冤罪で大切な人達に傷付けられた少年、無実の罪だと分かった後に謝られても絶対に許さない

リョウタ

一章 プロローグ

第1話 プロローグ 〜突き付けられた冤罪〜


もう直ぐ夏休みを迎えようとしている季節。

自宅の廊下には夏場特有のなんとも言えない熱気が漂っている。俺はそんな廊下を一人で歩いていた。



──時刻は朝の6時前。

平日なので今から学校へ行かなければならない。



「……準備するか」


溜め息を吐きながらも登校前の準備に取り掛かる事にした──俺はそのまま洗面所へと向かう。


しかし最悪な事に、歯を磨いてる途中、後からやって来た妹と鉢合わせになってしまった。



「お兄ちゃん……なんでこんなに早いの?」


「…………」



顔を合わせれば嫌味を言われる。

なので普段から早起きして支度しているが、今日は何かの用事で早登校らしい……大嫌いな妹と顔を合わす羽目になった。

ただでさえ蒸し暑いのに、今日は最悪な一日になりそうだと歯を磨きながら嫌な気分になる。



──目の前に居るのは山本渚沙。中学3年生。


黒髪のツインテールで、それがとても可愛らしいと、そんな風に思っていた時期もあったが、もはや生理的に無理な存在となっている。今は可愛いと微塵も思わない。


向こうは俺を観て蔑んだ視線を向けてくるが、俺がコイツに対して抱いてる憎悪の念はそれの比じゃないだろう。

俺はコイツと一緒の空間に居たくなかったので、歯磨きを中途半端に終わらせてうがいをした。

口の中には気持ち悪い違和感が残っていたが、山本渚沙の気持ち悪さに比べれば遥かにマシ。



「………あっ」


何か言いたげな義妹と入れ替わる形で洗面所を出て行く……が、廊下には更なる地獄が待ち構えていた。



「……チッ……最悪な目覚めだな」


大嫌いな姉と。


「……全くだ」


大嫌いな父だ。


せっかく早起きまでして会わない様にしてたのに、残りの糞二人ともバッタリ出会ってしまうとは……今日は厄日だ。



「…………」


何を言われても動じないし、言い返さない。

俺は無視を決め込んでいる。


──舌打ちをしてきたのが姉・山本楓。高校三年生。長いストレートな長髪で男勝りな口調の面倒臭い女。


もう一人が父・山本和彦。

俺に顔がそっくりで、それが整形したくなるほど憎たらしい。信頼出来ない素晴らしい父親だ。



「…………」


妹を含んだこいつら三人を心の底から憎んでいる。生涯、この憎悪の念がなくなる事は絶対にないだろう。

そのまま黙って横を通り抜けようとしたが、その態度が気に入らないらしく、姉と父は吐き捨てるように悪態吐く。



「……無視か。全く、お前みたいなのが弟で嫌になる。朝から不快だなほんと」


「相変わらずだらしないヤツだ。まさか実の息子がここまで屑とはな」


「……もういいから、お父さんもお姉ちゃんも朝の支度しようよ」


「…………」


俺はやっぱり無視を決め込む。

こちらが避けてるから、仮令家の中でも顔を合わせる事は滅多にないので無視してれば問題はない。

ただし、言われた屈辱は死んでも忘れないし、許してやるつもりもない──機会があれば必ず復讐してやる。

だって家族じゃないんだからな。



──俺の名前は山本亮介。高校2年生。


これでも昔は三人とも仲が良かった。

妹はベッタリ甘えて来たし、姉はちょっとした事で大袈裟に褒めてくれるし、父は俺に期待してくれていた。

しかし1年前、とある事件に巻き込まれたのをキッカケに忌み嫌われるようになってしまった。


その事件とは『あるモノ』を探して裏路地を通った時に、三人の不良達に絡まれてる女性を助けた事で起きた。

助けようとした女性は不良達と手を組んでたらしく、俺から暴行されたと嘘を吐きやがった。


最悪にも通った場所が裏路地で、更には夜も遅かった為に誰も目撃者は居なかった。

その所為で殆どの人に信じて貰えず、晴れて女性を暴行しようとした屑男のレッテルを貼られてしまったのである。



──俺は助けた事を後悔した。


どうやら不良とあの女は金が目的だったらしく、示談金を要求して来たのだ。

そして父さんは俺の言い分を全く信じてくれず、あっさり示談に応じて金を支払った。

父がそこそこ大きい企業の社長だった為、学校側にも多額の賄賂を支払い、どうにか退学は免れたが──



『良くも期待を裏切ったな!お前のこと本当に信じてたし、将来、社長を継がせるつもりだったのに!!』


