154 控えめにしたつもりが、世間では乱暴

 ぬかるんだ道なので予定よりは遅れたものの、暗くなる前にはコメリ村に到着した。

 前にエアが来た時よりも発展していて、キレイな建物も増えていた。

 宿まで行ってそこで今日は解散になる。馬の世話は宿の人に頼めるのだ。

 明日の朝まで護衛の仕事もないので、集合時間を確認してから「火影ほかげの牙」と別れる。


 売り切ったのか屋台は出ていないが、前に来た時より食堂は増えていた。

 賑わっている所に入る。明かり節約のため、暗くなる前に夕食にするのは珍しくないのだ。


 夜のおすすめセットはウサギ肉の野菜炒めとパンとスープといったメニューだったが、競合店もあるからか、中々の美味しさだった。

 従魔連れの冒険者もいるため、精霊獣たちも歓迎されたが、一体一セットずつとは思わなかったらしく、驚かれた。人間と違う物を食べる従魔も多いらしい。


 精霊獣たちは机に布を敷いて、そこに座って食べているが、誰もちょっかいをかけようとはしない。

 そもそもが食事時で空腹なのだ。猫っぽいのがたくさんいるなぁ、と思うだけだろう。…と思っていたのだが。


「…なぁ、あそこにいるの、『王子』呼ばわりされて、キレてぶん投げて埋めて燃やして始末した人じゃないか?」


 ……色々混ざってるし、尾ヒレも付いている。


「そんな話だったか?細身でキレイな顔した冒険者には気を付けろ、って話は聞いたことあるけど」


「そうそう。キレイな緑の目だって話で…角度的に目が見えないけど」


「だいたい、何で冒険者を『王子』呼びなんだ?亡国の王子だったワケでもあるまいし」


「いやいや、物語の『憧れの王子様』の方の王子だとさ。本人、どこかで聞いたから乱暴に振る舞って幻滅させたんだろうけど」


 エアとしては控えめにしたつもりだった。世間では乱暴なのか。


「幻滅というか、すごい怖がられてたぞ」


「絡まれたついでに、キャーキャー騒いでた女たちに投げ付けたからだろ」


「…何を投げたって?」


「絡んだ連中。片手でぽいっと、だとさ。どこまで本当か知らないけど」


「実はエレナーダダンジョンソロ攻略者だという噂もあるよな」


 ドロップ品を色々と売ってる辺りでも、そんな事実の噂が流れたのだろう。


「そうそう、エレナーダと言えば、強い冒険者を巡って騒ぎがあったとか」


「巡って?貴族が強引に取り込もうとしたってことか?強い冒険者なのに?」


「そう。矛盾してるんだけど、甘く見てたらしくてかなり騒ぎになって行方不明者が大勢出たとか」


「その流れで行方不明って……殺して回ったってことか?」


「さぁ?」


「権力でどうにかなると思ってる貴族って…。貴族の私兵って冒険者上がりの人も多いって聞くけど、止めなかったのか…止められなかったのか」


「で、その強い冒険者はどうなったんだ?逃げた?」


「いつの間にかいなくなってたらしいぞ。まぁ、普通に面倒臭い所には長居しないわな」


 噂の的が同一人物とはさすがに思わなかったらしい。

 王都エレナーダを出て一ヶ月ぐらい経ってるので、こちらまで噂が流れて来ているのはおかしくないが、この程度は甘くてもっと様々な尾ヒレ背ビレが付いてそうだった。


 夕食後は市場を回って食材を買った。

 ダンジョンではなかった今が旬の夏野菜が売っていた。この村で作ってるのだろう。鮮度もかなりよかった。

 その後、野営が出来る空き地へと行くと、先客がそこそこいた。

 大部屋が嫌な冒険者は結構いる。

 プライバシーはまったくない上、衛生面でもこの時期は虫が涌くこともあるし、色々と盗まれることもあるので。


 別に雇い主が用意した部屋に泊まらないとならないワケでもないので、自費で他の部屋に泊まればいいだけだ。

 そんな金ももったいない、下手な部屋より野営の方が設備がいいし、と思う冒険者がここにいるのである。そこそこの容量のマジックバッグがあれば、ベッドだって入るのだから。


 エアも後者で豪華なマジックテントがあるので、大半の宿の部屋より豪華だし、結界を張るので防犯面でもまったく問題ない。

 マジックテントの出入り口自体、そう簡単にこじ開けられないが、魔法を使えば何とかなる、かもしれないので。


 適当な場所にマジックテントを出し、結界も張ると、さっさと中に入り、リビングで精霊獣たちと一緒にデザートを食べた。

 あんこが食べたかったのでフルーツ大福である。

 いちご以外のフルーツを入れても甲乙付けがたい美味しさがあるので、色々と作ったのだ。あんこに使う豆の種類や砂糖も色々変えて。ベリー類でも作るといいかもしれない。

 変わった物を食べていると、更に目立つので、一応は自重していたのである。

 これでも、一応は。


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