幼馴染に恋人ができたが寝取られでもないので僕は落ち込んでないのに色んな美少女が僕に近寄ってくる
せーてん
僕と幼馴染の計画
「私昨日から
5月の爽やかな朝日の中で俺、
それは唐突な宣言ではなかった。
そろそろだろうなという予感もあった。
そして僕は拳を上げて楓とグータッチする。
「やったじゃん!計画成功だな!」
「うん、計画成功!
昨日の夜のうちにパパとママには言っておいたから明日からは完全にバラバラの時間で大丈夫だよ。
それじゃあ私は先に行くね!」
満面の笑みで楓は学校へ向けて駆け出した。
僕も楓との計画が半分は達成されたことに嬉しくなり自然と笑顔を浮かべながら学校へと歩み始めた。
僕たちの計画とはズバリ
『お互いにさっさと恋人を作って、自分たちをくっつけようとする両家の両親を諦めさせよう計画』
である。
僕と楓は家がお隣で幼稚園、小学校、中学校、高校とずっと学校も同じだ。
両家の両親も非常に仲が良く僕たちが中学生になった頃から二人は付き合わないのか?と強く干渉してくるようになった。
楓とは友人としての相性は最高だと思う。
気を使わなくていいし、お互いに何をして欲しいのか自然と分かる。
10年以上の付き合いは伊達ではない。
でも男女となると話は別だ。
僕の好みはインドア趣味な自分と一緒にのんびり過ごしてくれそうな穏やかな女性。
楓の好みはアクティブな楓と同じくガンガン色んなとこへ行ってくれる男性。
完全に異性に求めるものと元来の性格が真反対なのだ。
それでも両親たちはそんなの付き合っていれば気にならなくなるから、と諦めなかった。
そこで僕と楓は高校入学と同時に計画を立てたのだ。
お互いに理想の恋人をゲットすることで両親たちを諦めさせよう、という計画である。
そして約1年をかけて楓は遂に理想の彼氏をゲットしたのである。
若林先輩は男子バレーボール部に所属する3年生である。
バレーの腕前はギリギリレギュラーという感じだがそのポジションを得るために
無心で努力する姿と後輩たちを優しく熱心に指導している姿に惹かれた、
と楓は言っていた。
去年の秋ごろからアタックを開始して約半年かけて口説き落とした訳である。
「よし!あとは僕も彼女を作るだけだな!」
と改めて気合を入れるが正直勝算は何もない。
ここ1年間僕も彼女を作る為に色々と頑張ったのだ。
ファッション誌などを参考に髪形や身だしなみに気を使ったり、
積極的にクラスの女子に話しかけたりもした。
しかし、そもそも彼女が出来ないと私服を披露する機会はないし、
何故かクラスの女子は僕に対して及び腰であった。
僕の顔つきは非常に中性的で女の子と間違えられたことも度々あるような顔つきなので強面ではない。
顔つきに問題があるとは思えないがそれでも女子から距離を取られたのは彼女が欲しいという下心が透けていたからだろうか?
