153 贅沢に育ってて羨ましいな
今日も暑い日になったので、『食をおろそかにすると、自分に返って来る』というのがしっかり証明された。
昼食になってもバテて食欲が沸かないらしく、ドライフルーツだけで済ましていたのだ。
それは商人たちだけじゃなく、「
まぁ、しょうがないな、とエアは銅貨1枚でかき氷を売ってやった。手持ちのカップに入るぐらいの量で。
食べられる氷の塊を出したのはエアだが、細かく削ってふわふわのかき氷にしたのは風の精霊獣のシエロである。
かき氷器でかき氷を作っていたエアを見て、練習したのだ。
「そのかき氷器は一体どこで?」と高性能のかき氷器にツッコミを入れられるのも面倒なので、シエロが作れるようになってて助かった。
削るより速いこともある。
シロップは選ばせず、どこかで買った果実水で。
エアたちのかき氷には、シロップ漬けにしたカットフルーツをトッピング。
せっせと作って瓶に保存していたものである。
時間停止収納があるので生で保存出来るのだが、生クリームのケーキに使う時はシロップ漬けじゃないと甘さが負けるし、パフェの時も大活用出来るし、ちょっとした手土産でも喜ばれるので。シロップ漬けは密閉すると日持ちするのだ。
生の果物で作るものとはまた味が違うし、果汁が少ない果実でも果実水を作るために果実シロップも果実酒も作っている。
熱中症予防に塩レモン飴はサービスであげた。買った物である。
暑い時は熱中症にならないよう水分と塩を摂ることは知られているので、こういった色んな味の塩飴もたくさんあるのだが、「そんなの塩でいいだろ」とケチって食べ易さを考えない人たちは結局、熱中症にになったりするワケだ。
ベテラン冒険者なら夏だけじゃなく、ダンジョンの暑いフロアにも行くので、常備しているものである。
すこぶる元気なエアたちの昼食は、涼しく冷やし中華にした。
作り置きの中華麺を茹でて洗って冷やし、具材を刻んで盛り、タレをかける、というシンプルな料理だが、具材によって豪華にも質素にもなる。
今回は熊肉のワイン煮も乗せたので、豪華の方だった。
鶏ガラと酢と蜂蜜とハーブで作った甘酢ダレも美味しく、さっぱりとしていた。タレによってもバリエーションが色々と楽しめる料理なのである。
精霊獣たちも気に入ったらしく、うんうん、頷いていた。
氷を食べて体内から涼しくし、日陰で休んだこともあり、バテていた連中は午後からは少し復活した。今日の夜はコメリ村に泊まるので、それが元気付けているのもあるのかもしれない。
行商で行き来が多いルートだと、村でもちゃんとした宿屋も食堂もあるのだ。
護衛は大部屋になるそうだが、エアたちはそこに泊まらない。
野営用の空き地でテントを張る予定だった。
******
夏の天気は不安定。
そろそろ休憩を入れるタイミングで通り雨が降って来た。
さっさと休憩予定の空き地まで移動するが、土砂降りのため、みんなびしょ濡れだった。
――エアたち以外は。
エアは雨よけのマジックアイテムを使っているし、精霊獣たちは精神生命体なので雨程度、どうとでもなる。
木陰程度では濡れる吹き降りの状況なので、仕方なく、集まってもらい結界の魔道具を張ってやった。
雨も遮る。馬たちには魔法で物理結界を張ってあげた。
「クラウン、シエロ、濡れた衣類や身体を乾かしてやって」
水の精霊獣のクラウン、風の精霊獣のシエロだと上手に乾かしてくれるのだ。
火の精霊獣のロッソは温めるのは得意だが、乾かすのは乾かし過ぎるので。
カッサカサになったエアの肌は【回復リング】で問題なく戻ったものの、髪はポーションでケアするまでパッサパサだった。
一緒に遊んでたり鍛錬したりしているだけじゃなく、ちゃんと精霊獣たちの能力も色々試しているのである。
馬はエアが魔法で乾かし、ついでに水を飲ませ飼い葉をやり、と世話した後、エアたちは別で天幕を張ってそこの下でおやつにした。
せいぜい四人ぐらいしか入れないので結界にしたワケだ。
エアたちばかり働いてるのを他の人たちは気まずそうにしていたが、通り雨なので数十分で止んだ。
