ダンジョン百合 〜火炎魔法でオーバーヒートした底辺配信者の私を氷魔法を使ったクラスメイトが冷やすために抱き締めてたらなぜか配信がバズり始めた件~
小垣間見
第1話 底辺配信者、クラスメイトにバレる
「バズらない……」
私が誰もいない放課後の教室で眺めているスマートフォンの画面には、動画配信サイトのアナリティクスが表示されている。最先端技術によって弾き出された分析によれば、私の昨日のダンジョン配信を見ていたのはたったの三人だった。
「三人って……これじゃ医大なんて絶対無理だ……」
女子高生である私の将来の夢はお医者さんになること。お医者さんになるには医大に入らないといけないけれど、医大に入るにはたくさんのお金がかかる。そして、私の家にそんな経済力はない。だから、私は自分で自分の学費を稼がないといけなかった。
お金を稼ぐ方法はいろいろあるだろうけれど、学生という身分で大金を稼ぐためには、ダンジョン配信が一番手っ取り早かった。ダンジョン配信は今やトレンドとかムーブメントの領域を超えて、一大コンテンツになりつつあったからだ。
しかし、
「流行ってるってことは、同じことを考える人がいっぱいいるってことなんだよね……」
現実はそう甘くはなかった。
私は充分な下調べをしてから、ダンジョン配信に臨んだ。
ダンジョン配信で稼ぐには、たくさんの人に見てもらう必要がある。そして、たくさんの人に見てもらうためには、たくさんの注目を浴びる――バズる必要がある。
バズる配信には法則があるそうだ。
それは「うっかり系配信」というものだった。
なんてことのない普通の探索者が、うっかりドラゴンを倒しちゃったり、うっかり有名配信者をサイクロプスから助けちゃったり、うっかり迷惑系配信者をこらしめたり。そんな配信を「うっかり系配信」と言い、今ダンジョン配信で人気がある配信者たちのほとんどは、そうやって人気を得たらしい。だから、私もうっかり系配信をしようと意気込んでいた。
だけど、そう簡単にはいかなかった。
少し考えればわかりそうなものだけれど、「うっかり系配信」を成立させるためには、圧倒的な地力が不可欠なのだ。そして、私には致命的な欠陥があった。
それは私が唯一使える火炎魔法を使うと、オーバーヒートしてしまうことだ。身体中が熱くなって、放熱が終わるまで魔法は使えなくなる。
だから、魔法を連発できない私は、うっかりバズろうにもバズれないのだった。
「はあ、どうしよう……」
「話は聞かせてもらったわ」
「⁉」
いきなり耳元で囁かれて、体がビクッとなる。
反射的に振り向くと、そこにはクラスメイトの青井さんが立っていた。
「あ、青井さん⁉ いつからそこに⁉」
「最初からよ」
「う、嘘……」
別にダンジョン配信をすることは犯罪でもなんでもない。ただ、それでもやっぱり自分が配信なんてものをやっていることを知られるのは、恥ずかしいものがあった。
「赤西さん、あなた、バズりたいんですってね」
「そうだけど……あの、クラスの娘たちには言わないでくれると、助かるかなー、なんて。ほら、その、恥ずかしいから」
「私がそんなくだらないことすると思う?」
「いや、そんなこと言われてもわからないよ……。だって私たち、話すの初めてだし」
「初めてにいつまでもこだわっているのは童貞だけよ」
女子高生同士の初めての会話で、いきなり童貞なんて言葉が飛び出てくるくらいには、青井さんは変わった人だってことがわかった。
青井さん。
クラスの隅っこに座ってるタイプの女の子。色白で、ショートカットで、スレンダー。派手というよりかは地味。だけど、綺麗な女の子。
そんな学校に一人はいそうな女の子だと思っていたのに、青井さんは良くも悪くも私の予想を上回っていた。
「高校生にもなって童貞だって思われたくないでしょう?」
「いや、童貞っていうか、私、女だけど」
「そんなことより」
そんなことよりって、そっちが言い出したんじゃん……。
でも、私がそう反論する前に、青井さんは言った。
「赤西さん、一緒にダンジョンに潜りましょう」
突然すぎて、何を言っているのかわからない。
「インフルエンサーの私が底辺配信者のあなたをバズらせてあげるわ」
……やっぱり、青井さんが何を言っているのか、私にはわからなかった。
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