第10話
チヒロとカイはすぐに眠ってしまったようだ。
当然だ。
普通の生活を送ってきた人間が、こんな状況で疲れないわけがない。
外の様子を見る。
「悪魔はピラミッドに近づきもしないですね」
「ここは安全って考えていいのかな?」
「どうでしょう。学校の事を思い出すと、固定観念はよくないですね」
「あ……そっか。体育館に居た人達、無事だといいけど」
体育館には、大勢の人がいた。
ローグさん、先生、そしてチモ先輩。
正直に言えば、あの攻撃を受けて耐えられているはずがない。
しかし、それを口にしたら終わりだ。
誰かの不幸というものは、延いては自分の不幸につながる。
彼女たちがそうなったんだから、私たちもそうなるんだろう――
そんな考えがどうしても出来上がり、弱気になる。
だから、誰もが思ってるけども、誰もが口にしないのだ。
思考を振り払い、偵察に集中する。
やはり悪魔たちは、掌の悪魔に集中している。
群がりすぎて、もはや黒い団子だ。
いや――その隙間から、様子が見える。
確かに、再生、していたはずだ。
もはや肉は鱗で覆われていた。骨は肉で覆われていた。
そのはずなのに――
「見えてる……食べられてる、のか?」
「え。共食いするとは聞いてたけど……まさかアイツにするなんて」
残飯をあさるハイエナだ。
なんとなく、どこか憤りを感じてしまう。
それを倒したのは私達だろう。
カイが準備して、チヒロが止めて、クルア先輩が止めを刺した、激闘の産物。
ならば喰らう権利はこちらにあるはずだ、なんて。
そんな、意味の分からない考えが頭に浮かぶ。
悪魔なんて、食べられるはずもないのに。
家のように大きかった巨体は、もはやない。
悪魔で隠れて。骨も食われて。
「……でも、やっぱりピラミッドに興味を示さないです」
「……」
まさか他の人間が、憤りを覚えるはずもない。
そう思って話を振ったが、彼女は黙り続けている。
「……あ、ごめん。なんて?」
「悪魔、こっちに来る様子がないです。暫くはラフにしていいかも」
「ああ、なるほどね。じゃあウロが休んでて。私は夜しか活動できないから」
「……ありがとうございます。では、おやすみなさい」
私も、情報を整理したいと思っていた。
今日は色々ありすぎたし。
学校に入学して。
悪魔に襲われて。
また悪魔に襲われて。
逃げだして。
ピラミッドを発見して。
それでまた悪魔に襲われる。
なんだこれは。
新入生がやっていいスケジュールじゃないだろう。
帰ったら特別手当を要求しよう。
……よく思い返す。
気になる事、気にすべき事をまとめるべきだ。
一番気にすべきは何だろうか?
いや、これはずっと変わらない。
”私”だ。
私の生存、私の欲求……それらが一番重要だ。
じゃあその2つでどっちが大切?
私の生存だ。そもそも生きていないと、欲求を満たすことも出来ないし。
じゃあ一番気になる事はなんだろうか。
やっぱり、このピラミッドだな。
長期的に見て気になる事は多すぎるが、今この瞬間気になるのはやはり此処だ。
というか、よく考えたら何もわからない場所に居るって危険すぎる。
誰がここに入る事を提案したのか?
私だな。なんかあったら謝っておこう。
思考を戻す。
次に考えるのは、私が生きる為に何をすべきかだ。
ピラミッドの探索が生存に繋がるなら、これ以上嬉しい事はない。
けどそんなことはないだろうな。この表面に居るだけで悪魔の襲撃はないわけだし。
蠅を中に進ませるのは……どうだろうか?
罠があったとしても蠅なら反応しないのでは?
いや、楽観的過ぎるな。
こいつを失ったら私は一気にお荷物だ。
だからと言って酷い扱いをされるわけではないと思うけど、一定のヒエラルキーは確保しておきたい。
ヒエラルキー……悪魔に序列はあるのだろうか?
伝承通りの悪魔ならあった。サタンが一番上みたいな。
地球で出会った魔物はすべて、伝承通りの生き物だった。
セイレーンは船を沈めるし、ドラゴンは火を噴いた。
では悪魔はどうか?
奴らの伝承と言えば、人間を堕落させることだ。
人に取り付いてみたり、誘惑してみたり。
しかし、この地獄に居る悪魔にはその傾向がない。
悪魔と魔物は同一のものなんだろうか?
魔物に武器の類が効かないのは、身を持って知っている。
しかし、体育館での襲撃の際。悪魔は銃でぼろぼろになっていた。
チモ先輩も言っていた気がする。悪魔には武器が効くと。
この違いは何なのだろう。
というか、何が目的なのだろう。
何を狙って襲撃してきたのだろう。
最初に体育館で襲われた時は、一目散に私へ突っ込んできた。
2回目、ピラミッドの時だって私の目の前に現れた。
いや、カイとクルア先輩とはずっと一緒に居た。
だから偶然説はある。
けど、私と彼女達では絶対的な違いがある。
それは、デルコマイを知っている事。
もしかして、それに反応して襲われたのか?
だとしたら、今回学校が襲撃されたのは私の責任か?
ふむ。可能性はあるけど、確証がない。
そもそもカイ達だって、幼少期に悪魔と知り合いだった可能性もあるのだし。
考えすぎだといいけど。
一度脳をリフレッシュしようと思い、クルア先輩の思考を覗き見る。
映ったのは、外の景色。
どうやらピラミッドから出て見張りをしているようだ。
その視界に悪魔は見当たらない。
稀に中へ入っては、私達の寝顔を1つずつ確認していく。
面倒見のいい人らしい。
……魔が差した。ついでに心も読んでみるか。
(これからどうなるんだろう、私)
当然の問いだ。
(学校は全滅なのかな? まだ悪魔が居るのかな? 怖いなぁ)
とりとめのない事を、ずっと考えていた。
考えないと、やっていけないのだろう。
(私はこのパーティで最年長。責任を持たないと。……でも、上手くやってる気がするし、彼女たちには死んでほしくないなぁ)
……こういう人をずっと見ていると、罪悪感が押し寄せてくる。テレパシーをやめる。
私もそろそろ休むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます