遅刻魔と宣戦布告
1
王城を出発して早5時間。浩介、オリバ、ドルは謎の絨毯に乗って小白を目指し、砂漠を横断していた。
「...なぁ軍人」
「面倒だからオリバと呼べ。で、何だ?催して来たのか?言っとくが、ここは砂漠だからトイレは無いぞ?やるんだったら、俺が盛大に声出して万が一のために排泄音を掻き消してやるが」
「ち、違うわ!何で空飛ぶ絨毯があるんだって聞こうとしたんだよ!」
『...浩介。ここはお前にとっては異世界。ここの常識とそっちの常識は違うのだぞ』
無論この世界には車とかいう便利な物はないので、こうして謎の絨毯に二人(+一体)してぎゅうぎゅうになって座っている。
周りを見渡しても浩介がいた地球のサハラ砂漠と同じ光景が続いている。もっとも彼はサハラ砂漠は勿論、ヨーロッパ、アメリカにすら行ったことがないのだが。
たわいのない会話を数時間続け、気づけば夕暮れ時になっていた。
「千布浩介、そろそろ辺りが暗くなる頃合いだ。そこのリュックにある王から貰ったミニ宿グッズを出してくれ」
「ミニ宿...グッズ?」
「一見見るとおもちゃに見えるんだがな、実はそれは、地面とかに投げると一瞬で宿を作る優れもんなんだよ。しかも露天風呂付き」
「へー中世な街並みしてるくせに、そんな革新的な物があったのか」
「お前それ褒めてんのか?」
「ほ、褒めてるな...うん」
「嘘つけ!絶対そう思ってないだろッ!...まぁ良い。で千布浩介、ミニ宿グッズを早く出してくれ砂漠の夜は寒いんだよ」
「あぁ今探してるっての........あれ?お前本当にそのミニ宿グッズ入れたのか?」
「当たり前だ。王から貰った物だ、入れ忘れるわけないじゃないか」
浩介の額に冷や汗が垂れる。リュックの中をこれでもかと手探りで探しても、リュックを逆さにしてみても、お目当てのミニ宿グッズは出てこない。
「な、無いんだが?」
「は?お前何言ってんの!?そういう冗談はシャレになら...んぞ...」
オリバも浩介の冗談ではなく、本当に入れてあったはずのミニ宿グッズが無い事に気づく。
オリバと浩介が慌てながら足元やポケットの中を探している中、ドルが申し訳なさそうに言った。
『...ってかれ...』
「...?どうしたドル?何か知ってんのか?もしかしてお前が持ってんのか!?」
『持ってかれたのだ!お前らが気づかない内に怪物に持ってかれたのだよ!!』
「「はぁ!?」」
2
ドル曰く、オリバと浩介たわいのない会話をしていた時に、一瞬黒い物体がリュックの近くを通った。その時ドルはミニ宿グッズの存在は知らなかったので特に気にしていなかったが、オリバがミニ宿グッズの話を持ち出した瞬間、黒い物体(=怪物)がミニ宿グッズを取って行ったのだと確信した。
「...何せあのグッズは神装級の代物だからな。怪物が狙っていても変じゃない」
とミニ宿グッズとそれを奪った怪物を探しながらオリバは言う。
「神装級?」
『浩介はまだ知らなかったな。この世界のあらゆる物には、その物の価値を定めるためにつけられる階級がある。まず並装級。これは普通の物、例えるならば、肉や魚、野菜果物などのあらゆる食料や、鉄金銅などのお前の世界でいうレアメタルを除いた金属類が含まれる。その他にも、上装級、特装級とかがあるが、神装級は階級の中で一番上の階級でな。王族のみが扱える伝説の武器や、伝説の魔獣を封印するための道具とかが含まれる特別な階級なんだよ』
「じゃあ神装級のミニ宿グッズを奪われたこの状況ってだいぶまずくないか?」
『そりゃあそうだな。まずい状況だ』
「お前ら喋ってないで、奪った怪物を探すぞ」
「...にしてもどうやって?怪物をこのバカ広い砂漠から探し出すのは難しいぞ?」
「簡単だ。これまた神装級の代物だが、使わなきゃ取り返せないしな」
「?」
オリバは胸ポケットから小さなキューブ型の何かを取り出し、話しかけた。すると、
「おいHIRI!ミニ宿グッズを奪ってった輩はどこだ!」
[はい。ここから北西2キロ先にあるオアシスで水を大量摂取しています]
現代世界のs〇riみたいに完璧な返答をした。
「おいそれって!!」
「ん、なんだHIRI知ってんのか?こいつ個人的には神装級の道具の中で一番日常生活で使える道具だと思うんだよなぁ。たまに変な回答するけど」
「...なぁドル」
『...なんだ』
「...この国っていうか、この世界は技術も世界観もめちゃくちゃだな」
『何を今更』
実際、伊達に神装級と言われるだけあって、HIRIの言っている事は本当だった。
といいわけで現在は、日が沈んだ暗闇の中、先程の場所から北西に2キロ離れた所にあるオアシスにいる怪物を、浩介とドルが少し離れた岩陰で観察している。因みにオリバはというと、これまた違う岩陰で怪物を観察している。
