遅刻魔と契約
1
『もう奴らはこの世界に来ることは無いだろう。お前が力の差を見せつけてくれたからな』
プラッシュドールは満身創痍の状態で、複雑な表情をしている浩介に話しかけた。
『助かったぞ千布浩介』
「...あぁ」
『お前には悪い事をした』
「...?お前、何か俺に悪い事したっけか?」
『......お前は私と契約を交わした以上、私達の世界へ行き、戦争を終わらせなければならない』
「そうか....そうだったな。元は、お前は俺を異世界に連れて行くためにこっちに来たんだなもんな...」
成り行きだったとはいえ、浩介はこのプラッシュドールと契約を交わしたのだ。
「...ちなみに今すぐに契約解除はできるのか?」
『...できるにはできるが、その場合、お前の身体の保障はできん。何せプラッシュドールは王族だけが契約できた物だったからな』
「...なるほど」
『...?どうした?元気がないな、お前』
「うぇっ!?あ、あぁ、いや、だだっ大丈夫だ...ぞ」
『嘘つけ。お前明らかに動揺してるじゃないか』
「うぐっ」
プラッシュドールでも分かる。彼と初めて出会った時、彼はこんなテンションではなかった。もっと彼は陽気でリアクションが大きかったはずなのだ。しかし、今はというと、まるで何かに迷っているかのようにオドオドしている。一瞬別人か?と疑うほど様子がおかしい。
しばらくの沈黙があった。その間浩介は目を四方八方に動かし、口をモゴモゴさせながら、非常に迷っているような、困っているような表情を浮かべプラッシュドールの前に佇んでいた。
(異能力で異世界のうん千万人の人々を守れる。だけど、その代わりにこの世界から離れる。嫌だッ!そんな事!
でも、契約を破ったら破ったで身体の保障はない。一体どうすればいいんだ...?.......どうしよどうしよどうしよどうしよ)
『おい、本当に大丈夫か?さっきから宇宙人と交信してるみたいに表情が死んでるんだが』
「...」
『こ、コイツ...表情が死んでるじゃない。気絶してやがる...』
浩介は泡を口から大量放出しながら、地面に倒れ込んだ。
2
夢の中で浩介はふと思い出した。ヒーローとは何かを。
「なぁおじいちゃん、ヒーローって何?」
「ん、どうした浩介。ヒーローって言うのはな、いろんな人たちを助けたり、人々から笑顔を作ったりできる、みんなの憧れのことを言うんだよ」
「へぇー!僕もそのヒーローになるには何すればいーの!?」
「何するか、ねぇ...」
祖父は右手を顎に添えながら考えていた。やがて祖父は言った。
「守りたい物を命懸けで守ること、かね」
浩介は夢の中で目を見開いた。
(何で、俺は、自分の都合と人々の命を釣り合わせようとしていたんだ...?
俺は人々を守りたいんだろ!?なら悩む必要はないッ!)
そう決心した瞬間、視界が真っ白になり一気に浩介は現実世界に引き込まれた。
「ハッ!!」
『おっ起きたか。しれっと気絶するもんだからビックリしたぞ』
「今のは...お前の術か?」
『いきなりお前は何を言っている。私は何もしてないぞ...なんだ?夢でも見たのか?』
「...あぁ。お陰様で、大事な事を思い出せた」
『何をだ?』
浩介は背中についた砂を払いつつ、夢の中で言っていた祖父の言葉を、そっくりそのまま言い放った。
「ヒーローになるには、守りたい物を命懸けで守るって事を思い出してさ」
『ふむ。で、お前にはその守りたい物があるのか?』
「あるさ。俺は異世界人たちを守りたい。...そのために、だ」
浩介はニカッと笑い、言った。平凡な高校生と、非凡な高校生の分岐点となる言葉を。
「俺はお前に協力する」
『...いいのか?もうこの世界に戻れないかも知れないんだぞ!?』
「俺の都合何かどうでもいい。ただ、俺はこの目で見たんだ、人が苦しむ様を。絶対に苦しませたりさせない。俺が異世界に行って、お前の国から笑顔を取り戻してやるよ」
『お前.......!!いや、相棒!』
「さすがに相棒呼びはやめろ。馴れ馴れしくて気色悪い」
3
晴れて、浩介とプラッシュドールは正式に契約関係となった。そして浩介は平凡な高校生から脱却した。
『...あぁ、私だ。今から契約者を連れて黒土に戻る。王に伝えといてくれ。...フゥ、ん?なんだ?どうした相棒?』
「だから相棒呼びはやめろって...。で、その黒土って何だっけか?」
『黒土っていうのはな、わかりやすく例えると、この地球見たいな惑星って感じの惑星だな』
「あ、あぁ!!決してお前のほら話じゃなかったんだな!」
『なんか腹立つからあまり喋らないでもらえるとありがたいのだが』
そんな会話をしていると、突如、浩介の真隣から謎のゲートが現れた。そこから、ちっさい軍服を着たプラッシュドールが出てきて、浩介が契約した方のプラッシュドールに話しかけた。
『ドル様。緊急の為、今すぐ帰ってもらいます』
『わかった。おい、浩介。行くぞ』
「え、あ、もう行くの!?早すぎるだろ!?まだ心の準備が...」
『こっちは戦争中なんだ。待ってる暇なんかない。ほら、早く来い』
「...仕方ないなぁ。母さん、怒ってそうだな」
そう文句を垂れ流しながらもゲートに足を進める。しかし、急に浩介はあることに気づき足を止めた。
「お前」
『ん?なんだ早くしろと言ってる
「名前、あったんだな」
『当たり前だわ!!んなことで足を止めるな!早く来いッ!』
そう言ってドルは浩介の手を無理矢理引っ張り、異世界の門へと招き入れた。
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