最終問 吸血鬼の実在証明
第22話 山仲美世は準備している
聖母子学園、学園祭。
12月の半ばから下旬に毎年行われるそれは、高等部と大学部が入り交じって開催される聖母子学園最大のイベントである。
高等部はクラスごとと参加単位が決まっているが、大学部にはそれがない。申請さえすれば数名の小規模サークルから、極端な例では個人のみの申請であっても、それぞれ思い思いの出し物を開催できる。
外部からの客も受け入れているし、オープンキャンパスも兼ねて訪れる中高生も多い。
そんな大規模イベントを前にして、私――山仲美世は無心で段ボールを切っていた。
「うう……切っても切っても段ボール……」
「文句言わないの。うちのクラスはお化け屋敷やるって投票したのはアンタでしょ」
「それはそうだけどぉ……」
奈月にたしなめられるも、私の手は遅々として進まない。
中高生の学園祭あるある。出し物の内装や備品は、段ボールでまかなわれがち。
大学部の出し物ではベニヤ板やついたてや工具の貸し出しが行われているらしいが、大学生ほど信用のない高等部では怪我や破損の可能性を考慮されてそのあたりのものを貸してもらえない。
その結果、2年B組には現在、そこら中からかき集めてきた段ボールの山が積み上げられているのだった。
「でも、ここまで無限に段ボールがあるとは思わないじゃん」
「1クラスが25人だから、ノルマとして1人2枚持ってきたとしても50枚か……。それでもまだ足りない部分もあるらしいから、相当な量にはなってるわよね……」
奈月も手が痛くなってきたのか、カッターを置いて手首をぶらぶらと振る。向かいで段ボールを切っている佐夜もぐったりとした様子でためいきをついた。
「うがー! やってられない! そもそも昔とは男手の数が違うんだから、もうちょっと出し物の数と参加人数を調整すべきで……」
ぶつぶつと言い出した佐夜に、私はふと尋ねる。
「男手って、もしかして前までこの学校って男子が多かったりしたの?」
「はあ?」
威圧じみた声を上げたのは奈月だ。
「アンタ知らないの? この学校って5年前まで男子校だったのよ。だから1クラス25人の全員が男手として使える想定で高校生の出し物候補が組まれてるの」
「はぇー……」
ぼんやりと返事をしつつも、私は段ボールと格闘しつづける。しかし、直後に佐夜が言い出した話に、私の意識は完全にそちらに向いてしまった。
「そういえば、学園祭のドッペルゲンガーって知ってる?」
「ドッペルゲンガー?」
カッターを床に置いて尋ねる私に、奈月と佐夜も休憩を取ることにしたのか完全に手を止める。
「そう。なんでも毎年、見知らぬ生徒が学園中で同時に目撃されてるらしいのよ」
そう言いながら、佐夜はタブレットを出してきて私たちに差し出した。表示されているのはセボちゃんのスレッドだ。
212:名無しのモブ生徒 2033/12/15 08:12:22
学園祭の吸血鬼って、今年も出るのかな
213:名無しのモブ生徒 2033/12/15 09:55:03
何それ? おしえて偉い人
214:名無しのモブ生徒 2033/12/15 10:03:45
学園祭で現れる『存在しない』生徒
10年前に死んだ吸血鬼らしい
ずっと背格好が変わらないから幽霊って噂もある
215:名無しのモブ生徒 2033/12/15 10:10:02
>>214
ありがとうエロい人!
「10年前に死んだ吸血鬼……?」
ぽつりと呟きながらも、私の脳裏には一人の人物が浮かんでいた。
寄坂櫛奈。自称吸血鬼のAI。和菓子先生に殺されたらしい、過去の人物。
つまり――ドッペルゲンガーの正体とは、彼がイタズラで学内に出現させたホログラムなのではないだろうか?
その可能性に思い至った私は、二人に話を振った。
「それってさ、同じ姿をしたホログラムを同時に別々の場所に投影してるだけなんじゃないかな?」
しかし、佐夜はしたり顔で首を横に振った。
「残念、甘いね。そのドッペルゲンガーにはホログラムではない証拠があってね」
「証拠?」
「一つ目。ドッペルゲンガーは臨時で作られた段ボールの壁にぶつかっていない」
指を一つ縦ながらの佐夜の言葉に、私はきょとんと目を丸くする。一方、隣の奈月は何か納得したようだった。
「なるほど。単純に廊下を歩くように設定されただけのホログラムだとすれば、学園祭開催中に何度も増改築される段ボールの壁は避けられないはずよね」
「そういうこと。仮にそれが可能な高度なプログラムが組まれていたとしても、二つ目の証拠は無視できない」
私は話に置いて行かれないように、身を乗り出して話に集中する。佐夜は内緒話でもするかのように声を潜めていった。
「実はね……そのドッペルゲンガーは普通に買い物をしてたらしいのよ。ちゃんとお金を払って、品物を受け取ってね」
「えっ、それって……ドッペルゲンガーには実体があったってこと!?」
驚きで思わず大声が出てしまう。私の声は教室中に響き渡り、クラスを取り仕切っている委員長の耳に届いてしまった。
「そこ! おしゃべりしてないで手を動かす!」
「ご、ごめんなさーい……」
奈月と佐夜に非難の目を向けられながら、私はすごすごと段ボールを着る作業に戻っていった。
そのまま泣き言を重ねながらも作業は進み、いよいよ学園祭の当日はやってくる。
そこで起こった奇妙な事象に、私は一つの結論にたどり着くことになるのだ。
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