第7話
▫︎◇▫︎
朝、医者に呼ばれて俺は3人の大人に囲まれることになった。
自分の主治医とあいつの主治医に看護師だ。
「明日、君と柊あゆみさんに自由外出の許可を出す」
たった一言だけど、俺にはそれが哀れみのように聞こえた。あと数日しか生きられないあいつへの餞別のように聞こえた。
屋上に上がってしばらく青空を見上げていると、あいつは変なかけ声と共に今日も俺の方に無邪気にやってくる。出会って3日目、あいつの体調はどんどんよくなってきている。このまま治るんじゃないかと期待すると共に、そんな期待は捨ててしまえと理性が言う。
期待はすればするほどに、残酷に裏切られる。
これまでの経験則から言って、これは間違いない。絶対に起きることのみに自信を持っている方が、人生とっても楽だ。
あいつが行きたいと言うところを思い出しながら、出来るだけあいつが楽しめるように、俺はアドバイスを出していく。
一緒にデートしようと言われた時は、なんだか泣きそうな気分になった。
看護師に報告に行くと、彼女はめいいっぱいの憐れみと喜びを目に浮かべていた。その事実を、あいつは苦しそうに見ていた。
(………憐れみが1番きついよな………………)
試合で負けた時、脚を壊した時、憐みが、励ましが、なによりも辛かった。無責任な大丈夫だと言う言葉が、絶対という確信めいた発言が、心の奥底から憎らしかった。
『じゃあ、自分がそうなってみろよ』と何度も言いかけた。口をつぐんで、必死に耐えるのがなによりも苦痛だった。
「明日、楽しみか?」
「うん!!………私は、君に恋しているからね」
あいつは茶目っ気たっぷりに笑って病室に帰っていった。
あいつは残酷な小悪魔だ。
けれど、俺はあいつのために、俺ができることをすると決めた。
最後まで頑張って、そしてあいつと一緒に死ぬ。
走れない俺には、もうこれしか残っていない。
ーーーいつの間にか、俺は今すぐ死にたいと思わないようになっていた。
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