14.

「え、あ、その」


口をあぐあぐする大森さんの顔が異様に近い。そりゃそうだハグしてるんだもん。


「ほ…………ほんっとにごめん!!!!!とりあえず下ろそう!!!!!」


「は、はい…………」


大森さんの肩を握り込み、俺らの胸の間に挟み込まれている大皿×2をがっちり固定。


同時にしゃがみこんで、お寿司たちが潰れないようにゆっくり着陸させる算段なんだけど、


(大森さんの胸が潰れとる?!)


「せーの……、って有間くん? 私のほう見てくれないとタイミングが合わせられないですよ」


「そっか、そうだよねごめんごめん!」


大皿部分が大森さんの胸を押しているせいで、いかにも大きく柔らかそうなそれは形を変え、上部が皿の背後からにゅるりと顔を出す始末。


や、やっぱり無理……っ!


「むう、照れてるんですか?!」

「こんな状況、そりゃあ照れるよ!!!」

「そんなこと言ったら私だって照れてます! でも、お寿司たちを守るために今は恥ずかしいのガマンしましょう!」


必死に訴えかけてくる。

そもそも抱きついたのはお寿司を守るための緊急策だったもんな。

ここで恥ずかしがって落としてしまったらなんの意味もない。


「よっしゃ、ここが正念場だよ大森さん」


気持ち目をパキっとさせ、目の前のかわい子ちゃんに動揺しないよう胃を決する。


「も、もう少し、お互いにひっつきましょうか……お寿司落ちないように」

「うん、任せて」


ぐっぐっぐっ。


「み、右のほうが少し傾いてますかね」

「俺の肘を大森さんの体に寄せてなんとか支えるよ」


ぐいっ。


お寿司を守ろうとするごとに、より密着する。もにゅもにゅした大森さんの肌に、俺の体が沈み込む。


柔らかすぎる。抱き枕なんて比じゃねえぞこれ……。


でもそういう恥じらいは一旦捨てる。

お寿司ファーストの大森さんもきっとそれを望んでいるはずだ。


「………………くすぐったいよ、有間くん……」


「ふぁっ」


脳で考えて、ではなく思わず口から漏れ出た言葉に俺の心臓がバキュンと撃たれる。


大森さんは少し息を荒くし、真っ赤に染まった顔を見せないための最後の抵抗なのか、完全に横を向いていた。


「近寄りすぎたよねごめん!!!!」

「い、いえ……有間くんはちっとも悪くないです……男の子とくっつきあうのに慣れてない私が悪いんです……」


目の前の女の子が俺とのハグでデレデレになっている。

男としてはこれ以上ない刺激だった。


「でも、ダメですよね。有間くんだって私のために頑張ってくれてるのに!」


だがいよいよ大森さんも覚悟を決めたみたいで、


「ふにゅにゅっ……!」


何かに耐えるみたいな悶絶の表情を浮かべつつ、コアラみたいに俺に抱きすがってきた。


極力俺を見ないようにか、顔は俺の鎖骨に埋められているが、それがますます密着度を上げている。


(大森さん、柔らかすぎるよ……)


他の女の子とは明らかに違う柔らかさに崩れ落ちるように、俺はしゃがみこんでお寿司の救出に成功した。



♢



食べ歩きが出来るはずもなく、俺たちは大量の寿司を持って近くの公園へ。


茶色のベンチに隣り合って座った大森さんは、スカートの上にお寿司を載せて「よっし」と達成感を滲ませた。


この量の寿司を運ぶの、ホントに苦労したな。


「ホントにこんな量食べれるの?」

「はい! 色んなお店を巡りたいので、これでも加減したつもりなんですよ?」


加減してるんだ。加増にしか思えないけどな。


「ではでは私たちの最高のお休みをお祝いしまして!」


大森さんがグラスを持つジェスチャーをした。この期に及んでエアーでも飲食物を出してくるのかよ。


「まあ、どうせ学校をサボったんなら楽しまないと損だよね」


俺はニヤッと笑い、大森さんは満面の笑顔の花を咲かせる。


そして、まるで剥ぎ取るような欲を制御できない手つきで防塵用のプラスチック蓋を外し、肉寿司たちがむき出しになる。


光沢感のある赤身はとにかくキレイで。

本当の店で食べるような高級感が大森さんのテンションを刺激していく。


「はっ、はっ……。たべちゃうよ……ぅ」


で、出たっ……!

美味しそうなものを目の前にしたときのワンチャンモードの大森さん!


興奮気味に荒い息遣いに合わせて上下動する肩。ホントにえっちぃ気持ちになるから勘弁して欲しい。


そしてこの大量のお寿司を見てふと思い出した。


俺、大森さんが食べる用にお昼の弁当つくってきたんだけど?!

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