第3話

「今から質問をします」

「やるきだね! どんとこい!」

「遠慮なく。この場所の詳細わかりますか?」

「大きい洞窟ってだけ聞いた」

「あの地形はなんですか?」

「わかんない! でも悪魔の根城説があるよ!」

「悪魔以外の生物はいますか?」

「いる。無脊椎動物が大半かな」

「悪魔の生態は?」

「手が大きい奴とか首が長い奴とか、特徴のあるやつらがいる! あと共食いする! それ以外はまだ不明!」


 わからないことが多すぎる……。

 不明なだけならまだしも、そんな危険な場所に無力な人間をいきなり入れるか?

 個人的に、開拓・征服は人類の得意分野だと思う。どんな困難があろうとも、すべて跳ねのけ進むだろう。そう信じたい。

 しかし実際はこの有様だ。

 何か理由があるのだろうか?

 ああ、また謎が増えた。


(お金について聞いて)


 カイの声だ。とりあえず要請にこたえる。


「第二フェーズ行きましょう」

「えっ」

「お金について教えてください」

「説明会で言ってたくない? 毎月20万くらい貰えて、功績を上げれば臨時収入が出る」

「なるほど……学校の外、地獄に出たことがありますか?」

「3年から外での実践訓練があるみたいだよ! 臨時収入はそこでもらうことが多いって!」

「休日はありますか?」

「あるよ。この施設内なら自由、でも地獄に出ちゃダメ」

「……悪魔の初目撃はどこですか?」

「? 日本、だよね?」

「うん……あ、創設者が講演に来た時になんか言ってたな……」


 創設者。確か名前はアリア・カットナーだったはず。

 電車で見た動画で言っていた『……と思ってたらが現れて、人類はまた窮地に立たされちゃうんですけど……長くなるのでこの辺りで』の部分。

 そこから人類を救った救世主、それがアリア・カットナーだ。


「最初の悪魔が死んだのはどっかの孤児院だった、って」


 ――

 思わぬところで近づいた。

 アレを知っている人間が、この学校に関係している。

 胸が脈打つ。心臓が高鳴る。

 ああ素晴らしいな。こんなにも早くヒントを得られるなんて。


「創設者の講演はいつ開かれたのですか?」

「えーっと、学校始まってすぐだった気がする。1か月もしたら来るんじゃない?」


「お話し中ごめん! 図書館にご到着! ここはなんか……本がいっぱいある!」


 チモ先輩に目を向けると、どでかい建造物を前に手をメイいっぱい広げていた。

 ここも金属で出来ているらしく、光沢がある。

 

「……悪魔図鑑もある。ウロなら籠りっぱなしになるかもよ」

「へぇ、楽しみですね。地理とか生物も気になりますし」

「ちなみに、制服の採寸はここでやるよ! そのかっこういいロングコートは脱いでもらうことになるけど……」

「ウロ、全体的に格好よくしてるよね。身長もあるから似合ってる」

「ありがとうございます。自分もそう思います」

「自己評価高っ!」


 何を驚くことがあろうか。

 私はテレパシーが使える。よって自分への評価が見える。

 それが大体いい評価なもんだから、私も調子に乗ってしまうものだ。




 採寸を済ませて、次の目的地に向かう。

 体が異形化する能力に対応するためか、制服の種類は多かった。

 しかし多少の調整は必要で、受け取るのは今日の最後になる。


 先輩に連れられて学校の通路を練り歩く。

 足元を見ると、やはり金属で舗装されていた。

 車の必要性がないからか、大きい道はない。しかし妙に段差が多く、登ったり下ったりで体力を使う。

 ここで生活するだけでも鍛えられそうだ。


 楽しみながら学校中を見て回っていると、また前から声がした。


「はい、体育館だよ! 自由に能力テストしていい場所!」


 高校の体育館より遥かに大きい。

 中に入ってみると、壁には4つの扉が付いていて、その間に設置されている窓からは、ダンベルやルームランナーなどの運動器具が見える。

 私達の他にも生徒が何人かいて、それぞれの能力を試しているようだ。

 岩石を好き勝手生成している男や、トラのような速さで走り回っている女がいる。

 能力を制限なしで使える、と言われてハイになっているのか、炎をまき散らしている男がいた。

 こいつは結構迷惑で、熱気がここまで伝わってくる。


「アハ、ちょっと移動しよっか……でもテレパシーと、神との交信だっけ? 体育館で使う能力じゃないよね」

「テレパシーはそうですね……けどカイの能力は全然動くそうですよ」

「え、そうなんだ!」

 

 私も喋ってる最中に知った。


「……今、見せます」

「わっ喋った」


 びっくりして声を上げると、ジトっとした目で見られてしまった。

 しかし、すぐにカイは歩き始めて、体育館の中央に向かった。

 どんどんその足が加速していき、トラの女を越え、岩石が目前に近づいていく。

 と、彼女は右手を上げた。

 瞬時に、カイの身長の2倍はある鉤爪が出現する。

 そのまま加速して、出現していた岩石数の半分ほどを切り裂いてしまった。


「うぁ、すごい」


 思わずまた感嘆の声を上げてしまった。

 彼女は地獄耳なのか、こちらをまた見て。


 どや顔をしてきた。


「かわっ!」


 おっと、声を上げちゃった。


(どうだった?)

(素晴らしいね、カイ。テレパシーじゃ悪魔と戦えないし、その時は守ってもらおうかな)

(任せて。通訳のお礼)

(そこしっかりしてるんだ)

(後々面倒なことになる……)


 カイも昔に色々あったようだ。

 全体的に「面倒臭い」が支配しているようだけど。


「ウロちゃんも戦えたりするの!? 頭脳神拳! みたいな感じで」

「できます」

「マジカヨ……」


 無茶ぶりをする。けど答えられる。

 そう、テレパシーならね。


「折角だし自慢しちゃおうかな、私の力」

「おっ!」


 ――目を瞑る。息を止める。口を閉じる。

 音は聞こえず、何も感じない。


 集中する。

 あらゆる情報を処理する。

 実は気になっていることがある。

 この機会に見てみよう。


 私のテレパシーは自由自在。


 ただ一つを除き、すべての生物に作用する。


 虫も、魚も、人も。

 周りをすべて感じて、認識は3次元に移行する。

 光、音、臭い、感触、味。

 

 そして1つ、見つけ出した。


 ――悲鳴。


 は?


「……ここって何か……危険な場所とかあります?」

「? ないよ! 学校だしね!」


 ぽつり、ぽつりと悲鳴が増える。

 波のように――いや、円状ではないな。

 直線に来る。間違いなく意思を以って。


「後ろ! 何か来ます!」


 流石の訓練生。先輩方はすぐに振り返って構えた。

 他の生徒の世話役たちも、反応することができていた。


 直後。

 隕石が落ちたような、轟音。


 けれど私とカイは間に合わない。

 その速度。その大きさ。

 

 いつか見た力。


 しかし躊躇なく私に突き刺さる。

 

 意識が飛ぶ。

 しかし痛みで蘇った。

 

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