第2話 なんで私が 2

「というかね、君を指名したのはメンバーたちなんだよ」


「はい!?」


 もう、今日何度この言葉を発すればいいのかわからない。


「最近どうもグループが伸び悩んでいてね。詳細は省くけど、新しい風……つまり新メンバーを入れようって話になったんだ。そこで、名前が出たのが君だ」


「……」


 なんでだよ。


 グループに一人も知り合いなんていませんけど。


 考えてもわからない。


「君は、今のグループには無い色を持っている」


「はあ」


 そう言われても。


 たしかに、こんなボーイッシュな見た目のアイドル、あんまり見たことありませんが。


「ここで即決してもらえるなんて思っていない。どうだろう、一度彼女たちのレッスンを見学してみないか?」


「……」


 うーん。


 どうする。


 アイドルは1mmも興味ないんですが。


「頼む、麗華れいか。グループを立て直せるのは、君しかいないんだ」


「社長……」


 この事務所に所属してからずっと、私のことを気にかけてくれる優しい社長。


 スカートを履きたくない。


 パンツスタイルでいきたい。


 ボーイッシュな雰囲気で活動していきたい。


 髪は伸ばしたくない。


 ショートヘアでいきたい。


 そんな、わがままとも言える私の願いを受け入れてくれた恩人。


 そんな人に頼まれたら、

「買い被り過ぎですよ」

 頭を抱えながらも答えは決まってしまった。


「でも、わかりました。一度、レッスンを見学させてください」


 社長の顔を立てるためだけの決断。


 別に、アイドルに興味をもったわけじゃない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る