第22話:剛力君が遅れている理由とは!?
私と心太には、剛力君が何となく遅れているように感じただけだけれど、魔法使いである斎藤ちゃんには明確に彼の遅れが見えるようね。
それを証拠に。
「はぁ」
斎藤ちゃんは小さくため息をついて、後方にいるであろう剛力君へと声をかけた。
「だから言ったでしょう、剛力君!ちゃんとした鍋を準備しないと、いつまでもみんなに遅れてしまうことになりますよ!」
「それこそ何回も言ってるじゃんか!俺は、この鍋を乗りこなすつもりなんだって!!」
(あ、剛力君、斎藤先生にはちゃんと答えるんだ)
心太の言う通り、剛力君、今は素直に答えたわね。
心太とは目も合わせようとはしないのに。
まぁ、今はお互いに姿が見えないから合わせようとしても目を合わせるなんて不可能なんだけれど。
(余計な事言うのやめてもらっていいですか!?)
ちょっと心太、こっちにまでツッコむのいい加減やめてもらえないかしら?
(昨日からちょくちょく生徒にツッコむようになってるから、ここでツッコんでツッコミ欲を晴らさせてもらうことにしたの!)
なによ「ツッコミ欲」って。っていうか、それって意味あるのかしら?
むしろ心の中でそんなにツッコんでいたら、表にも出てきそうじゃない?
(いや、だったらその下手な物語をやめてくれればいいんだけど!?)
あら、藪蛇みたい。
もうあなたの好きにしたらいいわ。
(はいはいそうさせていただきますよ!!)
姿が見えないことを良いことに、心太はその場でジタバタしながら私へのうっ憤を晴らして頭を切り替え、斎藤ちゃんのいるであろう方向へ顔を向けた。
「斎藤先生、剛力君が遅れているのには、何か理由があるんですか?」
「はぁ~・・・」
(ため息ついた!斎藤先生、僕からの質問に剛力君のときとは比べ物にならないくらい深いため息ついたよ、クー!!)
ちょっと、こっちに話を振らないでよ。
まぁ確かに、あからさまなため息ではあったけど。
それでも斎藤ちゃん、無視はすることなく説明してくれるみたい。
「あなたが今どうやって飛んでいるのかは知りませんが、我々魔法使いは道具を使って空を飛びます」
「箒みたいに?」
「えぇ。ありきたりな考え方ですが、そうですね」
(え、ありきたりとか言われたんですけど、クー)
もう、知らないわよ。
「偉大な魔法使いたちは皆、箒を使っていたそうです。実際に、ミエさ・・・理事長もそうですから」
(いやそれならばなぜ、ありきたりとか言う)
心太、もう普通に心の中でだけど斎藤ちゃんにツッコんでるわね。
「しかし近年は、より身近なものを使うようになりました。箒であれば飛ぶ際にほとんど制限はありませんでしたが、身近な物を使用する場合には1つ、大きな制限があります」
「制限?」
「はぁ~~~~~」
(いやそこまでためておいて、ため息はないでしょ!?)
「身近な物を使用する際には、それらの物が本来の使用も出来る状態でないと、飛行の力を最大限引き出せないんです」
「え~っと・・・剛力君は中華鍋を使っていたと記憶していますが・・・彼の中華鍋は確かに穴だらけでした。それだと、本来の料理には使えない。だから本来の飛行の力を引き出せず、遅れている、と?」
「はいはいそうです」
(この人『はいはい』って言った!もう、僕への態度がどんどんひどいことになってるよ!!!)
心太のツッコみも、どんどんひどいことになっているわね。
(あれ?そういえば、斎藤先生だけ何を使っているか見てなかったな)
「ちなみに、斎藤先生は何を使われているんですか?」
「ちっ!」
(舌打ちした!この人もはや舌打ちまでするようになったよクー!)
だから私に振らないでっていってるでしょ!?
「小嵐教諭殿には見えないのでしたな。斎藤教諭殿は今、ダンベルに乗っておられますよ」
「ちょ、ちょっと吉良君!」
そろそろ収拾がつかなくなりそうになってきた私と心太のやり取りを知る由もなく、吉良君が助け舟を出してくれた。
っていうか斎藤ちゃん、ダンベルなんか使っているのね。
(斎藤先生、ダンベルで飛ぶんだ)
あらやだ。心太と感想がかぶっちゃったわ。
吉良君の言葉に焦りの声を出した斎藤ちゃんだったけれど、その後は無言。
(たぶんこれ、これ以上踏み込んだらダメなやつだ)
そう考えた心太は、ダンベルの件には触れずに吉良君の方へを声をかけることにしたみたい。
「吉良君は確か、教科書でしたよね?」
「えぇ。元々はもう使わなくなった小学校の頃の物を使用していたのですが、それだとあまりスピードが出なかったのです」
「スピードが?」
「それにも理由があるのですわ!」
心太の疑問に答えてくれたのは、ユリアちゃんだった。
この子、意外と普通に話してくれるのよね。
「先ほど斎藤先生が言ったように、身近な物を使用して飛行する場合にはいくつか制限がありますの。そのスケベ野郎のスピードについても、その制限があるんですのよ」
(いやスケベ野郎て)
ユリアちゃんの吉良君への辛辣な言葉にツッコみつつ、心太は続けられる彼女の言葉に耳を傾けた。
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