第18話

 目が覚めた。

 外が明るい。嫌でも目に光が入って来る。

 視線を胸元に下げると、そこにはいつか見たつむじがあった。

 カイだ。

 彼女はすうすう寝息を立てて熟睡している。

 起こすのも忍びないので、手だけを動かす。


 勝手に動かれると困るので、拠点に着いてすぐゼブルくんを閉じ込めたカプセル。

 いざという時直ぐ出せるように、緩めに占めてある。

 それをゼブルくんの視界を頼りにカバンから出して、床を使って開けた。


 しばらく経つと羽音が聞こえ始める。

 起きてくれたようなので、視界を借りる。


 こいつは戦の戦いで陰の実力者だ。

 高性能な目が無かったら攻撃に当たってしまい、チヒロの復活まで待てなかった。

 倒した後、大量の悪魔が向かって来ている事に気が付いたのもゼブルくんのお陰。

 

 もしかして、私じゃなくてゼブルくんが優秀なのか?

 いや、そんなはずはない。そもそも私が居ないと人間と接点がないのだから。


 適当なことを考えつつ、テントの外に誘導する。

 

 外では、人間たちが自分の役割に徹していた。

 見張り、木こり、なかには歩いているだけの者もいる。

 

 悪魔は気が付かないので適当に飛んでもいいが、人類は羽虫に敏感だ。

 見つかったらすぐ潰されてしまうので、出来る限り地面すれすれを飛行させる。


 さて、一番気になるのは何処だろう。

 とりあえず、ぶらぶらしてから決めるか。


 拠点を右回りする感じで探索する事にした。


 自分のテントのすぐ右。そこは、2つ目の女子テントだった。

 3人の女の子が寝ていて、それ以外には何もない。


 その次は物置小屋になっている。

 どこで手に入れたのか、干し肉やら米俵やらが保管されていた。

 よく観察してみると、丸太や大きい石まで此処に入れてある。

 大分乱雑だけど、いいのだろうか。


 飽きたので、さらに拠点を進んで別のテントに入った。

 そこは男子テントだった。

 ここにも3人、金髪やら赤髪やらの男子が寝ている。

 ただまあ、それだけ。女子テントと同じく殺風景だ。


 そして、最後の小テントに向かう。

 大体予想が出来たが、ここも男子テント。

 どうやら倉庫をはさんで、出来るだけ異性を遠ざけているようだ。

 中にあるのは、1つだけ。

 チヒロだ。

 性根があれでも顔は可愛い。

 此処で寝て大丈夫なのだろうか?


 ……まぁ、彼は強い。いざとなったら能力を使うだろう。

 というわけで放っておく。

 さっさと本命の大テントに向かいたい。

 ゼブルくんを外に出した。


 この拠点はあまりにも物資が少ない。

 見たところ、備蓄もあまりない。

 まあ当然と言えば当然。学校を追われて1日程度しか立っていないのだし。

 それを考えると、物凄い発展度合いだ。

 優れたまとめ役と頭脳があったんだろう。


 考察はこの辺りにして、大テントに入る。


 中は、思っていたより広くはない。

 カーテンで3分の1ほど分割されているからだ。


 入り口側の広いスペースには、長いテーブルがあった。

 その上には紙が散らかっていて、時折床にも落ちている。

 作戦本部のような雰囲気だ。


 カーテンの方へ進んでみると、声が聞こえた。

 さっきの先生と、もう1つの女声。


「では、まとめ役だけ、と言う事で!」

「わかった。ウロに伝えておく」


 私?

 ふむ……テレパシーの使い道の話、だろうか。


「けどやっぱりテレパシーって……強力ですけど、危険ですよねぇ」

「何を言う。欲しいと言いだしたのはお前だろう」

「言いましたけどぉ……重要な秘密とか、ばんばん漏れちゃうじゃないですかぁ。ウロちゃんが悪意ある人物じゃないって祈るばかりです」

「確かに……!」

 先生は猛烈に感動しているが……気が付いていなかったのか?

 大抵の人間は、よろしくない使い方を思いつくものだけど。


「しかし、話したところ悪い奴ではなさそう……」

「そんなこと言って、前も騙されてたじゃないですか? 日常会話もしてないし」

「いや、今回はいっぱい喋った!」


 彼女の身長は180cmを超えている。目はキリっと吊り上がっていて、口が大きい。端的に言えば、怖い顔だ。

 それがこんな、偏差値の低そうな会話をしているのだからギャップ萌えだ。

 エクストリーム萌えザウルスだ。


「ともかく! あいつは大丈夫! 悪い事する奴ならここにいないだろう!」

「まぁ、そうかもしれないですね」


 話が一段落しそうなので、移動しようと思う。

 しかしその前に、私を疑っている人間の顔を拝んでやろう。

 

 『立ち入り禁止』

 と書かれた布が貼ってあるが、蠅はそんな事を気にしないものだ。

 迷わず行け!

 ゼブルくんは布と床の隙間を上手く這い、向こう側の部屋にたどり着いた。


 そこに居たのは先生と。

 黒髪ツインテールの、きゃぴきゃぴした女子。


 ……どこかで見たことある気がする。

 

 思い出せない。

 正直、私はテレパシー頼りに生きて来たので、記憶能力はあまりよくない。

 もやもやするけど仕方がないか。ここで考え続けても思い出せない気がする。

 別の場所に移動しよう。


 そう思ってゼブルくんを戻そうとすると、彼女と目が合った。ような気がする。

 しかし何か反応をするわけでもなく、とりとめのない話を再開した。


「先生ってば、もっと警戒するべきなんですよ!」


 声を後にして、テントから出た。


 この拠点で見るべきところは大体見た気がする。

 最後に、見張りの会話でも聞いて帰ろうか。


「新しく来た娘可愛かったなぁ」

「それな。どいつが好みよ?」

「やっぱ背の低い娘かな」

「ええ……」


 ゼブルくんで噛んでおいた。

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