほとんど役に立ってないし、むしろ俺らに迷惑かけてただろうが」
「立場上はこのオリバ大佐の方が偉いんですぅ!!」
「黙れミスター裏口。階級とかいうもんより世の中実力主義だっつーの。すなわち明らかにお前より実力が上な俺が偉いんだよ!」
「んだとぉ!?」
『...はぁ』
このメンツで本当にうまいこと敵司令部がぶっ潰せるのか不安になる今日この頃のドルであった。
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