何にせよ楓が彼氏をゲットした以上、僕も今後は更に気合を入れねばと誓いながら我が
「・・・?」
校内に入ると凄い視線を感じる。
色んな人から見られている気がする。
というか間違いなく見られている。
主に視線の主は女子生徒のようだ。
なんかヒソヒソ声も聞こえてくる。
何かやらかした記憶はないがあまり気持ちが良いものでもないのでそそくさと教室に向かうことにした。
「おはよー」
いつも通りの挨拶をしながら教室に入ると一部の女子から謎の視線を受ける。
やはり何かてしまったのだろうか。
僕は席に着くと前の席の親友
「おはよう、大我」
「おう祐一か、おはようさん」
「ねぇ今朝から妙に視線を感じるんだけど何でだと思う」
「お前が何かやらかすとは思えんしなぁ
少なくとも俺は何も聞いてないぜ」
「そっか…気のせいならいいんだけどな」
「まぁ野球部はお前に世話になってるし
何か困ったことがあれば相談しろよ」
「ありがとう大我」
結局謎の視線の正体は分かることなく担任が教室にやってきてSHRになり、
その後も午前の授業が淡々と終わっていった。
いや、淡々と終わっていったのは授業だけで
休み時間が来るたびに少しずつ僕への視線は増えている。
何なんだこれ・・・
昼休みになりいつも通り大我と二人で弁当を食べようとした時だった。
「渡瀬くん、ちょっといいかな?」
僕に話しかけてきたのは
学年一の美少女とも名高く、とある異名で呼ばれているクラスメイトだ。
スタイルも抜群で男子からの人気も高い。
彼女を作ろうと色んな女子に話しかけてた僕だが一之宮さんは流石に気後れして殆ど話したことがなかったので、急に話しかけてきたことに内心少し驚いていた。
「長い話じゃないければ大丈夫だよ。
あ、大我は先に食べてて」
大我にそう告げると僕は一之宮さんの方に向き直す。
「あのさ、今日雪村さんと一緒に登校してこなかったって本当?」
「うん、今日からは楓とは一緒に登校しないよ。
楓に彼氏ができたからね。
なのに僕と一緒に登校してたら楓の彼氏に変に思われちゃうし」
僕の発言にクラスがざわついた気がする。
「へ、へー、渡瀬くんと雪村さんが付き合ってないのって本当だったんだ」
「うん、僕と楓はただの幼馴染だよ」
「そっかそっか、えへへ~」
僕の言葉を聞くと何故か一之宮さんはミディアムヘアの先っちょを指でくるくると巻きながら嬉しそうにする。
「あっ、お昼ご飯邪魔しちゃってごめんね、それじゃ」
そう言って一之宮さんは僕の席から去ると女子たちの輪に入っていき、ワイワイとおしゃべりを始めた。
そんな一之宮さんを横目に見つつ僕は弁当の蓋を開けた。
「お前って本当に雪村と付き合ってなかったんだな」
「僕は何度もそう言ったじゃん」
「すまんすまん、疑ってたわけじゃないんだけどお前らが一緒にいるのが自然すぎてな。それより雪村の彼氏って誰なんだ?」
「バレー部の若林先輩」
「あー、あの人か。イケメンって訳じゃないけど悪い噂は聞かないな」
「そりゃ楓が半年かけてやっと口説けた人だし、女性関係にだらしないってことはないと思う」
「しかし雪村に彼氏かー。今日の野球部の練習モチベーションは酷そうだな」
「何で?」
「お前に遠慮して雪村の事諦めてたけど実は雪村が好きって男子は多いんだぜ。
我が野球部もご多分に漏れずというやつだ」
「ははは、そりゃ仕方ないね。
ところで大我は実は楓を好きだった、とかないの?」
「俺は今のところ野球一筋だ!
