第12話 空き地の中へ

 次の日、ゆかりと千紗に昨日のことを話した。

「祠がありそうな場所があったんだね。良かったー! もっと時間かかるかと思ってたよ」

 ゆかりはホッとしたようだった。

「古い記録がないって、それは祠に繋がる歴史がないってことだよね」

 千紗が、不思議そうな顔をする。

 そうなんだよね。祠のありそうな場所はみつかっても、それは『ない』のかもしれない。

 キューピッド様のメッセージ自体が嘘なのかもしれない。

 だったら、探す意味がある?

「ハル、あたしは探すよ」

 ゆかりは、私の表情から読み取ったように言い切った。ゆかりがそう言うなら、探すように話はまとまる。

「そうだね。昨日見つけた場所にあるかもしれないから」

「次の土曜日か、日曜日かな?」

 ゆかりと絵美が、話を進めていく。

「日曜、ダンススクールの友達と隣町のダンスの発表会観に行く約束あるんだ」

「じゃあ、土曜だね。午前中は勉強しなきゃいけないから、一時で良いかな?」

「うん。一時なら大丈夫だよ。千紗は、どう?」

「土曜の昼からなら、大丈夫」

 見つかるかどうかわからないけど。



 土曜日。

 中学校の裏門で一時の待ち合わせ。

 千紗は歩いてきたようだった。

 坂があるから、自転車を押し出歩かなきゃいけない。

「ねえ、祠が見つかったら願いごとかなうんだよね」

「千紗、怖いの苦手なんじゃなかったの?」

 私は、千紗が前より冷静になっているように感じて不思議に思った。

「ここまで来たら、見つけたくなったの」

 千紗は、お母さんの病気が治ってほしいんだ。願いが叶うなら見つけたいと思っているんだろう。

 私と絵美がみつけた場所の前までたどり着いた。

 『私有地につき立ち入り禁止』という看板があった。この前は気付かなかった。それっぽい場所をみつけたことで、ちゃんと見ていなかったのかもしれない。

 自転車をとめて、背の高い雑草の手前にあるフェンスを見る。そのフェンスも、私たちの背丈より高い。

「立ち入り禁止だけど、行くよね?」

 絵美が言った。

「うん」

 ゆかりの声に、絵美が乗り越えて向こう側に降りた。ゆかりと私もあとに続く。千紗は、ためらうような素振りを見せながら、辺りを見回してのぼっている。

「早く。誰かに見られたらいけないよ」

 絵美にせかされ、千紗は慌てて乗り越えた。

 枯れかけた雑草の生い茂る荒れ地がある。手前の背の高い雑草をかき分けて進む。中に入れば一人一人、見つけにくくなりそうだと感じた。

「奥の方まで行けるかな」と、ゆかりがつぶやく。

 ゆかりが着ている洋服は、海外の高級ブランドのもの。この中を通り抜けていけば、洋服が汚れたり破れたりしそうだった。ゆかりの口ぶりは、中まで行けないというより行きたくなくなったという方が正しいのかと思えた。

 絵美は辺りを見回した後、「あっちの方なら草とか少なそうだよ」と言った。

「行かないの?」

 絵美はゆかりの方を見ている。ゆかりは、私に視線を送る。助けを求めてるような目だった。

「地図にはこんな空き地あるって書いてなかったし。絶対ここが怪しいんだって!」

 絵美はそう言って、雑草が少ない場所から先へ進み始めていた。

「えー、でもぉ……」

 ゆかりは、まったく動こうとしない。

「ゆかりはここで待ってて。ちょっとだけ絵美と見てくるよ。先に進めそうになかったら、別の日に中に入れそうな格好をしてくればいいし」

 ゆかりと絵美のどちらの機嫌もそこねたくないという気持ちから、私はそう言ってしまった。

「ここで一人で待ってなきゃいけないの?」

 ゆかりが不満そうに言った。一人で待っているのも気に入らないらしい。

 そんな話をしていると、「ねぇ、行かないの?」と、絵美がいらついた声で言ってきた。

「あ、そうだ。千紗もここで待ってて」

 私は、乗り気ではない千紗の方を見る。千紗は私のその言葉にほっとしたような表情を見せる。

「ハル、ごめんね……」

 千紗が申し訳なさそうな声で言う。

 ゆかりは私の言葉で安心したのか、不満そうな表情から笑顔に変えた。

「じゃ、私は絵美とあっちの方を見てくるね」

 二人を残して絵美の方に小走りで向かう。雑草をかき分けて、絵美の後に続く。

「何かありそうだよ。すっごくあやしい!」

 絵美は、時折私の方を振り返る。怖くないのかな。

 絵美は、恐怖心より好奇心の方でいっぱいなのかな。キューピッド様が言ったことを、どこまで信じてるんだろう……?

「そこで何してる?」

 背後から、大きな声で呼びかけられる。

 ゆかりと千紗の方を振り向くと、雑草の隙間から柵の向こう側の、私たちの自転車のそばに知らないおじさんが見えた。

 おじさんの顔は雑草や柵が邪魔をして、よく見えない。

「何してるんだ?!」

 おじさんは、ゆかりと千紗が俯いたまま何も言わないので声を荒げている。おじさんの声で、さすがに絵美も足を止めたようだった。


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