29話

 更新が大変遅くなりました。

 申し訳ございません。


 前話で次の対戦相手がDDとなっていましたが、正しいのはDKでした(修正済み)。重ねて申し訳ございません。


 ‥‥なんで分かりにくい名前にしたんだ俺

────────────────────



「んー‥‥‥」


 激闘のMR戦を終え、次の戦いを3日後に控えたある日。俺は次の対戦相手であるDKの試合アーカイブを見ていた。


『ここでまたもやダブルピーク!!AEGは堪らず最後のタイムアウト!いやー、なんともまぁ隙が見当たらない!!』

『これまでの試合を含め、Reduce選手とblueno選手のダブルピーク率は脅威の100%を誇ります。やはり双子ゆえのテレパシーは迷信なんかじゃないんですかね』

『そうに違いありません!なんとこの二人、生まれた時刻や体重に加え、身長の伸び方、さらには成績までもずっと同じという情報が入ってきています!まさに人類の神秘ですよ!』


 そう、次の対戦相手は突如日本リーグに現れた化物二人が率いるチームDarknessKnight。Reduceとbluenoという双子のシンクロダブルピークを武器にここまでの戦いを圧倒的な力で勝ち進んできているダークホースだ。


 観戦画面から見てもこの二人のシンクロ度合いは正直常軌を逸している。あるときは同じタイミングで左右から飛び出て撃ち合い、あるときは一瞬で上下二段を作り敵のエントリーを止めている。対戦相手のチームはこの牙城を崩せずに悉く負けていった。


「んー‥‥‥‥‥‥‥‥」


 正直何回見てもこの綺麗すぎるダブルピークをどう突破できるのか見当がつかない。スキルで妨害しようにもきちんと残りの三人のうち誰かがケアしてるし‥‥‥‥‥。



「だめだやってみないとわからん!‥‥‥コンビニ行こ」


 長時間の観戦で凝り固まった肩をほぐしながら、俺はCWのオフィスを出る。


 対戦相手の分析も大事だが、詳しいところはコーチ陣が分析してくれている。あくまで俺は選手。チームでの対策会議の後、個人的な趣味で試合を見ていたがそれが原因でパフォーマンスに悪い影響が出るようではいけない。


 ミスが多かったMR戦では相手にLexが居たのもあって、どこか気負っていた節がある。それほど気持ちとパフォーマンスは比例するのだ。だからこそ気分転換にコンビニで新しく発売しためちゃ甘らしいスイーツ(ヴァルクさん情報)でも食べてあとの練習に備えようと思う。ふっふっふ。


 聞き馴染んだ入店音。相変わらずやる気のなさそうなコンビニ店員を横目にスイーツのおいてあるコーナーへと向かう。


「えーっと、確か見ればわかるとか言ってたけど‥‥‥これだろ絶対」


 そこにあったのはあまりにも甘そうなケーキ。


「ジャンボメープルシュガーミルクレープwithマシュマロホイップサンドのホイップ乗せ‥‥‥‥‥」


 もはや命名した人も適当じゃねぇか!


 叫びたい衝動を理性で必死に押しとどめ、取り敢えず手を伸ばす。カロリー表示は見えないように。

 一応学生だし、試合中は顔を映すカメラもあるから太るわけにはいかない。まぁ半分食べたらどっちにしろもう筋トレ増やすなり何なりしないとムリだとは思うが‥‥‥‥。


「「あっ‥‥」」


 俺の伸ばした手と誰かの手がぶつかる。


 横から見える手をたどるとそこに居たのは小柄な人影。夏なのに長袖のパーカーを着ている彼は同い年くらいだろうか。中性的な顔立ちにサラサラとした髪の毛、そして日本人には珍しいほど明るく綺麗な赤色の目が大きくこちらを写していた。どうやらお互い、スイーツのあまりのインパクトで近くにいた他の客に気づいていなかったらしい。


「す、すいません!欲しかったらどうぞ」

「い、いえ!全然僕もいいんで、あなたがどうぞ!」


 声は少し低めだが透き通るような響きだった。女の子か?いやでも男でも違和感はないし、伸びた手も‥‥‥いやどっちだ?


「あの‥‥‥‥」

「あ!はい!スイマセン!!では失礼します!」

「あ、ちょっと‥‥!」


 俺は後ろからかけられる声から逃げるように店を出る。


 流石にジロジロ見すぎだ。相手が相手ならセクハラだの何だので騒ぎになってもおかしくない。ぱっと見あの子はそんなことしそうになかったけど、メディア露出があるプロゲーマー兼配信者として炎上の種は未然に摘んでおくに限る。


「それにしても、黒い髪に赤い目って珍しかったなぁ‥‥‥あ、時間やべぇ!早く戻んねぇと!」


 無念。さらば激甘スイーツよ。


 ♢♢♢



「びっくりしたぁ‥‥‥」


 柊真が去った後、コンビニでReduce・・・・・・───黒田凪はそう独りごちた。


 凪は甘いものに目がない。今回も大会やスクリムの合間を縫ってどうにかこうにか激甘と噂のスイーツを求め、慣れない都会を歩き回っていた。いつもと変わらない日常だ。


「まぁいいや。欲しいものは買えたし‥‥‥。うぅ‥‥あついなぁ‥‥」


 コンビニから出た凪は少し袖をまくる。

 チームのみんなには日に弱い肌を守るため長袖のパーカーを着ていると伝えている。だが本当の理由はそうではない。


「戻ったらすぐに袖戻さないとないとなぁ‥‥やだなぁ‥‥あついなぁ‥‥」


 凪は兄以外のチーム関係者すべてを騙している。そうしなくては規約上兄と一緒に・・・・・戦えないから・・・・・・。目的のためには兄と一緒に戦う舞台が必要だった。


「よし。こっからもがんばろ。‥‥‥うん。ボクは男。男だ。そして、bluenoと一緒に世界に、母さんに、父さんに、自分の価値を見せつけてやる」


 そして彼───いや、彼女・・は自らをも騙す。

 性別という壁を隠すように。自らの正体がバレないように。


 すべては己の価値を世界に示すために。

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