彼女は作るつもりもないな」
「モテるのに勿体ないねぇ」
そう大我はこのストイックな性格と部活で鍛え上げた肉体で女子からの人気はそこそこある。
何度か告白もされたというのに全部断っている。
そのストイックさが更に人気に拍車をかけているという男なのだ。
放課後になると僕は調理教室に向かう。
「こんにちはー」
いつも通りのあいさつをしながら調理教室に入る。
「おう、渡瀬か」
「渡瀬先輩こんにちは」
「こんちゃーっす」
「渡瀬君こんにちは」
既に教室にて部活を始めていた部員たちから挨拶が返ってくる。
僕が所属しているのは料理部。
その名の通り料理を作る部活である。
作った料理は自分たちだけで食べることもあれば運動部に差し入れとして持っていくこともある。
勿論大我の所属する野球部も例外ではない。
料理部に男子は僕しかいない。
ただ、彼女を作りたいから料理部に入ったかというとそれは違う。
料理に関しては昔から大好きで純粋に腕前を向上させたくて入部したのだ。
世間では料理男子なんて言葉もあるくらいだし自分以外にも男子の入部はあるだろうと思っていたら一人もいなかったのは計算外であった。
料理部は材料費の問題もあるので活動は週1回である。
今日は筑前煮を作ることになっており、既に準備を始めている部員は野菜を順次カットしていた。
僕も鞄と上着を教室の隅に置くと部員と混ざって調理を始まる。
「そういえば渡瀬先輩って雪村先輩と別れたッて本当ですか?」
「それは嘘だな。
そもそも僕と楓は元から付き合ってないよ」
「マジっすか!?」
「マジだよ」
今朝から何回目になるか分からない説明を後輩の
円行はいわゆるギャル的な外見をしており、染めた茶髪をサイドポニーで纏めている。
クリっとした目も可愛らしい後輩なのだが今はその目をこれでもかと見開いている。
「ってことは渡瀬先輩って今フリーですか?」
「そうだね」
「じゃあアタシが彼女に立候補していいっすか?」
「うーん、今はそれよりも手を動かそうね」
「ぶーぶー渡瀬先輩が冷たいっすー」
「そもそも円行は部活以外にバイトもしてるんだろ?
恋愛とかしてる暇あるのか」
「恋愛の為なら時間は作るもんです!」
「なるほど、なんにせよ今はまず筑前煮だ。
あまり作業が遅れると味をしみこませる時間がなくなる」
「はーい」
円行は見た目に反して実に素直な後輩だ。
こちらの指示が真面目なものだと感じたのか雑談を中断して料理に集中する。
アルバイトをしているのも母子家庭の家計を支える為だと言っていたし、
料理部に入ったのも母親に美味しいご飯を食べさせたいからだという。
1か月程度の付き合い、厳密にはまだ数日しか会っていないが円行が真面目でいい子なのは間違いなかった。
その日の筑前煮は非常に良い出来であり、みんながパクパク食べてしまいお裾分け分が無かったのが大我に申し訳なかった。
「ただいまー」
部活から帰宅する。
パタパタパタとリビングから足音が聞こえる。
「お兄ちゃんお帰りなさい」
「ただいまマリア」
玄関まで僕を迎えに来てくれたのは
実妹でもなければ義妹でもない。
母方の従姉妹である。
母さんの弟さんと北欧出身の奥さんの間に生まれたマリアは母親譲りの金髪碧眼の色白美少女である。
僕の1つ年下のマリアは昔から僕によく懐いており、僕を実の兄の様に慕ってくれておりお兄ちゃんと呼んでいる。
僕もそんなマリアを実の妹の様に可愛がっており、目に入れても痛くないほど溺愛している。
中学までは叔母の家のある隣の市に住んでいたのだが、学力的に見合う高校が同市にはなく、丁度いい進学校として僕と同じ三陽高校に進学したのだ。
最初はマリアの実家から通う予定だったのだがあまりに通勤時間が長いことから、
僕の母が叔父さんに高校の3年間は自分の家で預かるのはどうか?と提案した結果、
マリアも通学時間が徒歩15分になると大喜びで受け入れたため今年の春から同居することになったのである。
「ねぇお兄ちゃん、楓さんが若林先輩と付き合ったって本当?」
リビングのソファに腰掛けるとマリアから質問がきた。
「うん、本当だよ」
本当に今日何度目だよという質問だが他ならぬマリアからの質問なのでしっかりと答える。
「えーーーー!!楓ちゃん彼氏作っちゃったの!?!?」
台所から母のそんな声が聞こえたが無視無視。
「お兄ちゃんから二人は付き合ってないって聞いてたけどいつかは付き合うものだと思ってた」
「僕と楓は友達にはなれても恋人にはどう足掻いてもなれないよ。
なんせ異性の趣味が全く違うからね」
「楓さんってどういう人が好みだったの?」
「バリバリのスポーツマンであのアクティブの鬼である楓を引っ張っていってくれる超アクティブマン」
「うーん、確かにそれはお兄ちゃんとは真逆の男性だね」
「だろ?」
「じゃあお兄ちゃんの好みは?」
「そうだな・・・
僕と一緒に料理を作ってくれたり、お家でのんびりと過ごすことを楽しんでくれる人かな」
「じゃあ私ってお兄ちゃんの好み!?」
滅多にしないというか初めてのマリアとのコイバナだが何やらマリアのツボにハマったらしく興奮気味な質問が飛び出した。
確かにマリアは読書が趣味で僕に色々とおすすめの本を貸してくれたりする。
休みの日は二人でゆったりと読書して過ごすなんてのもよくある。
「確かにタイプと言えばタイプかもしれないけどマリアは妹みたいなものだし」
「むー」
そんな僕の言葉にマリアはむくれたような顔をする。
何でだ?
