聖女の行進

夏 雪花

第?話

破魔の呪文は、魔王わたしには効かなかった。


はぁはぁと肩で息をする少女と、玉座から降りもしていない自分。

力の差は歴然で、コレのどこが奇跡の力を持つものかと、私は腹の底から込み上げてくる笑いを抑えられなかった。

「もう終わりか?案外つまらないな。」

煽れば手のひらにグッと食い込む爪。だがこちらを睨みつける瞳は、未だ快晴のように無垢な色のままだった。

あぁ、さっさと昏くなれ。そう思いながら嘲笑う。

「輪廻の聖女だか何だか知らぬが、歴代で最も若く、そして、最も弱かったな」

「っ……!」

玉座から降りて、私は座り込む聖女の前へと歩いて行った。

彼女の名前はセノ。『輪廻の聖女』と呼ばれる、この世界で最後の聖女だ。

まぁ、すぐに堀の死体の一つとなる命だ。

そのすぐを二、三分引き延ばしたところで何も変わるまい。

滅悪の鎖は砕け散り、封邪の短剣もへし折れて、もはや打つ手もないだろうに。

彼女が悪あがきのように簪を引き抜くのを、私はせせら笑って眺めていた。


解けた紅の髪がふわりと広がった。

炎のような、血潮のような真っ赤な髪。聖女の装飾は銀のみ、と相場は決まっている。だが、薔薇をあしらった簪の銀色は、その髪に随分と不釣り合いだった。

「どうした?ん?」

私は、わざわざ襟首のボタンを一つ二つ開けてやった。

「首をかき切ってみるか?それとも心臓を貫いてみるか?」

私がそう言った時だった。

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