第4話避けられない試練
「ハァハァ、ゼィ……リ、リステリア様、陛下は?」
ふくよか身体を揺らし息を切らせて部屋に駆け込んできたリーゼさんは、部屋にいるはずの人物を探して事情に明るいだろうリステリアさんに声をかけた。
「さっき兄上が連行して行きましたよ」
そんなリーゼににっこりと微笑みながらリステリアさんは楽しそうに答える。
先ほどの様子よりも若干顔色がいい。
よ、よかった~。
「宰相閣下もいらっしゃったのですね。 良かった、シオル様を連れて陛下が飛び出して行かれて追いかけたんですけど。 やはり殿方は速いですね、追い付けませんでした」
アルトバールさんの脚が速いのは、抱かれて確認済みですよ。
ついでに振動も凄かった。
「ふふふ、まるで王太子時代の陛下を見ているようでしたわ」
へー、父様昔からシリウス伯父様に引き摺られてたのかな。二人とも容姿は良いのでさぞ二人並べば見応えがあっただろう。
中身はどうあれ、美男子が二人でじゃれてるとか、もと腐女子っけがあった私的には是非とも写真に納めたかった!
カメラがないのは痛いわー、せめて絵を描く才能があれば妄想だけでも絵に起こせたのに!
「シオル様は産まれてからまだ何も口にされておりませんから慌てましたわ」
そう言えばひもじいかもごはん! ごはん!
「リステリア様、体調が宜しければ初乳をお願い致します。 授乳は乳母でも可能ですが、初乳ばかりはそうもいきませんので」
うっ、やっぱりオムツ同様避けられないかぁ。
はぁ、やっぱりミルクですか、粉ミルクなんて物は無さそうだし、仕方がないのかなぁ。
抵抗感あるわ~。
「わかりました、シオル。 あんまり出ないかも知れませんが、後で乳母にたくさん貰ってね」
リーゼと他の侍女達が、プライバシーを配慮してか扉に鍵を掛ける。
「ふにゃー(頂きます)」
さて、さて。 差し出された羨ましい程の豊満な美乳の乳首を口に咥えてみたのは良いものの困ったぞ、吸い方がわからない。
咥えたまま一向に吸わない私に、リステリアは首をかしげると頭を撫でてきた。
「シオル?」
「どういたしました、リステリア様?」
「吸わないのだけれど……」
困惑しますよね、そりゃ。 どうしよう……。
「そういうときは」
リステリアさんが人差し指を立てると私の口許を開かせて乳輪まで咥えさせると頬っぺたをつついた。
「あっ!吸いだしましたわ。 リーゼは本当に物知りね」
乳児の本能なのか、反射で飲めている。 あんなに悩んだのに一体なんだったんだろう。
今世で始めて口にした母乳は、牛乳と違い甘味と鉄のような味がした。 改めて飲んで見ると不思議な味だった。
我ながら思っていたよりもお腹が空いていた様で必死に吸い付く。
「伊達に五人も子供を育ててはおりませんから」
五人も! 前世では珍しい人数だ。 年々出生率が低下する日本で、その一因を担っていた私には驚愕の人数だ。
「失礼します」
部屋の扉を叩いた来客ははち切れんばかりのバストの女性だった。 先ほどリーゼさんが言っていた乳母の女性らしい。
「お疲れ様、シオル様にミルクを差し上げてくださる?」
「はい、私で宜しければ」
よろしくないです! 母乳ってだけでも抵抗が凄いのに! 他の方から頂くなんて! その母乳はあなたの子供の為の母乳でしょう!
「シオル様どうぞ」
うおっ! 前世の自分のまな板具合を知っている自分としては、羨ましいほどの巨乳を口許にあてがわれた。
「シオル様?」
遠慮します! 全力で遠慮します! 口を真一文字に引き結び食い縛る。
「あらあら、駄目ですよちゃんと飲まないと」
リーゼさんに頬をつつかれても口は開けません! その乳はその人のお子さんの乳です!
「困りましたね」
飲まない私と飲ませたいリーゼさんとの我慢比べは、私の勝利でした。
「シオル? どうしたの? 飲まないの?」
リステリアさんの腕に戻されたのでとりあえず甘えてみようと思います。
正直赤ちゃん生活はむちゃくちゃ恥ずかしいですが、羞恥プレイも一年の辛抱。
リステリアさんが試しに口許に胸をあてがってくれたので遠慮なく頂きます。
まだ産まれてから時間がたってないせいかほんの少しずつしか出ないけど背に腹は変えられん。
「うーん、リステリア様のはきちんと吸いますね」
私の必死な様子にリーゼさんは腕を組んで悩んでます。 だってさー、抵抗感半端ないんだから仕方ないじゃん。
「産まれたばかりで人見知りですか、手強いですねー。 この頑固さは誰に似たのでしょう」
リーゼさんの呟きにリステリアさんはクスクスと笑っている。
えっ誰か心当たり有るの?
「きっとあの人ですわ」
ぶえっくしゅ!!
ほぼ変わらない時に、この国の宰相閣下でリステリアさんの美形兄シリウス伯父様が執務室で盛大なくしゃみをしたことは後日判明した。
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