浣ケツですっ!

「ここが俺たちの泊まる宿っすね!すごいでかいっす!」


「隣の車庫が小さいから余計に小さく見えますね」


 蘭童くんの興奮に、冷静に自論を話す千佳さん。下ネタがないからこの2人の安心感はもの凄い。


「うぐっ……ねえ、貴方、私の隣に痴漢ちゃんが立つとやっぱり普段より大きく見えるのかしら?」


「何の話か分からないですけど、気にしなくても先輩の先輩は小さいですよ」


「泣いていいかしら?」


「すんません」


 涙ぐむ凛城先輩をよそに受け付けを済ませて部屋に向かう。俺だけ1人部屋という、大盤振る舞いand仲間はずれが同時に起こっている。


 夕食はすでに食べているのであとはシャワーに入って寝るだけだ。さっきまで6人だったのもあって落ち着きと寂しさを感じる。


––コンコンッ


「どうぞー」


 ノックを合図に視界をドアに向けると中居先生が入ってきた。


「どうかしましたか?先生」


「いえ、1人で寂しくないかなと思いまして。今梨々香ちゃんがお風呂に入ってるんだけど、出たら来るって言ってたの。それまでの暇つぶし相手にでもなってあげようかと」


「ありがとうございます。ちょうど寂しいなって思っていたところなんで」


 気遣いもできて清廉な先生。案外男子生徒からも人気がある。これで独身とか不思議なくらいだ。と、先生がおもむろに何かを取り出す。


「はいこれ、何かあった時のために常備しているんだけど、あげるわ。私より必要でしょうし」


 差し出されたものは脅威の薄さ0.01ミリのナンチャラームだった。おい教師。


「今日左玉触ってたので勝負の日かと思いまして。どうします?私と予行練習行っときます?ラフじゃなくてラブってね!」


 中居先生ってしっかりした先生だと思っていたけどそうじゃないのか。そりゃ凛城先輩の作品を学校に飾りたいっていう人だから当たり前か。


「いかないですよ」


––


っ!」


 俺の手に持っているものと同じ名前の商品が聞こえ、素早くポケットに脅威の薄さ0.01ミリのコンドンチャラを隠す。


「どうぞ」


「あら中居先生。いらしたんですね」


「ええ、梨々香ちゃんもいらしたのであとは若いお二人でどうぞ」


 そう言って中居先生は足早に去っていった。お風呂上がりすぐの浴衣姿の先輩はホカホカでホクホクだった。


「ちょっとのぼせちゃったわ。夜風にでもあたっていいかしら?」


「もちろんです。俺も行きますよ」


 部屋の窓を開けベランダに出る。都会ということもあって満点とは言わないが、満天の星空が輝いていた。


 俺と凛城先輩は手すりに腕を置き、夜景を眺める。隣の部屋からは微かにみんなの声が聞こえて来た。


「私はもうそろそろ退部ね。貴方たちが来てくれて毎日が楽しくなったわ。本当にありがとう」


「急にどうしたんですか?らしくない。でも俺も先輩に会えて良かったです。親とも前より仲良くなれましたし、それに……」


「それに……?」


 先輩が俺の顔を覗き込む。


「可愛い彼女もできましたし」


 目を合わせると、先輩は顔を真っ赤に染める。恥ずかしがる先輩も可愛らしい。


「不意打ちは酷いわよ。不意打ちは」


 ブツブツといいながら頬を膨らませる。


「私がいなくなってもチョベリ部は続きそうで良かったわ。貴方も私の役をしっかりと遂行出来たしね」


 この前の入れ替わりゲームにはそんな思惑があったのか。とりあえず先輩がいなくなっても菅島さんの代までは持ちそうなので安心できる。


「最近マンコネリネリ化が激しかったから、いい辞め時だったのよ」


「マンネリ化ですよね?俺は一生聞けますよ。先輩の下ネタなら」


「貴方今日やけに積極的ね。エロポーズじゃない」


「プロポーズな」


 だって、凛城先輩が退部してしまったら話す機会はうんと少なくなる。やっぱりそれは寂しくて、俺の中の凛城先輩の大きさを知る。


「先輩、どこの大学受けるんでしたっけ?」


「国立光来こうらい専門大学。世間一般では門大学ね」


「嫌な通称ですね」


 因みに俺たちの通ってる高校は善立専前立腺門校等学校なのだから言えた話ではないが。


「俺、その大学受けますよ。待っててください」


「ほんと?ちょっとやる気出て来たわ」


 そう言って凛城先輩は俺の肩に密着する。その反動でポケットに隠していた。脅威の薄さ0.01ミリのコン(サート)ドームが落ちる。


「やる気ってそっちじゃないわよ!やる気マンコマンコじゃない!!」


「マンマンな!マンマンでもないし!」


 俺のツッコミの後、2人で目を合わせて吹き出した。ああ、面白い。この人と会えて、良かったと、心の底からそう思う。


「先輩。俺、先輩のこと好きです」


「何よ。褒めたってマンコしか出ないわよ」


「出すなよ」


 苦笑しながらツッコミを入れ、優しく凛城先輩の背中に腕を回す。先輩も俺が何をしたいか分かったのか、準備はいいというように目を閉じた。




 そうして俺たちは優しくも熱いキスをした。




––––––『しもねた』になる物語(浣)

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