第7話
DD_Teabreak─────
日本国内リーグで昨年優勝を果たし、世界と鎬を削りあったチームDualDartsのリーダー。
戦術の潮目を読み取るその勝負勘で幾度ものピンチを切り抜けてきたまさしく国内一のプレイヤーであり、その独特なプレイスタイルと親しみやすい人柄でかなりの人気を誇っている。
そんな彼が言った言葉は決して軽いものではない。DDという日本一の看板を背負ったチームのリーダーからの勧誘にコメントは沸き立ち、チームメイトは真剣な表情で一歩後ろに下がった。
みんな分かってるのだろう。負けるつもりで戦っている訳ではないが、世界と戦うためだけで言うならばDDに入るのは利点しかない。
この先のキャリアを考える上で、チームメイトである自分たちの言葉は目の前の栄光への最短経路を放棄させるということ。責任を負うことはできない。だからこそ、しっかりと自分で考えろと。
『どうかな?まぁ返事は後でもいい。配信してるみたいだしね。……これは君を求めているというポーズを第三者がいるところで明確にしたかっただけだから。デュオは良ければしてみたいけどね』
「……………デュオはしましょう。でもチーム加入の件はもう少し考えさせてください」
『ん。分かったよ。…この先の君の人生を左右する可能性のある選択だ、ゆっくり考えるといい。リスナーのみんなも彼の選択がどうであれ、絶対に文句とか言わずに応援してあげるんだよ。いいね?』
“はーい”
“そうだよな。人生かけた選択だ、後悔しないようにお前自身が決めろ”
“まだ数十分ですが貴方を気に入りました。どうなるにせよ、尊重して応援します”
“分かったよ茶会マッマ……”
“茶会強かすぎんかw”
“茶会さん優しい”
“お前の選択見せてくれ”
俺が悩んでいる間も時間は刻一刻と過ぎていく。
そんな中、試合がマッチングしてゲームが始まる。俺は自分が比較的使う機会の多いサーチャーをピックした。
頭が他事に動いていても体は覚えているようで、メイン通路からのエントリーに対して
リスナーも俺のプレイに感心してくれているようだった。
だが、もっと目立つ存在がこのマッチには居た。
Teabreakさんは流石日本一といった動きで
彼の得意とするロールはとても特殊だ。国内大会だけでなく、世界大会でもあまり使われることはない。だが彼はそれを好んで使い、実際にそのロールで国内の頂きを勝ち取った。
公式からも特殊なロールであるためピック率は低くなると明言されているロール────────それが『フェイカー』。敵を欺くことに特化したコンセプトを持つ特殊ロールだ。
彼が今使っているのはペイル。
味方のキャラを模したデコイを操作することができるキャラクターで、その性能は当然特殊でとても尖っている。
デコイ操作中は自分のキャラが動かせない。デコイでは銃弾も撃てない。本来ならば視認した敵はマップに映るが、デコイで敵を視認しても敵の姿がマップに映ることがない。更には一度倒されるとそのラウンド中はもうデコイを使えない。
界隈では有名な弱キャラ。
しかし彼はそのキャラを、十二分に活かすことができる。
時には味方がサイトに入りやすいようにデコイを使ってキャラコンで敵を引き付け、時にはワザとデコイを視認させることでどのサイトに攻めようとしているのかを欺く。動かしたデコイでトラップの情報を掴んで敵の配置を混乱させ、一人で陽動すらこなしてみせる。
そして極めつけはデコイを動かしながらジャンプさせることで
一人ですら敵を欺き打ち倒す。キャラ性能の弱さを感じさせないアグレッシブなプレイに、俺のリスナーたちも興奮を隠せなくなっていた。そしてそれは俺も同じだった。
(マップを見るに茶会さんはかなりアグレッシブ。スキルがなくても自分の強さに自信がある人の動きだ。ならおそらくここでベイトにスキルを使ってくれる。行くとしたら弾を回避しにくい中長距離の射線が通る
昂ぶった興奮に比例するように思考が加速し、動きが最適化されていく。調子がいい時の感覚。それを無駄にしないように、俺は配信しているということすら忘れて集中を重ねていく。
最初の方のラウンドではデコイに合わせられず死にスキルにしてしまっていたこともあったが、もう今では殆どがベイトとしてその役目を果たすようになった。
彼の僅かなプレイから感じ取る立ち回りの特徴、スキルのタイミング、そしてそれらの動きが持つ意図。それらを頭だけでなく感覚的にも考慮し、合わせられるように自分の立ち回りを変化させていく。
それは野良の動きにすら波及し、連動していく。スキルの先置き、エリア取り、カバー、ライン合わせ、立ち回り‥‥。
例えこの一瞬だけの覚醒だとしても。
まるで彼の動きに共鳴するかのように。
この時の俺は間違いなく成長をしていた。
“おい、こいつやばくね?”
“エアプの俺でもわかる。これ動きが変わってってる。”
“フェイカーうますぎだろ茶会さん”
“これ茶会が目立つけど、なんでリヴァルはVCが無いときもそこまで連携が取れてんだ…?”
“動きというか………なんか速いぞ”
“マジでやばい”
“たまに海外のプロで見る自然すぎて不自然な動きだ”
“よく茶会もリュカも1つのクリップとか加入動画だけでこいつの才能を見抜いたな”
“このプレイ気持ちいいな。好きだ”
「おお………試験のときは手ぇ抜いとったんか…?」
「いや、多分今が特別調子いいんだと思います。僕とやったときはここまでじゃなかった。それに…茶会さんに引っ張られてる?」
「…………スキルも立ち回りも‥‥‥最初より効率化されてる」
「………同じサーチャーをメインで使う者としてこの動きは正直真似出来ないね。スキルだけじゃなくて、野良との連携も個人での動きも無駄がなさすぎる。まるで機械だ。それに見る限り今も最適化され続けてるね」
口々に本音や考察が漏れる。配信がついてることなんて誰も覚えていない。それほどまでに目を惹き付ける圧倒的な才能の輝き。彼らは瞬きすら忘れてそのプレイを眺め続ける。
だがそんな中、傍らでチームメイトが目を奪われている中でも、少しも動揺していない者がいた。
「ははは………やっぱりコイツだ。こいつが俺の探してた最後のピースだ……。下振れを起こさない安定感に加えて、図抜けた観察眼に上振れの爆発力。そこに加わる自身の動きの最適化。───お前がこれからどういう道を歩むにせよ、CWのリーダーとして、お前を推す1ファンとして、お前が表舞台に立ったことを誇りに思うよ」
リュカはそう静かに呟き、獰猛な笑みを浮かべていた。
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Teabreakが茶会と呼ばれるようになったのは、配信の際に休憩する度リスナーにも茶を勧めてたせいでみんな同じタイミングで飲むのがファン特有の儀式になったから。ちなみに彼は紅茶が飲めないため、麦茶でTeabreakしている。
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