第3話
▫︎◇▫︎
第一印象は『変な女』だった。
柊あゆみと名乗った女は、飛び降りようとした俺を助けようとして、逆に自分が死にかけるような、そんなアホで間抜けで、馬鹿な女だ。
自分と同い年の女は、俺に変な宣言をした後、自分のことについて聞いてもいないのにベラベラと話して、まっすぐ歩けない身体を引きずって病室に帰っていった。嵐というよりも台風のような女だった。
『私、余命1週間なんだ!!』
元気よく笑顔で言うべきではない言葉を平気で言う女は、本気で不思議だ。
何か重い病気なのだろうことは簡単にわかった。
ふらふらとまっすぐ立っていることすら難しい体調に、青を通り越して紙のように白い肌、かさかさのくちびる、油を失った薄茶のぱさぱさの髪。
でも、琥珀色の瞳は爛々と輝いていて、俺よりも生きてるっていう感じがした。
生きたい!と全身が訴えかけてきていた。
神さまは残酷だ。
本当に生きたいと願っている人には寿命を与えず、俺みたいに死にたいと願っているやつに寿命を与える。
不公平で不平等で、エコ贔屓だ。
「………明日もこの時間に、か………………」
馬鹿みたいだと思っても、あいつの残り少ない時間くらいは、相手してやってもいいと思った。眩しい、1番嫌いな人種のはずなのに、なぜかたったの1時間話しただけで絆されていた。
あいつは言っていた。
悲しんで欲しいと、泣いて欲しいと。
でも、俺は泣けない。
『お前には感情がないのか………!!』
耳をつんざくような叫び声を、今でも覚えている。
ゆっくりと立ち上がった俺は、左膝を撫でてから病室へと戻る。
うざったらしいほどに飾られた見舞いの花を処分するように看護師に言って、俺は眠る。
走れない俺には、何の価値も残っていない。
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