006 便利な奴がいないせいで… ―ゲラーチside―
パーティリーダーで長剣使いのゲラーチ、槍使いのカッシオ、弓師で風魔法も使えるモーリッツ、斥候で短剣使いのバニオの四人は、王都エレナーダから東にあるニーベルングの街に向かっていた。
普段なら護衛依頼や配達依頼を受けてから移動するのだが、今回ばかりは王都に居辛い状況なので仕方なかった。
冒険者ギルド内で騒ぎになったのはマズかった。
貸し馬を借りるという移動手段もあるが、別に急いではいないので徒歩移動である。
馬で四日、途中のオグニ村に泊まるのならもう一日プラス、といった距離で、徒歩でも護衛対象がいない分、移動速度が速くなる、ハズなのだが、ゲラーチたちは三日経っても半分も進んでいなかった。
「…ちっ!ヘタクソめ!」
小型の鳥系魔物を外した弓師のモーリッツに、ゲラーチは舌打ちする。
「最近、弓の練習をサボってるからだ」
即座に指摘するのは空気の読めなさに定評があるカッシオだ。
「うるさい!」
自分でも外すとは思わなかったのか、モーリッツが逆ギレする。
「いくら最近は練習不足だったとしても、モーリッツがこれだけ何度も外すのはおかしくないか?ちょっと前まではバシッと決めてたのに」
斥候なだけに分析も得意なバニオが首を傾げる。
「呪われた、とか?」
バニオが可能性を挙げた。
「誰に?命中率を落とす呪いなんて聞いたことないぞ」
何をバカな、と言わんばかりにゲラーチが言う。
すると、あ…とモーリッツが何かに思い当たったかのような声を上げた。
「何だ?気になるから言え」
気が短く、細かいことも考えたくない脳筋のカッシオが、すぐに促す。
「多分、スキルが切れた反動のせいだ」
「何の?反動があるスキルなんてあったか?」
何だそれ、と拍子抜けしたようにカッシオが聞き返す。
「ユニークスキルだな。家系で受け継いでいたり、生まれつき持っていたりする一般的じゃないスキル。強力だが、デメリットも多い」
答えたのはゲラーチだ。
「そうだ。ええっと…俺のは【運分配】というスキルで、運のいい人から運をもらって、自分の運を上げるという…」
言い辛そうなモーリッツの言葉を遮ったのは、バニオだった。
「分かった!そのスキルでエアから運を奪ってたんだな?いくら最悪の毒蛇とはいえ、あれだけ運動神経がいいエアなのに、避けられなかったのはおかしいと思った」
「お前もか」
「って、リーダーもか。ちょっと前のことが嘘のように、リーダーの動きが悪くなったことと関係があるんだろ?」
仲間が出来た!とばかりに、喜び勇んでモーリッツが確認を入れる。
「まぁな。こうなったら一蓮托生だし、俺のスキルを知った上で次に入れるメンバーを選んだ方がいいからな。【寄生】スキルだ。寄生対象のステータスを奪って自分に上乗せすることが出来る。最大で三割。
デメリットは借り物の力だからこちらのレベルが上がり難い、解除した時は反動で元々のステータスから四割減になる。寄生していた期間が長ければ長い程、反動期間も長くなる」
「じゃ、エアの怪我、リーダーのせいもあったんじゃねーか!」
モーリッツとゲラーチの二人にかなり食いものにされていたエアに、バニオも思う所があったらしく憤る。
「お前だって人のこと言えないだろ!【催眠】か【暗示】といった何か精神系の魔法やスキルを使って言いくるめて、エアの取り分をかなり減らしてたクセに」
パーティの資金の管理や依頼達成報酬、素材の買取金額といった各自の取り分を決めていたのは、斥候のバニオだった。
「【交渉術】スキルだ。知ってたのに許容してたのはリーダーだろうが!エアはDランクのおれたちよりランクが下だったし、年下、それに、新入りだったんだから取り分を減らして当然だろ。おれはエアの怪我には関係ない!」
「ある!もっといい手袋だったら毒牙を通さなかったし、エアに金の余裕があって、もうちょっとちゃんと食えるようになってれば、俺とモーリッツのスキルの影響はあまり受けず、体力だってあったハズだ。バニオ、お前だけいい人ぶるなよ」
ゲラーチに指摘されて、バニオはぐっと黙った。自覚はあったらしい。
悪い空気を一掃したのは、軽くため息を漏らしたカッシオだった。
「やってしまったものは仕方ない。お前らにつけ込まれる隙があったのも、油断したのもエアだ」
短気で強さがすべての脳筋だが、こんな風に割り切りが早く、ムードメーカーな所は重宝されていた。
「そ、そうだよな。今更気にしたってどうしようもないし」
「エアがもうちょっと気を付ければよかった話だよな!」
「エアは戦闘面だけじゃなく、狩りも出来てメシも作れる便利な奴だった。いないせいでメシがマズイ」
モーリッツ、バニオの言葉に、ゲラーチが今現在の不自由さを挙げて惜しんだ。
そう、ゲラーチたちの進行速度が上がらないのは、ロクに準備せずに王都を出て来たこと、狩りや食事や野営の手際が悪く、時間がかかり過ぎていることもあったのだ。
この四人はまだ噂が回る早さを知らなかった。
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