岩陰に隠れている浩介は、ドルにひっそりと話しかけた。
「一応言うが作戦の内容は分かっているな?」
『あぁ。分かってはいるが、私が勘違いをしているかもしれん。宜しく頼む』
浩介は軽く咳払いをして続けた。
「まず見えにくいが向こうにいるオリバが怪物に近づく。勿論怪物はオリバに気づき、オリバに攻撃、又は警戒をするだろうから、その隙に俺たちが一気に接近して奴を倒すって感じだ」
『ふむ、ちと作戦と呼ぶには単純すぎるが、何せまともな光源は月の光だけだからな。これが妥当か』
「炎を出して光源を確保しようとしたら、怪物は真っ先に俺らに気づくわけだしな」
『...よしやるぞ』
浩介は無言で頷くと、微かに見えるオリバに向けて手で合図を送る。見えていないかと心配をしたが、向こうも同じ手の動作をしている。どうやら見えていたようだ。
その数秒後、オリバは中腰の状態でゆっくりとした足取りで怪物に近づき始めた。まだ怪物は気づいておらず、呑気にどこかで捕らえたであろう動物を喰らっている。一歩、また一歩と着実にオリバは怪物に近づいて行く。全てはミニ宿グッズ、いや、その中にある露天風呂のため、彼は勇気を出し近づく。
そして、
「こっっっの、ブサイク脳無しアホ丸出しの脳筋野郎!!かかって来やがれクソ野郎!!!!」
言った本人の鼓膜を破るレベルの叫び声を発した。直後怪物はオリバの発した大声量に反応...!
「わーっ!!わーっ!!おおお、お助けー!!」
「おまっ!?こっち来んなよ軍人!」
...したはいいが、怪物にビビり逃げようとオリバよりも素早かった怪物は、オリバが逃げるよりも先に即座にオリバのたくましい(?)尻にかぶりついていた。
「ハァ...ハァ...た、助かったー。ありがとな」
「お前が怪物にビビって速攻で逃げなければこんな事にはならなかったんだからな」
『貴様本当に軍人なのか?階級はどの位だ。まさかその臆病さで少佐以上なわけないよな...?』
「あ、その、大佐...です」
「さては裏口入学だな貴様」
「違うわッ!!」
こうして長い夜の闘い(笑)が幕を下ろした。
3
怪物の神装級窃盗事件から数日。ようやく砂漠を抜けた浩介御一行は小白の目の前まで来ていた。
「小白からまぁ離れてるけどすげぇ銃声聞こえるな...」
『そりゃ激戦区の一つだからな。熾烈な戦闘が繰り広げられてるわけだしな』
遠くにある小白の街並みからは爆発音や銃声がエンドレスに鳴り続けている。
これは急がなければと思った御一行は、急いで小白の入口である正門へ向かった。
「む?君達分かっているだろうがここはとても危険だ。今すぐ離れな
「何を言う。援護に来たんだぞ」
「ななっ!?オリバ大佐!?すみませんでした!どうぞお通りください!」
門番の兵士に通行を止められたが、それを予想していたかのようにオリバが身分証明書的なカードを颯爽と取り出し、門番に正門を通してもらった。
『「.....」』
「な、なんだよ」
「そりゃあ...なぁ?」
『うむ』
『「裏口入学のくせに身分の差を見せびらかすのはダメだろ」』
「だから違うって何度も言ってんだろ!?俺はしっかり専門学校から軍に入ったんだからなぁ!?」
王の派遣命令から数週間。道中面倒事に巻き込まれたものの、ようやっと小白に到着した浩介御一行。しかし、笑っていられるのも、ふざけていられるのもここまで。ここからは血と鉛玉と悲鳴が混雑するこの小白で激しい戦闘をこなさなければならない!!
「ふぅ...それじゃあお前ら、行くぞ」
「下っ端が偉そうにしてるのは腹が立つが今はそれどころじゃないしな...了解した」
『裏口入学野郎にそんなこと言える権力など無いがな』
「チッ...もうそれで良いよ」
『やーいやーい。う、ら、ぐ、ちー(棒)』
「ごめんなさいやめてください、裏口じゃないんでマジ勘弁してください!」
「うるせーぞお前らッ!!こっからは戦場だ。ヘラヘラしてたら鉛玉が当たるぞコラ」
「『すんません』」
フッと心の中で浩介は笑う。自分は変わったなと。浩介は思った。異世界で遅刻魔の称号を背負う必要がないんだと。
(やってやろうじゃねぇか...この異世界で、俺は、非凡になってやるさッ!)
遅刻魔のレッテルが剥がれ、自由の身となった一人の男子高校生は、
「っっしゃぁぁぁあ!!戦線布告だロンリー大帝国ッ!!今からこの千布浩介が、テメェらの身体と心に絶望のインクを塗ってやるからなぁぁぁぁあ!!!」
非凡になるため、与えられた試練を突破するため、ロンリー大帝国に対し戦線布告をした...!!
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