「マリアは美人だし僕なんかよりもいい男が見つかるよ」
「むー」
気分を害したようなのでフォローしたはずがマリアは更にむくれる。
本当になんでだ?
「それにマリアは『三女神』候補って噂をよく聞くしな。
僕とじゃ釣り合いが取れたもんじゃないよ」
三陽の三女神。
いつ始まったか定かではないが各学年の1番の美少女を学生たちで選出し、
その子を女神と呼ぶ謎の風習である。
1年の女神、2年の女神、3年の女神を合わせて三女神と呼ぶ。
甚だ失礼な風習だとは思うのだが未だに続いており、今年も新1年生から女神が選出される時期となっていた。
日本人離れした美貌を持つマリアは当然ながら女神候補。
というかぶっちぎりで暫定1位と聞いている。
そういや円行さんも候補には入ってるとか聞いたな。
「女神とか面倒だしやだよー。
中学の時だって告白断るの面倒だったのに…」
「マリアほど美人ならモテるだろうけどそれはそれで大変なんだな」
「それに見た目で言ったら3プリ…あっ」
「ん?3プリ?」
僕と雑談していたマリアがやってしまったという表情をする。
「ねぇ3プリって何?」
「え、そんなこと言ったかな?何のことかわからない」
明らかに目が泳いでおりバレバレである。
「ふーん、じゃあ今度のお休みに買い物の荷物持ちする話は無しね」
「えええええやだぁぁぁぁ!お兄ちゃんとデートするの!!」
「じゃあ3プリについて教えて」
「・・・絶対に他の男子には言わないでね」
「分かった」
「・・・私から聞いたって他の女子にも言わないでね」
「わかった」
「はぁ・・・」
よほど僕に買い物の荷物持ちをさせたかったのかマリアは観念したようにポツポツと語り始めた。
「実は三女神の男子版で三王子、通称3プリってのがあるの」
「三女神は去年の入学と同時に知るくらい有名だけど3プリなんて2年になっても聞いたことない」
「そりゃ女子だけの秘密だもん。だから私から聞いたって絶対に言わないでよね」
「わかったよ。
しかし三女神の男子版ってことは各学年1名の男子が選ばれる感じなの?」
「うん、そうだよ」
「因みに今の3プリって誰?」
「それだけは言えない」
「どうしても?」
「言えない」
「わかった。これ以上は聞かない」
「2人とも晩御飯出来たわよー」
会話のキリがいいところで母が声をかけてきたので3プリの話を切り上げて晩御飯を食うことにした。
晩御飯は大好物のカレーだった。
「ねぇお兄ちゃん、一緒に登校していい?」
翌朝家を出ようとしたらマリアがそんなことを言ってきた。
「別にいいぞ」
今日からは楓と待ち合わせることもないし、マリアと一緒に登校することに何の支障もない。
「やったー!!」
たかが一緒に登校するだけなのに何故マリアはこんなに喜んでるのかわからんが
大事な従姉妹が喜んでいる姿は僕にとっても幸せな光景なので自然と笑みがこぼれる。
「えいっ!」
