第34話 『ブーメラン』/腋の薔薇時計

 フェロモンなんて信用ならない。

人間が発する分泌物質が歓迎されるわけがない。

匂いフェチの主張も、「性的対象者を外見やスペックで取捨選択しない、変態チックな一面もある寛容な人間だ」とアピールするための詭弁に過ぎない。

自分の本能が受け入れ可能な匂いだけ肯定していて、その他には「生理的に無理」と平気で顔をしかめる。


 何を隠そう私は、ずっと腋臭わきがに悩まされてきた。

思春期突入後は、ありとあらゆるデオドラントを試した。

お金を稼げるようになってやっとこさ貯金をして、腋臭症の手術をした。

手術後も「飲む薔薇」のサプリは欠かせない。


 ある朝起きると、腋に薔薇時計が生えていた。

逆回りで秒針が進み、薔薇の香りの体内残留時間を表示する。

サプリを飲むと回復する。


 いつか愛する人と抱き合う日を夢見て、ここまで努力してきたのに……こんな腋誰にも見せられない!

その時、鳩時計のように妖精が飛び出した。

「変態チックな一面もある寛容な人間がきっと見つかるさ」

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