第4話
わー袴女子いっぱいなんじゃーー。
雪野先輩然り美人な先輩がたくさんだ。だがそんな邪な気持ちをも勝る荘厳さ。やはり武道とは美しい。弓の弦を引き絞り狙いを定めるその静けささえも、一切の退屈さも与えず、ただ緊張感と趣をもたらす。さながら鹿威し《ししおどし》のような見入ってしまうなにかが弓道にはある。そこにはただの的当てゲームなど微塵も感じさせない和の空間が広がっている。
「こりゃ圧巻だな。。。」
あんなにゆかりんとはしゃいでた自分の気持ちすらも落ち着かせるのも、不思議な魅力なのだろうか。
「あ、いたいた」
気づけば陽も来ていたようだ。こいつも今日は体育がなかったがために体操服を忘れている。もっとも、あまり人の話を聞かない性分なのもあるが。
「一年生の皆さんこんにちは。部長の
爽やかそうな男の先輩が最初に挨拶をする。長ったらしくなく簡略なのがもはや好感をもてる。
「じゃあ、まずは筋トレからいこうか!」
前言撤回。筋トレなんてさせる最悪な上司だったようだ。筋肉なんて別に日常動いてたら自然に必要な分はついてくるわけで、わざわざ俺たち個人がおいでおいでーって筋肉を招くことなんてまったくもって―――――
「えと、清水君だっけ?みんなスタンバイ完了してるから、早く準備してね」
「うわ、コイツあほだw」
なんだろう。同じようなことを二回ほど前に言われた気がする。そしてお前にだけは言われたくねぇって言葉も聞こえた気がする。
「なんかあれだな。お前さっそくアホ認定されてるんだな。ドンマイ」
「ほんとな。俺はただいつものように生きてるだけなのに。。。いやちょっと改変。少し明るめを意識してるだけ。だけなんだけどなぁ。。。」
「おいおいしゃべらずにしっかり筋トレしようなー」
「ぐふぉあ!!」
プランクの態勢で隣にいる陽と話してたら、なぜか俺の背中にだけ知らない先輩が座ってきた。女の先輩ならご褒美だけどな。男の先輩に乗られたってなんも感じねぇんだよ!!
と、苦労して筋トレをこなした。もちろん二人だけ制服で。。。
「すんません俺体操服ないんでまた明日来ます!」
「あ、俺もおんなじで帰ります」
おっと、これは予想外だ。。。駅付近で買い物でもして帰ろうか。。。
「え!?ちょ、ちょっと待ちなや君たち!!」
「「それでは、失礼します!!」」
またもや知らない先輩に呼び止められたが、俺たちは止まらない。目と目で通じ合って決めたのだ。
”絶対にコーヒーを飲みに行く”と。。。。
現在時刻は3時40分。
最寄駅からハブ的な駅までは8分。午後のティータイムとしては上出来ではないか。と、失礼とは思いながらもそそくさと二人で退散するのだった。
そのころゆかりんは。。。
「お前バカかよww」
見事なまでのコミュ力でほぼすべての一年(男子)と仲良くなっていたのである
「さ、コーヒー飲みに行きますかね」
「あ。。。ごめん。俺塾あったわ」
突然の陽の言葉に俺は絶句した。これはつまり、俺に一人でコーヒーを飲みに店に入って注文して受け取って席に座ってちょっとクッキーも一緒に頼んでゆっくり過ごせと。。。一人で過ごせと!?
「おい貴様、俺がそこまでのレベルに達してると思っての発言か!?」
陽はさも当然のように言葉を繰り出す
「いや別に無理層だったら先帰ったらいいじゃん」
「ば、馬鹿野郎!!俺は別にコーヒー飲むだけだっての!ちょっとクッキー頼んでふかふか椅子でゆっくり過ごすだけだっての!!」
「ゆ、、、、ゆゆゆゆっくりr。た、ただただ、こ、コーヒ、コーヒーとクッキーを飲む、だけ。。。だからな!」
やばい、俺浮いてる。。。女性の方が大半と女子高生のグループが何個かと、憎きカップルが何組の中に、キョドって真っ青になりしかも、日々夜更かししすぎてもはや取れないまでにあるくまを顔に持つ男子高生が一人。余裕ぶってスマホでまったくのにわかな麻雀をして並んでいる。
俺は瞬時に悟ったね。。。
「真っ先に帰るべきだった」
だが、ここまできてしまったのだ。もはや接客は自分の一人前を対応しだした。今から列を外れて逃げ帰る臆病者というレッテルを背負ってこれからを生きるより、俺は一人でコーヒーを注文することへ挑んだ勇者として今日の放課後を彩りたい。
「次の方こちらへどうぞ―」
さあ、勝負の掛け声が聞こえた。いざ前進じゃ!
「あ、あの、k、っここここの、アメリカンコーヒー、ストレートでください!」
言えた。。。俺は今確かに口にしたんだ。俺は今、一人で喫茶店でコーヒーを頼みゆっくりするという予定の上で最も難しい壁を越えたんだ!あとはもう、恐れるものなど何も――――――
「はい!わかりました。サイドにクッキーなどは。。。。え。。。」
「あー、じゃ、じゃじゃじゃじゃ、じゃあ、アーモンドクッキーを、、つ、追加で」
「あの!間違ってたら申し訳ないんですけど。。。」
「は、はは、はい!!な、なんなりと。。。」
「由良だよね。。。?」
「え。。。」
緊張で見る場所に困り果てた挙句、ずっと頼みもしないカタカナだらけの長ったらしい商品の名前を脳内で復唱していたら、なぜか店員の女性が俺の名前を呼んだ。
こういう場合は警察を呼ぶのが先か、どこで情報を手に入れたかを聞くのが先か。。。いや、警察は焦りすぎか、まずは相手方の情報を探ってから―――――
「私!ほら、春奈!って。。。覚えてないよね」
驚きの名前を耳にして、それとなく顔を上げてみると、そこにあったのは、俺の知っている姿の何倍も大人びて、美人がさらに美人になった俺の初恋の人の姿だった。
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