我が名は

煮込みメロン

我が名は

 私は蚊である。

 自慢ではあるが、私はこの世に生れ落ちてから今まで何者にも捕まったことが無い。

 これまで血を吸ってきた美少女の数は100を超える。

 それはこれまで会ってきた蚊仲間の誰もが成しえなかった偉業である。つまり私こそが蚊の中の蚊。クイーンである。崇め称えよ。

 私は美少女の血しか吸わない。何故なら私はグルメだから。

 美少女の血はなんといってもマイルドでのど越しさわやか。健康に気を使っている者も多いからサラサラの血なのも素晴らしい。不摂生な生活を繰り返し、たばこと酒に溺れまくった男の血などとは比べ物にもならない。

 今日も今日とて私は獲物を求めて羽を動かす。何者をも私を捕らえることは出来ないのだ。

 そして意気揚々とたどり着いたのは人間どもがたくさんいる巨大な箱の中。その広大な空間を進む幾人もの美少女。その内の一人に私は狙いを定める。

 腕に取り付いて血を吸うのは三流のすることだ。そんな場所では直ぐに見つかり巨大な掌の餌食になるのは目に見えている。そんな愚か者を幾つも見てきた。

 当然一流の私は違う。羽音を発てないようそっと近寄り、黒髪から覗く白いうなじに取り付く。こここそが標的に見つからずことを成すことが出来る絶好の死角だ。

 私はその肌に口先を突き立てる。

 甘美! 今日もまた吸い上げる美少女の血は格別である。

 この一流にしか成しえない技。これこそが私が一流のクイーンたる証。

 我こそが蚊の王。我が名はモス——。

 ペチッ。

 思ったよりも大きなを音を発ててしまい、隣を歩いていた更紗が私を見た。

「エミっちどうしたの?」

「いや、首に違和感があって……うわ、蚊じゃん。しかもちょっと血吸われてるし」

「あー、もうそんな時期なんだね。授業始まるまでまだちょっと時間に余裕あるし、手洗ってきたら?」

「うん、そうする。先に行ってて」

「分かった、また後でね」

 そう言ってひらりと手を振り先に教室へ向かう更紗の後ろ姿を見送って、私は側の化粧室へと向かった。


END

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我が名は 煮込みメロン @meron_san

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