そんな掛け声と共にマリアは僕の腕に自身の腕を絡めてきた。
「お、おいマリアなんで腕を絡める」
「だって子供の頃はよくこうしてたじゃん」
「それ小学生の頃の話だろ」
「別に高校生になったら従姉妹が腕組んじゃいけない法律とかないし~」
「歩きにくいだろ」
「別に気にしないし」
「クラスメイトに見られたら恥ずかしくないのか」
「むしろ見せつけたいよ」
マリアを何とか振り払おうとするが結局それは叶わず高校までの15分間腕を組んだまま歩くことになった。
妹扱いしているとはいえ日本人離れしたマリアの大きな胸が腕にあたった状態で邪念を抱かずにいるのは至難の業過ぎたよ。
「えっアレって渡瀬くん!?」
「隣の美少女ダレだよ!」
「たしか1年の女神候補の子だよ」
「ちくしょー雪村の次はあの子かよ、なんで渡瀬ばっかり」
「まぁ渡瀬君なら仕方ないわよね」
「あーあ、フリーになったって聞いたのに…」
校門まで辿り着くと僕らへの視線が凄いことになっていた。
何やらヒソヒソと話しているがあまりに人数が多すぎて何を言っているのか全く聞き取れなかった。
校舎の玄関にたどり着きやっとマリアが腕を離してくれたかと思うと
「祐一!また家でねー!」
などと言い放ちながら1年の下足箱へと向かって行った。
いやいや、今までお前俺の事祐一とか呼んだこと無いじゃん。
何やら周囲が更にザワついた気もするがさっさと教室に向かおうと僕も2年の下足箱で靴を履き替えて教室に向かった。
「渡瀬くんどういうこと!」
教室に辿り着いた僕を待っていたのは怒り顔の一之宮さんだった。
顔が近い顔が近い。
怒っていても2年の女神に選ばれた一之宮さんの顔は可愛らしく、
そんな顔をずいっと近づけられると僕は照れてしまう。
「昨日渡瀬くんは雪村さんと付き合ってないって言ったよね」
「うん」
「つまり彼女が居ないってことだよね」
「まぁそうだね」
「なのに今日は彼女さんと一緒に腕を組んで登校してたよね」
「え?」
「しかも金髪の凄い可愛い彼女さんとは同棲してるって!」
ここまで言われてやっと僕は一之宮さんの勘違いに気付いた。
「マリアは彼女じゃないよ」
「呼び捨て!?」
「マリアは従姉妹だからね。
子供の頃からずっと可愛がってきた妹みたいなモノだから名前で呼んでるんだ」
「従姉妹さん・・・?」
「うん。三陽高校に受かったけど実家が遠いんで母さんがウチに住めばいいよって言って同居することになった」
「へ、へぇ・・・同居・・・でも二人きりではないんだ・・・」
「ははは、流石に二人きりはないよ。
そんな状態じゃ叔父さんはウチで住むのを許さないだろうし、
ウチの両親だってそんなの許すはずないよ」
「そっかそっか・・・従姉妹さんとただの同居か・・・」
どうやら一之宮さんは僕の現状をやっとわかってくれたようだ。
「うんうん、渡瀬くんがそんな破廉恥な真似する訳ないもんね」
ん?何が破廉恥なんだろう?
