【人間症候群】
文屋治
人間症候群
某月某日、街路を一人、歩いている最中でありました。私の両耳を好みの音楽で満たしてくれていたワイヤレス・イヤホンの充電が突如として切れてしまったのです。私は軽い溜め息を空に吐き捨てながらも、鼓膜を外界から遮断してくれていた栓を取り外しました。其の刹那、不愉快な現実の奏でる不協和音の騒音が鼓膜を驚かせました。そして、足下の路面へと向けていた視線を不意に上げ、周囲へと向けてみますと、其処には
此の侭では私と云うものがピシャリ…と押し潰され、見えない不可視の鋭利な牙に首を食い千切られて
私は何食わぬ顔をしていながらも徐々に々々々歩みを速め、最寄りの駅に停まっていた列車へと駆け込み、空いていた席へと座り、懐から一冊の小説を取り出して、熱心に其れを読み始めました。
小説でも読み進めていないと、現し世から目を背けていないと、無数の人間共の内面より
私は思うのです、日常に潜む怪物は常に此方をジッ…と覗き込み、睨んでいるのだと。多くの者が気付いていないだけで其れはずっと々々々…宛ら、堕ちた守護霊の如く。
【人間症候群】 文屋治 @258654
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