第28話
ッスー………おっそくなりましたぁ…
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「Aショート足音、人数多めです!」
俺の耳に届いた複数の足音。少なくとも2人以上は居る。相手はAサイトの要所に繋がるこの場所をコントロールしに来たようだ。
俺の報告にRyukaさんがスモークを返す。
焚かれたスモークの位置は通路脇の障害物上。スモークの球体という形状を活かして、通路を塞ぐのではなく足元を確認できるように焚いたスモーク───
そしてそのスモークが作った時間でSigM4さんがスキルを使いBサイト側通路の情報を取りにいった。これでもしB側に敵影が無かったら、人数をA側に割いて守りを固めるという形が取れる。
「さてさて…」
マップを見てB側の索敵結果を確認し───
〈これぞまさしく男のロマン!!〉
「ッ?!」
響き渡った鉄人の足音。スモークから飛び出てきた
Lexはウルトを温存していたし、マッチポイントのここで使ってくるというのは分かっていた。だがまさかこんなに早く、俺達の配置も確認してない状況で切ってくるとは思わなかった。こっちにはエスカトルのウルトに対抗できる
スルトのウルトもツールドのウルトも範囲ダメージ系の効果を持つ。エスカトル自体は止められなくとも相手の後続はアーマーなんて付いてない。後続の進行が止められてキルを取られるなんて事があれば人数不利だけでは済まないし、孤立無援になったLexも無事じゃいられないだろう。
特にスルトのウルトはこういった1か所から敵が流れ込んでくる状況で大きな効果を発揮する。一体どんな勝算があって…?
『Riv4lゥ!お前にウルトは使わせねぇぞォ!どうせここにいるんだろ!!』
「
あいつは俺たちの配置を読んで突撃したわけでもなく、分の悪い賭けに出たわけでもなかった。あいつが考えたのは
俺が1戦目でLexの行動を人読みしたように、あいつも同じように読んできた。そして結果的にその読みは当たり、俺は顔を出すこともできずに降り注ぐガトリング弾の雨を避けるために防衛ラインを一つ下げざる負えなくなった。
スルトのウルトはスキルと違って1秒程度で発動を完了するとはいえ、視界内にしか発動できないのは変わらない。ラインを下げさせられたらウルトも遅延も発動できない。圧倒的弾幕と人読みによる至極単純で明快なスルト封じ。効果は絶大だった。
嵐のような銃声の中に微かに聞こえる複数の足音。続々と相手はAサイトに侵入してきている。エリアの優位が無くなり遅延でスキルが使えない今、俺に止める手立てはない。
──そう、
『ウルト返すよ』
〈よしできた!…うわぁぁ!ご、ごめんなさい!!〉
SigM4さんの冷静な声と真逆な、おどおどした声が世界に鳴り響く。発動されたのはうちのチームの
その起動音とともに彼お手製の小型ミサイルが無数に空へと撃ち上がり、白線を引きながらサイト内へと降り注ぐ。
これがツールドのウルト───夢への第一歩。自作ロケット作成を夢見るツールドによって仕込まれた多段階の試作品ブースターが火を吹き、複雑な起動で高く舞い上がった弾頭はSigM4さんの繊細な操作によりその勢いを落下に変えた。
軌道が読めず、味方にも当たる爆撃がサイト内を蹂躙していく。
CW SigM4 − MR Deadline − Ult kill
CW Ryuka − MR MeMe − HeadShot kill
CW SigM4 − CW Ryuka − Ult kill
CW SigM4 − MR EnY4ss − Ult kill
瞬間的に流れるいくつものキルログ。どうやら爆撃の中でも攻防が起きていたみたいだ。
相手は3人削れて残るは目の前のLexとAster、こっちはRyukaさん以外の全員が残っている。こっちが明らかに有利に思えるが、向こうも当然諦めていない。
『おらよぉ!!』
Lexのガトリングが薙ぎ払われ、遮蔽裏にいたFaiceさんがやられる。ラインを下げていた俺の位置からではもうサイト内も確認できない。
これでエリア的な有利は五分。リスポーン側から俺、Myths,SigM4さんの3人でタイミングを合わせてリテイクするしかないだろう。
幸いサイト内を視認できなくとも、エスカトルは足音である程度の位置が補足できている。問題は
カインは他のホールダーよりもスモークの追加効果が弱い。大きさが大きいわけでもなければ、スロウや弱体効果もない。弾も通るし時間で再使用することもできない。スモーク付近に小さいノイズ音が流れるだけだ。
だがこのキャラはそんな弱いスキルを持ちながらも特定のマップでよく使われている。その理由はただ一つ。
〈我らが守り神よ、その威光で全てを見透かし我らに悠久の平穏を……!〉
そのウルトの強力さ故だ。
焚かれた3つのスモークの上に黄土色の化身が現れる。3つの顔に金色の瞳を持つソレは悠然とその腕を組んで佇んでいた。
化神召喚───
スモークの上に顕れた化神はその視界内に映る敵をマップに記し、依代となったスモークは消えるまでの時間制限が取り払われラウンド終了まで永遠に存在し続ける。言うなれば広域のエリアコントロールをラウンド終了まで永遠に行うことができるウルトだ。
砂漠マップはその遮蔽の都合上、このウルトが猛威を振るう。一応化神真下のスモークに入ればその目に映ることはないが、行動を大幅に制限され、情報の優位を取られ続けてしまうことに変わりはない。
サイト内は全て見られていると言っても過言ではないし、リテイクも通路を出たらすぐにバレるだろう。
聞こえる爆弾の設置音。
焦る心を抑えつけながら必死に頭を回す。一体どうすればこの状況を打開できるのか。頭に鈍い痛みが走っているが、どうせそれも残り数ラウンドのこと。最速で勝ちを取りに行くならここで体力を使い切ったっていい。頭を回せ、考えを止めるな。
ここは俺が先に出て
『よし、二人とも落ち着いて。ゆっくり深呼吸したっていい。エスカトルのウルトが切れるまで顔を出す必要なんてないんだから。打開策はその後ゆっくり考えようか』
耳に響く落ち着いた声。短い期間で何度も助け、支えてくれたSigM4さんの声だった。
ぱっと開ける視界。どうやら呼吸すら止めていたようだ。視野狭窄が収まり、耳には爆弾のタイマー音が静かに流れている。Mythsも息が止まっていたのかVCから小さく声が聞こえた。
『落ち着いたね。じゃあまずは僕が索敵を入れるから手前をクリアしよう。その時点でマップには映ってしまうけど、横の小部屋とスモーク内で別れつつサイトを挟み込んでフラッシュ使いながら1か所ずつ潰していけばいいんじゃないかな。…大丈夫、人数はこっちが有利だ。トレードし続ければ勝てるよ』
………ほんとこの人には敵わない。俺とMythsが落ち着けてないことを把握して、すぐさま具体的な指示を出しつつ時間を作った。話し方もいつもよりピッチを落としていたような気がする。
これもやっぱり競技歴の長さが大きいんだろうか。肝が座っているというか何というか。その背中の大きさを改めて感じされられる。
「『了解』」
落ち着いた頭で画面を見据える。
完全にいつも通りの状態だった。
『じゃあ行くよ…3、2、1…!』
フラッシュから3人での飛び出し。
そしてその瞬間飛び出てきた
「終わりだ」
Asterの頭に弾丸が吸い込まれる。
SigM4さんの言ったとおり、交互にキルを繰り返すきれいなトレード合戦。
対MR、BO3 2本目。13:10にてCWの2本勝利により──── 2:0 勝者:CW
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