「でもあの従姉妹さんは明らかに狙ってるっぽいしウカウカしてられないわよ巡」
ん?一之宮さんが小声でなんかブツブツ言っている。
癖なんだろうか。
そんな疑問を抱いていると担任が教室に入ってきたので一之宮さんは慌てて自席に戻っていった。
昨日は楓のことを延々説明してグッタリした1日だったが、
今日はマリアの事を延々と説明する1日になってしまった。
僕は何か悪いことでもしたのだろうか。
放課後、そんな疲れた身体を何とか動かしながら僕は生徒会室へ向かった。
「失礼します」
「おや、これは噂の渡瀬庶務じゃないか」
生徒会室で僕を迎えてくれたのは現生徒会長にして3年の女神である
桔梗院会長は料理部の部長と親友であり。
部長から僕の几帳面な性格を聞き、是非とも生徒会に入って欲しいと僕を生徒会に勧誘してきた人だ。
僕としては人の役に立つのはやぶさかではないので部活が無い日に無理のない範囲で、という条件で生徒会に入り庶務として生徒会メンバーのサポートをしている。
「他のみんなはまだですか?」
「そのようだ。
ところで渡瀬庶務は昨日2年の雪村女史と別れたかと思ったら
今日には1年の神坂女史と付き合い始めたという噂を聞いたが本当かい?」
「情報通の会長ならそんなの嘘だって知ってるでしょ」
会長のことをジト目で見る。
「ふふふ、まぁね。
でも君に聞くまでは確実な情報とは言えないからね」
黒髪ロングで鋭い目じり。
そんな如何にもデキる女という感じの桔梗院会長が蠱惑的な笑いを浮かべて僕を見る。
その妖しいまでの美しさに思わずドキっとして心臓が止まるかと思った。
文化祭でのミスコン2連覇する完璧美女の美しさは伊達ではない。
「揶揄わないでください。
楓は幼馴染だし、マリアは従姉妹といっても妹みたいなもんですよ」
「つまり渡瀬庶務は今フリーなわけだ」
「悲しいことに彼女はいませんね」
「なら私が渡瀬庶務の彼女になるチャンスもあるわけだ」
はぁ!?この人は何を言っているのか。
三陽高校文化祭ミスコン2連覇した(というか3連覇確実言われている)歴代最高女神の桔梗院会長と僕が付き合う!?
絶対にありえない。
桔梗院会長はモテるというレベルではないモテモテだ。
校内はおろか周辺高校からも告白にやってくる男子が絶えず、
今までの2年ちょいの間で告白された数は3桁に上るという。
そして全ての告白を断っている。
どんなイケメンでも桔梗院会長の首を縦に振らせることは出来なかったのだ。
そんな桔梗院会長と低身長で女顔でヒョロヒョロな僕が釣り合うわけがない。
「会長、みんながまだ集まってなくて仕事を始められないからって揶揄うのは辞めて下さい」
「おや、揶揄うなんてとんでもない。私は本気だよ?」
「会長、目が笑ってます」
「渡瀬庶務の彼女になった未来を思い描くと自然と笑みがこぼれるのさ」
「嘘告白とかマジで傷つくから勘弁して下さい」
「うーん、どうすれば本気だと信じてくれるのか」
「お疲れ様でーす」
「ちーっす」
会長の揶揄いをどうやってかわそうかと必死に考えていたところに副会長と会計がやってきた。
「おつかれさまです」
「2人ともお疲れ様」
2人がやってくると先ほどまでの蠱惑的な笑みなどなかったかのように、いつものキリっとした表情に戻った桔梗院会長は僕らにテキパキと指示を与えて生徒会業務を開始するのだった。
はぁ・・・助かった。
「今日はここまでにしましょうか」
2時間ほど体育祭の資料まとめを行いキリのいいところまで作業が終わった段階で会長がそう声をかけた。
窓の外を見るとそろそろ夕焼けという時間である。
確かに身体も脳も結構疲れたしこれくらいが限度だろう。
僕たちは生徒会室を出て、靴を履き替え校門に向かう。
「お疲れ様、また明日もよろしくね」
「会長もお疲れ様です」
「おつかれっすー」
「お疲れ様でした」
校門を出たところで副会長と会計と別れる。
あの二人は僕と会長とは家が逆方向なのだ。
「会長、もう暗いし駅まで送ります」
「あら、ありがとう」
僕の家は徒歩圏内だが会長の家は数駅離れたところにあり電車通学である。
しかしもう夕暮れの時間帯に女性を一人で歩かせるのは流石に気が引けた。
とりとめもない雑談をしながら10分ほど歩くと駅に到着した。
「駅まで送ってくれたお礼にコーヒーをごちそうするわ」
「そんなの悪いですよ」
「無理やり生徒会に勧誘したのに頑張ってくれてるお礼も兼ねてるからごちそうさせて」
そこまで言われると流石に断る方が失礼である。
「分かりました。ごちそうになります」
「ふふっ、よろしい」
僕らは駅前にあるドローリコーヒーに入った。
「いらっしゃいませー!
