一般人のグルメ
舟木 長介
第1話一般人のグルメ
これは日本に4割近く存在する、年収300万円以下の一般人の昼食時事情を、赤裸々に描いたフィクションである。
◆
今朝、急に投げられた資料の修正依頼をどうにか終わらせて、チャットに送ると、ボクは大きく伸びをした。
パソコンのタスクバーをチラッと見ると、すでに14時過ぎである。
テレワークが始まってから、通勤はなくなり、スーツを着る必要もなく、昼休憩の時間も自由になったのはいいが、どんどん生活が不規則になってきている気がする。今日も目が覚めたのは、始業ギリギリだった。
まあ、なんのかんの言ってテレワークという至高の労働方式は、絶対になくなって欲しくないが。
それにしても、改めて時間を確認したことで腹が非常に減ってきた。
仕事に集中していると、空腹はあまり感じない質だが、逆に一段落するとすごく減る。
さて、今日は何を食べようか。
少し考えるフリをしたが、答えはすでに決まっていた。
こういう時は家で何か作るのではなく、外食がしたくなるものである。
だって、せっかくすごくお腹空いてて仕事も一段落ついてるんだから、カップラーメンで腹を満たすのはもったいなくないか? こういうの貧乏性っていうのか?
とにかくボクは、外食することにした。お金はないけど外食だ!
そこでまず上がってくるが、マクド●ルドの存在である。
これは別にボクが、お金がないからではない。(※嘘。お金がたくさんあったらモスバーガーを食べる)
ジャンクフード好きなボクは、このハンバーガーが大好物だからだ。
なんやかんやマ●クをバカにする輩が、SNSでは散見されるが、
お前ら知らんのか? このハンバーガーとコーラーは世界で一番売れているんだから、世界で一番美味いものに決まってるだろ!?
心の中で、例の名言をを唱えて鼻で笑う。
咳をしても一人。鼻で笑っても一人。
くだらないことでブドウ糖を消費しつつ、パソコンをスリープするとスマホを持って立ち上がる。
最近ようやくスマホ決済を導入し、光の速度で金銭を消費する快感を体験し始めたボク。
いいよ、これ……。
月末にあるクレカの引き落としがなければ、なお良い。
そうして、マ●クのアプリを開くと最寄りの店を選択。
セットメニューから、いつものてりやきマ●クバーカーセットと単品バーガーを……いや、ここはビッグマ●クセットだな。だいぶお腹空いてるし。
ちなみに、ボクはここで必ずセットのポテトをナゲットに変更する。
だって絶対ポテトよりナゲットの方がお得じゃん。まず芋と肉の時点で勝負になっていない。
この時、単品の値段だとポテトMの方が高いんだからコスパならポテトだろ、とかなんとか屁理屈を言うヤツがいるが、お前はポテトM単品を通常価格で買ったことがあるのですか? 少し黙ってろ。
それにナゲットはソースもついてくるから、バーガーを途中で味変できるんだよ!
(※素人に教えておくと、ポテトを頼んだ際も「ケチャップください」と言えば無料でケチャップソースは貰うことができる。ただ、これはせっかくのビッグマ●クなどの特別なバーガーを普通のハンバーガー味に変えてしまうため、味変には絶対に用いてはならない)
というわけで、さっそくビッグマ●クセットを…………
「あっ!?」
ボクは現実が受け止められずメニューを高速でスクロールしながら、ひとつの大きなミスを犯していたことに気づく。
14時過ぎてるから、昼マ●ク終わってるやんけ!!!!
やられた……!
完全にしてやられた!!
ボクのランチ計画が、音を立てて瓦解していく。
昼マ●クの終わったマ●クのコスパは、マジで悪いのである!!
昨今のあれやこれやの影響で、ジュラ紀の頃は59円で食べられたはずのハンバーガーは令和の現在、ついに170円にまで上がり、それなのに給料はあんまり上がってないのだ!!!!
当時のDC(男子中学生の略)の人体の構成物質は3割がマ●クのハンバーガーだったという調査結果まで存在していたが、その鬼コスパはもう見る影もない!
どうしてくれんねん、これ!?
ボクは頭を抱えた。
もう、なんもかんも政治が悪い! よくわかんないけど、インターネットでみんなそうイッテル! ワタシ知テルヨ! 詳しいんだヨ!!
「はぁ~~~~……」
萎えまくりであるが、空腹は収まらない。
マ●クを食べる選択は残念ながらナシだ。
これでは単品バーガーと合わせて、一食で800円を超えてしまう。
そんなの宝くじでも当たらないと無理だ。
あ~でも、もうマ●クの舌になってるんだよなぁ……クッソ……マジで15時まで昼マ●クやってくれよ……。
しばらく悩んだ末、ボクは結局マ●クを諦めた。
ここでマ●クを食べたら負けだ。
何に負けるのかは、それぞれの想像に任せるが、とにかく負けるわけにはいかないのだ。
そこで次に問題となるのは、この14時30にも差し掛かろうという中途半端な時間に、何を食べるのかということである。
もう家で何か適当に食べるか?
いや~、さすがにそれだとこの後の仕事に影響を及ぼすレベルでテンションが下がる。
やはり外食だけは譲れない。
ではどこへ行くか? めぼしい店のランチタイムは終了しているこの状況でボクに残された選択肢はひとつだった。
「いくか、北京」
北京と言うのはもちろん中華人民共和国の首都の事ではなく、近所にあるボロい中華料理屋の事である。
ここはボクの父が成人する前から存在しているというから、半世紀以上は経っている老舗の店だ。
ただし老舗というだけで、店名から連想する北京ダックを出すような高級店ではない。
非常にリーズナブルな価格ですごい量の中華を出してくれる庶民の味方だ。
一番人気はかつ丼だ。
あそこは、ランチが17時まで食べられる。
在宅勤務で、飯の時間が不規則な人間には非常にありがたい。
ボクはさっそく自転車で10分の北京へ向かった。
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