「少しペースを速めるぞ。水属性魔物が出て来るから、気を付けて進め。無視出来ないものだけ倒せ。キリがないから」
大して強くないカエルやトカゲ系魔物だが、数が多いのが厄介だった。踏み付けて滑って転ぶ人もいるし、酸や毒を持ってる魔物もいる。
そういった魔物たちはEランクでは手に余るので、精霊獣たちは護衛のサポートに回ってもらい、エアは最後尾で魔物たちを引き付けて足止めし、隊商を逃がす役目だ。こんな時にも石は大役立ちである。
こういった水属性魔物は水分が多いため、下手に燃やすと水蒸気で視界が奪われるし、多勢に無勢では大して効果はない。
しかし、ロッソのような圧倒的な火力があれば別だ。
光の精霊獣のルーチェはアンデッドに効果的な光魔法を得意としているが、攻撃魔法もちゃんと持っている。光は照らすだけではなく、集束するとかなりの殺傷力が高くなるのだ。
まぁ、一番、水属性魔物に強いのは水の精霊のクラウンである。
水分を抜いてしまえば死ぬしかない。
水属性魔物以外の高ランクの魔物なら魔力で常に身体を防御しているので抵抗出来るが、それ以外は無理だろう。
エアは結界も併用し、ほぼ殲滅してから隊商と再び合流した。
ほぼ、というのは、カエル系魔物の胃袋は防水袋、皮は鞣して防水布として使えるし、粘液も接着剤に加工して使えるし、肉は淡白だが、料理次第で美味しく頂けるから確保したのだ。
次の休憩で解体して、肉は調味液に漬けておいた。
「エアさん、カエル食べるんですか?」
嫌そうに訊いたのは犬獣人で女剣士のドニヤだ。
「贅沢に育ってて羨ましいな」
エアの家では安価なカエル肉はご馳走だった。
だからこそ、色んな調理方法を知っているのだ。
肉屋には肉しか売ってなかったので、カエルが素材としても使える部位が多いと知ったのは、冒険者になってからだが。
嫌味じゃなく言ったのが分かったのか、ドニヤはごにょごにょと言いいかけて口ごもり、そのまま黙った。
「…おれたち、いる意味あるんですかね…」
すると、ランガルがため息混じりに呟いた。
「自分の無力さを知るのもいい経験だ。次はもう少し上手くやれるだろ?暑さや雨の備え、水属性魔物対策、食事の重要さ」
「エアさんがまったく割に合わない依頼を受けたのは、本当に後輩への指導のため、なんですね」
バズーがしみじみと言う。
「他に何があると?精霊獣たちに護衛依頼を体験させたいのもあるけどな。人間社会にはまだ馴染みが薄く、かといってやたらな人と関わると面倒なことになるから」
いや、もう面倒なことになってるか。
宰相に呼び出され、貴族たちの遣いに追いかけ回され、迷惑したことなんてすっかり忘れていた。
冒険者は切り替えが早くないとやって行けないし、一ヶ月以上経つのだから無理もない。
「それでも、エアさんにメリットはあまりないじゃないですか」
「おれも先輩たちにお世話になったから、っていう理由じゃ納得出来ないか?その先輩たちに恩を返そうにも、もうこの世からいなかったり、行方知れずだったりするし」
行方知れずの先輩は多分、どこかで冒険者を引退して所帯を持っていることだろう。
「そもそも、後輩を育てる意味を勘違いしてないか。戦力になる奴が増えれば街の周辺で狩りをするから魔物が増え過ぎず、街は安全、街道まで魔物が出て来ることも少なくなる。ダンジョンに深く潜る奴が増えれば、そのドロップで街も潤うし、魔物を減らすことはスタンピード対策にもなる」
決して、後輩たちの安全と儲けだけのためじゃないのだ。
考えてみたこともなかったようで、バズーたちは面食らっていた。
そんな風に回り回ってのことなのだと、エアも教えてもらって初めて意識したものだ。
「まぁ、実際、余裕のある冒険者は少ないし、ちゃんと育成するなら金もかかるから、いくらギルドが冒険者育成を推奨したくても
それでも、警備兵たちより腕が立つ冒険者が多いのは、実戦を踏みまくって痛い目にも遭って身体で戦い方を覚えたからだ。人間相手ともまた違う。
思う所があったのか、休憩後、再び出発した時、「
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