第6話:イノセント・ブラッド
わたくしがひとつの存在になる前、カミラ・カミラスキーは古城の柱に疲れ果てて寄りかかっていました。目の前には、禁呪によって異形の姿に変わり果てた地球側の同胞が息絶え、その醜い死骸をさらしています。
マギテラのバンパイアと地球のバンパイアの間に種族間抗争が勃発、か弱い人間の人々を犠牲にしてきたこの地球側の同胞は、圧倒的に劣る力の差を地球とマギテラが融合した時に発生した現象〝適合合体〟=〝二つの存在が融合にふさわしいと世界が判断した時に起こる融合現象〟を応用した禁忌の融合魔法を用い、マギテラの魔物と融合することで埋めようとしました。結果、襲われた人々は人でなくなったうえに吸血鬼にもなれず、〝成りそこない〟として犠牲者を増やしていくようになりました。
これ以上身内の恥をさらすわけにもいかず、カミラはこの化け物と化した地球の同胞を、両親の仇として討つためについてきた退魔の巫女・
化け物は枢女から借りた破魔の御神刀が突き刺さったところから徐々に崩壊が始まっており、間もなく完全な塵となって姿を消すでしょう。
「カミラ! やってくれたんですね!」
ボロボロに傷付いた巫女装束の枢女が、よろよろと私に近付きます。
「あ、あなたの為ではありませんわ……」
カミラは大いに照れてしまうのを必死に隠して、平然を装います。枢女はカミラを必死に担ごうとします。
「本当に高貴な魂の持ち主なんですね……自分の〝テリトリー〟の全ての者の為に力を尽くすなんて……」
「む、・無理をしない方が良いですわ……あなたも散々やられているのに……」
「何言ってるんですか、もう一年も人の血を吸っていないくせに」
二人がそう言って笑い合った時に、招かざる客が来てしまいます。自治体から依頼を受けたバンパイアハンターの連中です。粗暴が服を着たようなだらしない格好、顔には下卑た表情が張り付いた無頼者が5~6人、ズカズカと入って参ります。
「よう、オレたちの手間を省いてくれて、有難うよ。これでお前たちを始末してしまえば手柄は俺たちのモノ、ってことだ。礼を言うぜ」
頭目とおぼしき男が、バカデカい銃をカミラに向けます。頭目が引き金を引こうとした時、枢女がカミラと頭目の間に飛び込んでいました。さすがに美しい少女を撃ち殺すのはためらいがあったのでしょうか、弾丸は急所を逸れたようです。しかし致命傷には変わりません、カミラは枢女を必死に抱き上げます。
「枢女!」
「心配するなよ、すぐに後を……」
頭目もその手下も、そのあと言葉を発することは有りませんでした。カミラが化け物から抜き出した御神刀で、連中を薙ぎ払ったからです。カミラの意を組み悪党どもを魔物と見立てたかは判りませんが、御神刀はカミラの想いのとおりに刀身を眩いばかりの光に変えて悪党どもを横一文字に真っ二つにしたのです。
カミラは悪党どもの躯など一顧だにせず、枢女を抱き上げました。
「枢女! しっかりなさい、枢女!」
「カミラ……まだ生きているうちに、あたしの血を飲んでください……」
「!」
「……生きてください……そして弱いものを助けてください……」
枢女が自分の血の付いた手をわたくしの唇に近付け、唇を赤く染めます。
「私が吸血鬼になったら、その御神刀で必ず……いいですね、必ずですよ……処分してください……お願いします……」
唇の血の匂いを嗅いだ瞬間、カミラの理性は飛びました。本能のまま枢女のノド元に噛みつくと、枢女の血を啜りました。枢女の手がカミラの頭を抱きます、その瞬間カミラは我を取り戻しました。死にゆき魔物になってしまう枢女……その姿を見た時、何かが弾けました。呼応するように御神刀が光ります。二人の周りを漆黒と銀が入り組んだ光の渦が形成され、カミラと枢女は一つに溶け合いました。
◇
渦が消え去ったあとに、わたくしが立っていました。
力が漲る……カミラ・カミラスキーだった頃より、はるかに膨大な力が。
「……これが〝適合合体〟と云うものですか……地球側の同胞が渇望するのも無理はありませんね」
わたくしは光に照らされた裸身をまじまじと見つめます……光に照らされて? わたくしは、ようやく自分が朝日に照らされていることに気が付きました。
「もはや日の光すら克服していますか、有難いことです」
わたくしはカミラが着ていたジーンズとブラウス、フライトジャケットを身に付けます。
「新しく生まれたからには、名前が必要ですわね……枢女の名前も残したいし、カミラ・カミラスキーの名前も残したいですわ……」
しばらく考えていたら、いいアイデアが生まれました。
「そうですわ! 上月の二文字の間に〝羅〟の字を入れて、〝上羅月枢女〟にしましょう! 〝カミラ憑き〟……カミラの憑いた上月枢女、〝カミラスキー〟と〝かみらつき〟も語呂が良ろしいですし」
わたくしは一人納得すると朝日に向かって誓います、
「カミラスキー・カミラと上月枢女……二人の意志を継いで、この上羅月枢女、人々のために力を尽くしますわ!」
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