第44話 『とんずら』/着の身着のままゲーム機

 災害が起きた時、着の身着のままですぐ避難することが肝要なんだ。

「あれが必要」とか考えている間に逃げ遅れてしまうよ。

ずっと言われ続けていた、親の言いつけを守っただけ?


「それで、着の身着のままゲーム機?」

「浮気相手の家でゲーム中に同棲相手が帰宅して。直行でトイレに入ったから、その隙にね」

「命拾いしたな」

「慌ててたらしく、玄関の靴に気づかれず」

「ゲーム機は誰の?」

「彼の」

「まずいだろ」

「集合ポストへ入れた」

 浮気相手の浮気相手というのが、そもそも僕には理解できない。


「家庭教師中教え子に手を出しているのがバレて親に踏み込まれた時は、『着の身着のまま分度器』だったよ」

「分度器を使う年齢の子? ……いや、深くは聞かないでおこう」

「人妻の時は、『着の身着のまま泡立て器』だったし」

 どれほどの余罪が出てくるんだ、この男は……。


「だから、財布や携帯は肌身離さず」

「災害でなく、身から出た錆だよな?」

 親には倫理観を植え付けてほしかった。

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