ツキマトウ
業 藍衣
第1話 ツキマトウ
「今日の収穫も上々だ………。」
大内智宏は一人、薄暗い部屋の中で鼻息も荒く不適に笑う。
そんな彼の視線の先には全ての壁を埋め尽くすほどの中村香織の写真が、壮観なまでに部屋中に貼り付けられている。
智宏は彼女を追って収集した写真にじっと見入り不気味に広角をあげる。
部屋の中は壁の写真を除いてよく整理されており、壁際には幾重にも積み重ねられた引き出し式の収納ボックスがあるくらいで、テーブルやパソコンといった生活感のあるものは皆無である。
ひとしきり写真を見た智宏はおもむろにカバンを手に取り、中から今日の収穫であるペットボトルとタバコの吸い殻がそれぞれ入ったビニール袋を取り出す。
一日中、中村香織を追い回しているなかで、彼女が捨てたペットボトルとタバコをゴミ箱から拾い集めてきたのだ。
智宏はひとりきりの部屋の中、鼻歌混じりに上機嫌で手袋をはめ、天井に向かって獲物を掲げると、ペットボトルのなかに残る飲み物を確認して目を大きく見開いて舌なめずりをする。
チャック付きのビニール袋に、『ペットボトル』と『吸い殻』をそれぞれ入れ、日付と採取場所を書くと、収納ボックスへゆっくりと大事そうにしまい込む。
智宏はカーテンを少し開け、自分の部屋の真向かいにある中村香織が住むマンションを見つめると、双眼鏡を手に取り、彼女の部屋の様子を確認する。
カーテンによって中の様子を確認する事は出来ないが、時々影が部屋のなかを移動しているので、彼女が部屋に居ることは確かだろう。
「今日は家にいるんだね…」
智宏は双眼鏡を降ろしポケットにしまうと、収納ボックスから受信機を取り出してイヤホンを耳へと突っ込む。
「さて、香織はいま何をしているのかな。じっくりと聞いて把握しないとな…」
大内智宏は、中村嘉織の行動を監視するために、盗聴機を彼女の部屋に仕掛けていた。本当はカメラを仕掛けたかったところだが、さすがに発見されるリスクが大きかった為、延長コードにこっそりと盗聴機を忍ばせたのだ。
足音が部屋の中に入ってくることを報せ、盗聴機から彼女の声が聞こえ始める。
智宏は、耳を澄ませて音声を聞き取りはじめる。
『うん、そうだね。じゃあ今度は一緒にいこうよ』
『え?そうなの?うん……うん……』
『分かった九時に東口ね?』
『じゃあまた明日…』
おそらくスマホで友人と会話しているのだろうか…。
「そうか、明日は九時に東口で待ち合わせか…」
智宏は盗聴で得た情報を手帳に書きとめた後も、引き続き香織の部屋の様子に聞き耳を立てる。
そんなことをしていると不意に智宏の部屋のインターホンが来客を報せる。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン………
智宏が無視を続けると、外から何やら声がする。
「大内さ~ん、ご在宅じゃないですか?大内さ~ん……」
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