30.100年に一度の開花

「なんだこれはっ!」

 仮面女は驚愕した。


「はぁぁ!?!?!?」

 ファンダは唖然とした。


「これが、ランジェの力……」

 クウは呆然とした。


「……綺麗……」

 ナツは感銘を受けた。


 突然、小山のありとあらゆる花が咲き誇った。まだ芽吹いたばかりの植物も、名も無い雑草も。すべて例外なく、である。


(成功だ)


 俺の筋書き通り、この山肌に生える植物すべてに、能力が行き渡った。

 植物は無理やり花を咲かせようと、体をうねらせた。

 開花するのに最適な格好に、一度に成長しようとしているのだ。


「……っく! なんだ! 魔物の仕業かっ!!」

 仮面女は未だに、理解が追いついていないようである。俺たちのいる場所は、突然成長した植物によって、鬱蒼とした草むらへと変質させた。

 丈の長い草が、いい感じに目隠しになっている。


「みんなっ、牢屋の中に逃げろ!」

 俺は、声を張り上げた。能力を調整して、さっきナツが投げた牢屋への道筋だけは、植物が生えないようにしていた。


「たかが植物がっ! くそっ!!」

 女は曲刀を振り回し、雑草を刈り始めた。しかし、雑草の生命力は凄まじく、刈られるたびにさらに丈を伸ばさんと生えてきた。


(無駄だよ、俺の力で『花が咲くまで成長は止まらない』!)

 さらに、女の足元からツタ科の植物が生えてきた。ツタが仮面女たちに絡みつき、思うように身動きが取れない。


「こ……これは……」

 あまりに常識外れな現象に、女はたじろいだ。気絶していた奴隷商人たちも目を冷ましたが、生い茂る植物に囲まれ身動きが取れない。


 その時、大地がうねり、大きな地響きがした。

 異常な速さで成長する植物の根の動きに、地面が軋んでいる。地下深く、山肌全体に地下茎を這わせている、あの植物も動き始めた。


「100年に一度の開花だ。よく目に焼き付けとけ」


 竹林ブランチーの花が開花した。俺も初めて見た。

 稲穂のように先端が垂れ下がり、クリーム色に染まっている。ごく小さい花が無数に集まっているのだろう。


「……綺麗……」

 つい、ナツの口から感想が漏れる。


(……)

 しかし俺は知っていた。竹の花が咲くと、何が起こるのか。


 そうこうしているうちに、俺たちは馬車の前まで来た。牢屋の入り口の鍵は無く、中に入ることができた。


「ナツ! 頼む」

「あっ、はいぃっ! 何でしょう!?」

 花の可憐さに見惚れていたナツは、抱いていたクウとファンダ(オマエは歩け)を牢屋の中で下ろした。


「プロテクションだ! 牢屋全体に! 俺たちを守れ!」

「は、はひっ!」


 言われるがまま、檻の中でプロテクションを詠唱し、発動させた。

 あとは彼女の、魔力残量と根性にかかっている。


「なめんなっ!」


 俺たちに剣を突き立てんと、女は茂みから抜けだそうとしていた。が。とある事情が彼女の動きを止めさせた。


「なん……だ」

 女も気がついた。

 先程から、地鳴りが止まらないのだ。


「おい! なんだよこれ!」

「ファンダ、落ち着いて」

「頼むぞ、ナツ」

「ひ、ひええええ??」

 及び腰なナツに活を入れ、そして、牢屋の外にいる奴らに向かって大声をかけた。


「知ってるか!? ブランチーが花咲くとき、何が起こるか!?」


 俺の世界に生えている竹と、寸分違わない植物。

 小山に根強く張ったブランチーは、山肌に地下茎を這わせている。

 そして竹は、花が咲くと、一気に立ち枯れるのだ。


 俺の開花宣言を全力でぶつけると、花は咲く。

 多くの植物は、花は散り、実が成り、子孫を残し、枯れる。


「全力全開で花開かせたから、普通よりも『枯れやすい』」


 竹以外の植物も、芽吹き、咲き、枯れた。枯れた植物は根が腐り、脆くなる。植物が亡くなれば、地下水も吸い上げられることがなくなり、地盤が一気に緩くなる。

 そうなると山肌には何が起こるのか。先ほどから収まらない地鳴りが、全ての答えだった。


「地滑りだよ」


 その刹那、地鳴りは地響きと変わり、山は激しく揺れ、崩れ、滑り落ちていった。



 俺たち全員を巻き込んで──。

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