第34話
結局、同時に齧り付くことになった。
とはいえ、流石に生はヤバい。
なので火を起こすための道具を探しているのだが……
「駄目ですね、全部湿っている」
此処は熱帯雨林気候。湿度が高い。
自然、周りの木の枝は全部、若干の水分量を保有している。
それでは、火起こしは上手くいかない。
「そっかぁしょうがないなぁ。今回は諦めよう」
「いえ、食べてみたい気持ちはあるんです」
「そのくせ先に食べさせようとしてたのか!」
「……クルア先輩。月光を集めて発熱、とかできませんか?」
「いや、月光にそこまでエネルギーないし無理だと思う」
「イササは出来てましたけどね」
「まぁ任せなさい。満月のなら一位になれる(と思う)私の力を見せてあげよう」
空を見ると、綺麗な半月が出ていた。
冗談は置いておいて、彼女は本気でやろうとしている。
相当イササにコンプレックスがあるのだろう。
しかし彼女も言っていたように、月光で発火は難しい。
ここで出来るかどうかで、これからの順位が決まって来る。
「んー、んー?」
だが、彼女は中腰で悪魔の肉を見て、ずっとうなっている。
「……直接やろうとするから難しいのでは? 枝の方に作用してみる、とか」
「なるほど……?」
アドバイスしてみると、枝を何本か持った。
「”月読み”――熱の入江」
そう言って暫く。見ていても様子はかわらない。
「クルア先輩?」
「ああ、これね。熱を出して湿気取ってるんだ」
「熱、出せるんですか」
「本当にちょびっとだけね。月の模様に比べて、地名ってエピソードないじゃん? だから弱いんだ」
「へぇ……でも地名っていっぱいありましたよね。”静かの海”とか。あれ全部だせるんですか?」
「出せるよ」
「それは凄い。じゃあ出力じゃなくて、技の種類で勝負するんですね」
「……その手があったか」
彼女は首をこちらに向け、目を真ん丸にしている。
ひどく感銘を受けている様子だが、珍しい発想でもないと思う。
「中途半端に火力が高いせいか、だいたい力押しでなんとかなるんだよね。だから、技を変えるって発想がなかったよ」
「ああ、なるほど」
才能がある人間の伸びしろが悪いのとおなじか。
「さ、もう充分乾かせたと思う。……でもここからも地獄なんだよね」
「やった事あるんです?」
「授業でね。一通りのサバイバル知識は身についてる」
「そんなのも習えるんですね……ま、火起こしは任せてください」
自信満々に枝を受け取った。
彼女が乾かしている間に準備していた。
今回は舞切り法を使用する。
枝に紐をつけて、上下に動かすだけで火が起こる優れものだ。
暫く続けていると、煙が出始めた。
それを、木の枝を細かくした物に移した。
最後に私が来ているコートの一部を引きちぎって、それに移す。息を吹きかけると、火が付いた。
「お、すごい。手慣れてるね」
「子供の頃よくやりました」
多分、唯一怒られたのが火遊びだと思う。
見ていてきれいだし、物に付けると反応があるしで、子供の私が大好きだった。
回想を振り切って、切り分けた悪魔の肉、その胸筋の部分をを火の上にかざす。
「レア?」
「ウェルダン!」
その後、沈黙が続いた。
会話のネタがなくなったのではない。
悪魔の肉に注目しているのだ。
私もクルア先輩も、やいている肉をじっと見つめる。
たまに端っこを斬っては、中まで火が通っているか確認する。
そして、その時が来た。
私達の前には、油が滴る悪魔の肉。
見た目は、まあ、普通においしそうだ。
「……いただきます」
「いただきます」
さあ、試食。
口に入れた瞬間広がるのは、油。
しっかり焼いたはずなのにまだ残っている。
味は、鳥……だが、どこか苦い。
総評。まずい。
「まあ、でも。食べられない事はない、かな」
「ですね」
体が肉を欲している時は食べてもいい、ぐらい。
ああ、今が一番、拠点に帰りたいと思っている瞬間だ。
苦戦している内に、日が昇ってしまったようだ。
薄暗い森の中が、若干明るくなる。
「さて、昼間は休んだ方が良いですよね」
「……ごめん」
「何を謝るんですか。昼夜逆転くらい日常ですよ。さ、雨風を凌げる場所を見つけました。早く向かいましょう」
私達はまた、歩き始めた。
ゼブルくんは相変わらず優秀だ。もはや、”こっちに餌がある”という誘導は必要ない。ただ向かう場所を指定すればそのまま向かってくれる。
そんな彼で見つけた場所へ移動する。
「おお、これまたすごい……」
しかし、自分の目で見ると圧巻だ。
そこは天然のツリーハウス。
木から生えた気が折り重なり、天井を形成していた。
おかげで、暗がりを好む生物が多くいる。
主に虫とか。
ミミズみたいな奴や、角が六本はえた昆虫とか、いろんなのが居る。
でも邪魔なので、適当に散らす。
世界は弱肉強食。
恨むなら、自分を弱く生んだ親を恨むんだな。
「じゃ、1,2時間経ったら起こして。見張り変わるよ」
「ああ、その必要はありませんよ。私寝ないので」
「そういう訳には行かないよ。休まないと動けなくなる」
「いや、睡眠がそもそも必要ないんです、私。能力のせいかわかりませんけど」
「……え? じゃあ今まで夜、なにしてたの?」
「寝無い人間って怖がられるので、寝たふりを」
「……マジか。いろいろ言いたい事はあるけど、お言葉に甘えさせてもらうよ……疲れた」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ……」
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