ってあれ?渡瀬先輩と桔梗院会長?」
僕らを出迎えてくれたのは円行さんだった。
「円行さんがバイトしてるとは聞いてたけどここでバイトしてたんだ」
「うん。ていうか何で二人はここへ?」
「デートよ」
「はぁ!?」
桔梗院会長のいつもの揶揄い発言に円行さんが凄い声を上げる。
「円行さん落ち着いて、会長のいつもの揶揄いだから。
本当は生徒会の業務の帰りに寄っただけだよ」
「なんだぁ…ビックリしましたよ」
「うーん、私は本当にデートのつもりなのだけれど」
この人はまだ言うのか。
「はいはい、ここで話してたら後ろのお客さんの邪魔になるしさっさと注文しましょう」
不満げな会長に対して僕は注文するように促す。
「では私はハニーソイラテをトールで」
「僕はロイヤルミルクティーをトールで」
「ハニーソイラテとロイヤルミルクティーですね。注文入りまーす」
僕たちの注文を聞くと円行さんはテキパキと仕事を進めている。
その後僕と会長は他愛もない話をしてからカフェを出た。
時折円行さんから凄い視線を感じたけどなんだったのだろうか?
帰宅した僕はいつものマリアのじゃれつきを適度に捌きつつ
晩御飯を食べ、風呂に入り、ベッドに横になった。
まだ寝るような時間ではない。
「二日間疲れたぁ・・・」
この二日間のめまぐるしい展開に僕の体力も精神も限界で思わず夢の世界に旅立ちそうになる。
楓との計画は僕が恋人を作ることで完成する。
しかし今の僕には恋人が出来る気配など皆無だった。
この二日間で出会った女性を思い出す。
クラスメイトの一之宮さん。
部活の後輩の円行さん。
従姉妹のマリア。
生徒会長の桔梗院先輩。
女神である一之宮さんや桔梗院先輩は僕となんて釣り合うはずもない。
従姉妹で妹同然のマリアは論外。
部活にバイトにと忙しい円行さんは恋愛している暇などないだろう。
「はぁ・・・」
僕の周りには僕の恋人になってくれそうな女性がいないという現実を改めて実感する。
これからはもっとクラスの女子や部活の子に積極的にアプローチして、
僕の恋人として相性のよさそうな子を探さなきゃと決意を新たにする。
-ピロン!
そんなことを考えているとスマホが鳴った。
楓と先輩のツーショット写真に
『こっちは順調にラブラブ!アンタも早く恋人作りなさいよ』
という文章が添えられていた。
写真の楓は僕が今まで見た事もない笑みを浮かべている。
彼氏との交際が本当に楽しくて仕方ないのだろう。
幼馴染が幸せそうでホッとする。
だからこそ僕は恋人を作って両親を諦めさせる計画を完遂せねば!と思うのだが
「僕の恋人はどこにいるのやら」
口から出るのはそんな虚しい言葉。
そんな弱音を吐くと同時に僕の意識は夢の世界へと旅立つのだった。
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本作をお読みいただきありがとうございました。
カクヨム初投稿になります。
幼馴染の少女が主人公以外と結ばれるけどざまぁされない話が読みたいな、
と思って書き殴りました。
次は短編じゃないのを書ければなぁと思います。
新規登録で充実の読書を
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