第31話 それが敗因だよ

『シールドっ!』


 俺たちを中心に青い盾が全方位に出現して攻撃から守ってくれているが、激しい衝突音と共にひびが入っている。長くは持ちそうにない。俺が動くしかないだろう。


「数秒耐えてくれ!」


 全身そして刀身にオーラをまとわせる。すべてを出し尽くすつもりなので、普段の十倍近い量になっているだろう。


 全身が悲鳴を上げている。オーラによって底上げされた肉体に限界が来ているのだ。


 骨が軋み、筋肉が裂けそうになる。それでも手は緩めない。さらに肉体を強化していく。血の巡りが良くなり、顔は真っ赤になっていることだろう。


 愛用している黒い剣はオーラによって輝いており、ガタガタと揺れている。消滅属性を付与しているので、触れば存在は消し飛ぶ、危険な光だ。


「お兄様っ! もうもちません!」

「魔法を切ってしゃがめッ!!」


 ナターシャの忠告を無視して指示を出す。

 素直に従ってくれて良かった。


 水の槍と光の球が迫ってくるので、オーラをまとった剣で触れる。その瞬間、魔法が消え去った。


 消滅属性を付与したオーラを刀身に濃縮させているので、触れただけで全てが無に帰す。たとえ強靭な肉体を持っていようが例外ではない!


 全ての魔法を消滅させるとプルップのコアに向かって、全力で跳躍する。水の槍が飛んでくるものの刀身に触れた瞬間、消滅するから無意味である。本体にたどり着いたので体を斬り裂くと、周辺が消滅する。再生しようと動き出しても斬ってしまえば無駄だ。


 コアは必死に動いて逃げているが、何度も斬りつけて体積が減っているので、どんどん場所がなくなっていく。


「そこだッ!」


 剣を振るうとスライムの一部を切り離した。


 小さい水の塊がぼとりと地面に落ちる。そこに赤いコアが入っていた。


「短い付き合いだったな。終わりだ」


 剣を突き刺すと水の塊ごとコアが消滅する。俺を襲っていたスライムの体は動かなくなって、水たまりと化した。数時間もすれば地面が完全に吸収してしまうだろう。


 王の娘かなんだか分からんが、俺の手にかかれば倒せない魔族はいないのだ。


「大切な娘は死んだ。今、どんな気分だ?」


 老婆の魔族を見る。

 笑っていた。

 王の娘が死んだのに。


 決定的なミスを犯してしまったという考えが駆け巡る。相手の策略に乗ってししまい死神の鎌が首にかかっている、そんな嫌な感覚だ。


 だが、もうプルップは消滅させてしまった。後戻りはできない。仮に罠を仕掛けられていたとしても食い破るのみだッ!


「お主は魔族を甘く見過ぎてるねぇ。それが敗因だよ」


 地面を蹴って瞬時に老婆の魔族へ近づき、剣を突き刺そうとする。心臓を狙っていたのだ動かれてしまい、左肩を消滅させるだけで終わってしまう。


 追撃として、街から爆発音が聞こえた。


「お兄様っ! 私たちの街がっ!」


 悲痛な声で叫ぶナターシャが気になり、後ろに飛んで距離を取ってから様子を確認する。


 何度も魔物や魔族の侵略から耐えてきた外壁が崩れていた。内部から爆発があったようで、瓦礫は外側に向かって飛び散っている。戦っていた騎士たちの姿は見えない。まさか地面に倒れているヤツらがそうなのか!?


「上手くいったみたいだねぇ」

「何をした?」

「知ったところで無駄だ。諦めな。お前の負けだよ」


 俺が守るべき街は崩壊してしまい、騎士は全滅した。勝敗は決していて、老婆の魔族が言う通り負けた理由を聞いても遅いだろう。


 だが俺は違う。

 死ねばタイムリープするかもしれないのだ。


 どの時間に戻れるかなんて分からないし、もう二度と発動しないかもしれないが、それでも僅かな希望はある。


 次に繋げるため、少しでも多くの情報を集めるべきだ。


「負けかどうかは、聞いてから決める。さっさと話せよ」

「聞き分けのない子だねぇ」


 ため息を吐かれてしまったが、仕方がないという感じで老婆の魔族が話し出す。


「プルップ様は分裂できるからねぇ。分体の一つをここに、本体と残りの分体を街に潜入させたのだよ」


 スライムに性別はない。


 単体で繁殖するといわれていて、その能力を使って分裂したのか!!


「どうやって街に入った?」

「お前たちが汚物を垂れ流している川、そこを使わせてもらったよ」

「下水道か……」


 魔物が侵入しないように強固な柵を作っており、また監視もしているが、スライムであれば水の中に紛れて侵入はできる。


 小細工を嫌う魔族がそんなことするなんて! という驚きが大きい。これは、魔族を甘く見すぎだと指摘されても反論できないな。


 村を襲いながらゆっくり攻めてきたのも、プルップが分裂して街に侵入する時間を稼いでいたと思えば説明が付く。


 勝ちを確信しているからこそ、嘘は言ってないだろう。


「内部に入ってしまえば後は簡単さ。ひっそりと人を食い殺し、栄養を補給して分裂して分体を増やせば良いだけだからねぇ。最大の懸念はお主だったが、こうやっておびき出されちゃ何もできないだろ?」


 悔しいが言い返す言葉は見つからない。

 俺の失策によって街は滅びてしまったのだから。


 しかしまだ最悪ではなく、俺の心は折れていない。


 老婆の魔族に近づき、剣を振るう。不思議なことに動かなかった。刀身が頭に触れると消滅する。俺には勝てないと悟って潔く死んだか。


 この場で俺は勝ったが、街に戻ればプルップに襲われて死ぬかもしれない。


 その時にタイムリープできるか……運命の分かれ道となるだろう。


 危険な賭をせずに逃げるという考えもあるが、俺を信じて付いてきたヤツらが死んでしまったのだから、最後の瞬間まで魔族と戦うと決めている。そんなことでしか、責任を取る方法がないからな。


「お兄様……」


 危険な場所にナターシャを連れて行くわけにはいかない。手を伸ばし止めようとする手を叩くと、全力で走り出すことにした。

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