第40話 冒険者ギルドへ乗り込む日をやり直そう

「……わかりました。今回はお兄様の計画に乗ります」


 ようやくナターシャは納得してくれたようだ。


 これで前に進める。


「ありがとう。二人でこの状況を打破するぞ」

「もちろんです。幸せな未来を掴みましょう」


 抱えていた秘密を吐き出してから、ナターシャは感情をまっすぐぶつけるようになった。


 義妹だからといって、気持ちを抑えつけるのを止めたのだろう。


 まっすぐな想いは嬉しいが、俺たちは結婚できない。


 結婚は家に最も利益を与える相手にしなければいけないのだから。


 ナターシャの能力は高く不足ないのだが、既に家族であるというのが大きな障害となっている。今以上の関係を深めることは、家にとってあまり意味がない。


 それよりも王家とのつながりを強めた方が大きな利益は得られる。そんな考えもあって、俺はナターシャには義妹以上の感情を持たないようにしていた。


「では、冒険者ギルドへ乗り込む日をやり直そう」


 まぁ、今のは余計な考えだな。優先しなければいけないことは別にある。頭を切り替えよう。


 プルップを捕まえて、魔族の王との交渉を無事に終わらすことに専念しなければ。


* * *


 ナターシャと今後の計画について話し合い終えると、領地に残っている騎士たちに今後の計画を伝える。


 街を狙っている魔族がいること、さらに討伐ではなく捕獲して情報を引き出したいことを話して、プルップ対策を練っていく。


 ヤツは植物魔法を使って姿をくらました後、下水道を使って逃げたはずだ。


 冒険者ギルドの付近には、一つだけ下水道へ繋がる道があるので、そこに半数の騎士を投入する。下水道回りの警備はローバーに任せているので、取り逃がすことはないだろう。


 残りは冒険者ギルド建物を囲ってもらい、予備戦力として配置しておく予定だ。


 情報を横流ししていた錬金術師のピーテルは既に捕らえ、ナターシャの力によって口封じの呪いは解呪している。


 今はプルップ捕獲に忙しいから尋問は後回しにしているが、遠距離から殺される心配はないので安心だ。


 準備は完璧。抜かりはない。


 前と同じ日、同じ時間になると、馬車に乗って冒険者ギルドに入る。


 受付は無視してナターシャ、エミー、クライディアを連れて二階にあがる。


 剣を抜いてオーラを纏うと、ギルド長室のドアをけ破った。


「うぉぉおお!!」


 イスカリの叫び声と共にドアが砕け、予定したとおり、額に一本の角が生えた赤髪の女――プルップがいる。


「エミー、クライディアはギルド長のイスカリを捕縛! 別室にゴーレムがいるから気をつけろ! 抵抗するなら殺しても構わん!」


 冒険者が暴走した原因を俺に押しつけようとした男は友人でない。裏切り者、犯罪者だ。慈悲などかける価値はない。命令を聞いて素早く動いた二人に任せれば大丈夫だ。


 俺はプルップと対峙する。


 初手から全力だ。


 刀身のオーラに消滅属性を付与して斬りかかる。


 特性を知らないプルップは両腕を上げて防ごうとする。


 刀身に触れると消滅した。


 そのまま頭部から股下までもきれいに消えてしまい、残った体は左右に割れる。


 コアはどっちだ?


「左にコアがありますっ!」


 ナターシャの声を信じて左半身のプルップに剣を叩きつけようとする。


 擬態をやめて液体に変わると、刀身が当たる部分だけ空白地帯を作って避けてしまった。


 床が丸ごと消滅する。


 ぽっかりと空いた穴から逃げようと動き出す。


『フリーズ』


 穴に落ちかけているスライムの液体が、瞬時に凍り付いた。


 コアまで固まっているようで動いていない。


 後ろを見るとプルップの右半身をミスリルのスタッフで砕いているナターシャが視界に入る。


「氷系統の魔法も使えたんだな」

「苦手な属性なのでとっさには使えませんけど、今回は準備できましたから」


 ギルド長室へ入る前から発動させるために動いていたんだろう。


 凍り付いてしまえば動きは止められるので、スライム対策としては非常に便利だ。今後も活用しよう。


「よくやった」


 ナターシャの頭を撫でていると、抗議の声が上がる。


「こっちも手伝ってくれないっすか!」


 エミーはギルド長のイスカリを捕縛しており、クライディアがゴーレムと戦っている。文句を言っているが敵は半壊しているので、しばらくすれば勝てるだろう。手伝う必要はない。


「俺にはやることがある。頑張れ」


 手をひらひらと振って抗議を無視すると、凍り付いたプルップ前に移動する。


 懐から瓶を取り出すと、しゃがんだ。


「何をするんですか?」


 後ろからナターシャが声をかけてきた。


 凍った水を削りながら答える。


「コアを瓶に入れるんだ。こうすれば身動きが取れなくなる」

「そんな簡単な方法で捕まえられるんですね」

「スライムは近くに液体がなければ何もできない生物だからな。コアだけの存在になったら無力なんだよ」


 コアを取り出すと付着している氷を丁寧にはがしていく。


 水分が残っていたら、単体で増殖できるので重要な作業だ。


 もたもたしていたら解凍されてコアが動き出してしまう。


 時間はかけられない。


 氷をはがし終わると素早く瓶に入れて蓋をした。


 入念な準備をしたおかげもあって、あっさりとプルップ捕獲作戦は終わってしまったのである。

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