身長差カップル 〈哀〉
哀
私は大好きな彼女のいる夜景の綺麗な港へ来ていた。休日は釣り人で賑わう波止場に腰掛け水面を見る。遠くの水面は夜景を反射させてキラキラと輝いている。だが足元は真っ暗だ。水面も吸い込まれそうな黒だ。
私の大好きな彼女は三年前にこの海に沈んだ。ああの日私は彼女と一日ショッピングを楽しんでいた。夕飯も食べ終え、にぎやかな様子に惹かれてこの海にやってきた。どうやらその日は近くで花火大会が行われていたらしい。今いるところとは別の波止場から花火がよく見えるのだそうだ。
私はあまりにも人が多いのではぐれてしまわないか心配だったが彼女の押しに負けて一緒に花火を見ていくことになった。よく見える波止場へ向かう途中、私は彼女の手をしっかり握っていた。
背の小さな彼女の小さな手。身長差は30cmで凸凹カップルとよく言われたのが懐かしい。そんな凸凹な私たちはその波止場に向かったが流石に人が多かった。私は握っていた彼女の手を離してしまったのだ。
その後は警察から聞いた話だが小さな彼女は人混みに押し出され海に落ちてしまったらしい。一応柵はあったのだが小さな彼女は柵の間から落とされてしまったらしい。
小さくて可愛らしい彼女を何があっても守る。私は彼女に告白した時そう誓ったのに、私は守れなかった。私はどうしてあの手を離してしまったのかといつも思う。いつまで経っても消えることのない後悔だ。
だから今日私はここに来た。彼女の命日である今日は魂もこの海に帰って来ている気がする。だからその魂の元へ私も向かうのだ。遠くに見える煌めきが彼女達の魂に見える。私はゆっくりと海へ入る。暗闇に飲み込まれるのは正直怖い。だがこれは彼女へのせめてもの償いだと思うことにした。冷たい水が徐々に体温を奪っていく。意識が混濁してくる。遠くに彼女が見える。小さくて可愛らしい私の大切な彼女。
「もうすぐ行くから、そこで待っていてね。愛してるよ」
私の体は海へと沈んでいったらしい。
「なんでもう来ちゃったの」
彼女は私をぽこぽこと叩く。彼女が背中を叩いているつもりらしいが小さくて腰にしか届いていない。
「だって、あなたがいない世界は退屈で、無意味で、モノクロだから」
私は振り返り、彼女を抱きしめて答える。
「馬鹿みたい」
そう言いながら彼女は泣いていた。私は彼女の涙が止まるまでずっと抱きしめ背中をさすった。そうして泣き止んだら私は彼女と行くべきところへ固く手を繋いで向かった。もうこの手を離さない、と誓いながら。
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