そういって父は俺を見限った。

助けるのは今回だけ……高校を卒業したら家を出て行けと言われたし、もっと酷い事も沢山言われた。



俺の事を散々可愛がってくれた姉も──


『お前がそんな糞野郎だったとは!!今まで可愛いがってた自分が恥ずかしいっ!!』


俺を心から慕ってくれた妹も──


『お兄ちゃん、女の子にとって男の人に襲われるのがどれだけ怖いかわかる?最低だよ、もう顔もみたくないっ!!』



父も姉も妹も……俺から離れていった。

俺の事を心底嫌い、会えば罵倒、同じ空気を吸うのも嫌だと言われたりもした。


事件が起きてからもう一年以上も経つが、俺はずっとこの三人から迫害されて生きてきた。



『俺はそんな事してない!!』


最初の頃は必死に弁明もした。

しかしどれだけ叫んでも、涙を流しても、反省してない屑と言われるだけだった。

二ヶ月もそんなことが続いて……度重なる罵倒を浴び続けて俺はもう疲れてしまった。


だから俺もこいつらを見限る事にしたんだ。


いや、見限るだけじゃない……何を言っても信じない元家族を心から恨んでいる。

もしこの先、コイツらが俺に心を開くことがあったとしても俺は絶対に許さない……死ぬまで恨み続けるだろう。

この一年はそう言う考えに至ってしまうほど辛くて、苦しい日日だった。



「はぁ……嫌になるな」


俺はあの三人への憎しみを再確認し部屋に戻った。

いつもは早く登校するのだが、今日はあの三人が居なくなるまで待つことにする。


遅刻しようがどうでも良い。

学校での評判も最悪だからな。



「──そろそろいいか」


20分後、ようやく人の気配が消えたので洗面所へ向い、中途半端に終わった歯磨きの続きを始める。

この時間なら今から準備しても余裕で間に合う。


俺は再び朝の準備に取り掛かった。


「──ただいま〜……夜勤しんどいわ〜」



すると、唐突に玄関の扉が開かれた。

それと同時に女性の声が洗面所まで聞こえて来る。


ちょうど歯磨きが終わったので俺はその女性の元へ向かう。



「おかえり、母さん」


「亮介〜!!朝から亮介に会えるなんて嬉しいわ〜!!」


母さんは優しく俺の身体を抱き寄せた。

今週の母さんは夜勤なので、いつもは早く学校に行ってる俺とは会わない──なのに俺が居たから嬉しそうに笑ってくれている。



──俺の母さん・山本凛花。年齢37歳。

とても30後半とは思えない美貌を持っており、背がかなり小さいのに胸が結構ある。そのアンバランスさが更に女性としての魅力を引き立てていた。

清らかな声も耳に心地良く、こんな母親を持てて俺は幸せだと思う。



『亮介がそんなことする訳無いじゃないっ!貴方達が信じなくても私はこの子を信じるわっ!』


そう言って母さんだけは俺を信じてくれた。

時間が経ってもその気持ちは変わってなく、母さんだけは家族の中でずっと俺の味方をしてくれている。


その所為であのカス三人とは疎遠になったらしい。

俺を庇い続ける母さんが気に食わないようだ。


母さんは家族同士が離れ離れになって悲しそうだったけど、俺を一人にする気は1ミリもないらしく、離れて行く三人じゃなく、独りになった俺の側にいつも居てくれる。


それが本当に嬉しくて仕方なかった。


アイツらも母さんの前では俺を罵倒しない。悪い事だと内心では自覚してるからなのだろう。その性分も人間的に汚くてウンザリしていた。


最初の頃は何度か死のうと考えたけど、それを実行しなかったのは母さんが居たからだ。母さんを悲しませたくないからどうにか踏み留まれた。

今はアイツらの所為で死ぬ気はサラサラないけど。



それでも、あの時に思い留まれたのは母さんが信じてくれたから……俺が生きてられるのは母さんのお陰なんだよ。

これからどんな未来を迎えようとも、母さんだけは絶対に大切にしようと決めている。

この世で唯一の家族だ。



「母さん……いつもありがとう」


「あらいや〜んッ!!ついこの間まで反抗期だったのにぃ〜!!今は素直になって嬉しいわ〜!!」


「………はははっ」


うん、反抗期だった俺を殴り殺したい。

それくらい母さんは大事だ。


一年前、俺は大事なモノをたくさん失ったけど、そのお陰で本当に大切なモノを知る事が出来たんだ。




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