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未来さえ売っていなければ…、あの時、あの女に会っていなければ…。
こんな話したところで、茜さんには「創作のし過ぎだよ」と言われるだけかもしれなかったので、僕は口を噤んだ。彼女の言う、「運が悪かった」ということにしておくことにした。
今回は運が悪かった。次こそは上手く行くさ。
上手くいかないことくらい決定づけられているというのに、僕はそう、都合よく解釈することに成功した。
茜さんは壁際に寄せてあった机のノートパソコンを見た。
「新作、書くの?」
「思いついたら」
「楽しみにしているよ」
「あまり期待しないでください。傑作の次に来るのは『駄作』って決まっているんですから」
「言えてる」
実体験があるのか、彼女は肩を竦めて笑った。
その後は、積極的に楽しい話をすることにした。主に茜さんの仕事場での話。「店に女装したおじさんが来た」とか、「女装したおじさんがメルヘンな絵本を買った」とか、「女装したおじさんが会計の際に、じっと顔を見てきた」とか、「思わず吹き出してしまった」とか。
「それはヤバいですね」「それで、どうなったんですか?」と、くだらない話に花を咲かせて、酒を呑んでいるうちに、僕は小説のことを頭の片隅に追いやることに成功した。
缶ビールを飲み干したら、サワーを呑んだ。甘くてフルーティーで丁度良かった。それから、おつまみをぼそぼそと食いつぶし、足りなくなったのでコンビニに買いに行った。
そうやって、僕の空虚な夜は更けていった。
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