第12話 損の一部、真イカ

 彼は慣れた手つきでタッチパネルを操作する。

【おすすめ】は無視して、【握り】のトップに鎮座する【まぐろ】を選択した。


「食べる?」

 頷くと、数量の【+】ボタンを押した。

「まぐろ好きなんだ」

 箸とワサビの小袋を渡すと、首を横に振った。 


「原価率が一番高いのは、まぐろなんだってよ」

 もはや回転ずし界の常識ともいえる豆知識でドヤった。


「次は何食べる?」

 彼は、悩む素振りもなく答えた。

「損の一部、真イカ」

「え?」

「損得優先で頼むんだ」

 鮨の嗜み方は人それぞれだけど、それって楽しい……のか?


「食べ物の好き嫌いに関して『人生損してるよ』って言う奴は苦手だけど……」

「俺も嫌い。ドヤる奴」

 ドヤる奴ねぇ……。

「好きな物を食べないで腹膨れる方が損してなイカ?」

 正論をかましたら、拗ねてしまった。


「だって、好きな物……コーン・かっぱ巻き・たまごなんだよ」

「えらい子供舌だな。そりゃ損した気分になるわ」

「ちなみに回転ずしは鮨じゃないから」

 お前が言うな。

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