第30話 ばあやが手伝ってあげようかね
「そう簡単には死なないよ」
人の形をやめてたプルップが膨れ上がった。巨大な水の球体になっている。これなら俺たちを押しつぶすこともできるだろう。
スライム形状になったので中が透けて見える。真っ赤に光るコアは容易に見つかった。
「ナターシャ!」
「はいっ!」
具体的な指示を出さなくても考えは伝わったようだ。以心伝心。心が繋がっていれば何でもできるッ!
『ファイヤーランス』
周囲に炎の形をした槍が数十本浮かんだ。
うそだろ……。
火の玉を数個出すだけだと思っていたのに。
いつの間にこんな魔法が使えるようになったんだ?
魔力量、コントロール能力ともに高い、高すぎる。ブラデク家が抱えている魔道士で同じことをできるヤツはいないだろう。王都にいる宮廷魔道士も同じだ。十本同時に発動させられば大絶賛されるレベルである。
空気によって熱気が伝わり汗は浮き出てた。
見かけじゃなく威力も高そうだ。
「私とお兄様の邪魔をする存在は消し飛びなさいっっ!!」
炎の槍が一斉に飛んだ。プルップの体に刺さると水が蒸発する。突き抜けるようなことはせず水球のなかで爆発しているので、俺が想像していた以上の威力を発揮。水が飛び散ってべちゃっと音を立てて地面に落ちていく。
肝心のコアは必死に動いていて炎の槍に直撃はしていないが、爆発の衝撃を受けてヒビは入っている。
この調子で攻撃を続けていけば勝てるはずなのだが、邪魔者が近づいてきた。
「おやおや。プルップの嬢ちゃんが苦戦しておるねぇ」
老婆の魔族が、ゆっくりと歩いてきている。両手にはクライディアとエミーの頭がある。体はついていない。生首だ。
髪の毛を掴んでブラブラと揺らしている。
ナターシャの専属護衛にしたことで死を回避できたと思ったんだが……。
戦っている途中で勝てないとわかっていたはずなのに、彼女たちは逃げ出さなかった。その勇気、そして忠誠心には頭が下がる思いである。
二度も俺の判断ミスで殺してしまって申し訳ない。
「ばあやが手伝ってあげようかね」
「邪魔はさせない」
オーラを全身にまとって一瞬で後ろに回り込むと、剣を横に振るう。狙いは首だ。
「遅いよ」
反撃を警戒して全力を出していなかったものの、普通の魔族では回避不能な速度だったはずだ。それなのに老婆の魔族はしゃがむことでやり過ごし、立ち上がる勢いで頭突きをしようとする。額には一本の角があるため、直撃したら重傷は避けられない。
後ろに下がって距離を取ると、老婆の魔族は宙に浮かぶ。地上から二メートル近くは離れているだろう。
「ご主人の元に帰りな」
両手に持っていた頭を投げてきた。
慈悲深い男であれば優しく受け止めただろうが、俺にそんなものはない。目の前の敵を討つために最善の手を尽くすだけだ。
刀身の腹に当てて頭をはじき返す。老婆の魔族は驚いた顔をしながらも、光りの球をぶつけた。
パンと水の弾ける音がして二つの頭が吹き飛ぶ。血が降り注ぎ、俺の顔を赤くする。それでも微動だにせず、敵だけを睨みつつづけた。
「ふーん。意外と冷静な対応をするじゃないか。人間にしてはやるねぇ」
「喋ってないで戦ったらどうだ? 大切なプルップが死ぬぞ」
俺が老婆の魔族を相手している間にもナターシャの攻撃は続いている。『ファイヤーストーム』という炎の竜巻を作る魔法で、球体の水分を飛ばしているのだ。
炎に当たれば即座に水が蒸発するので、コアは包囲から抜け出せない。しばらくすれば完全に消滅するだろう。
「それは困るねぇ。死んでしまったら王が悲しんでしまう」
「王? お前たち魔族に王がいるだと?」
次期当主として教育されてきたが、そんな話は聞いたことない。魔の森に関することは最重要項目で優先的に教わってきたから、父が伝え忘れたと言うこともないだろう。
つまりブラデク家が把握していなかった事実を、この場で教えられたのだ。
「そうだよ。坊やは知らなかったのかい?」
「その通りだ。王のことを知らない無知な俺に教えてくれよ」
「王は王だねぇ。彼の命令だけは、どの魔族も従う。そういう存在だよ」
だから今回は魔族が協力し合って動いているのか。
ようやく向こう側の事情が見えてきた。
「プルップを殺したら王が動くのか?」
「さぁね。他にも知りたければ実力で聞き出すんだよ」
時間を稼ぐついでに、もう少し詳しく聞きたかったのだが、どうやら話してくれなさそうである。
老婆の魔族が動いた。姿がブレて消える。背後に殺気を感じたので振り返ると拳が目の前にあった。体をひねってかわすと、殴りつけてきたのとは逆の手から光の球が現れた。間に剣を滑り込ませて防ぐが、強い衝撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
地面を転がりながらもすぐに立ち上がり前を見る。
老婆の魔族がナターシャに向けて光の球を放つと、ナターシャは攻撃されることに気づいたようで『シールド』の魔法を使って防ぐ。
青い縦と光の球がぶつかり合い、空気を振動させ、お互いに削り合っている。
既に走り出していた俺は老婆の魔族を追い越し、光の球に向かって剣を振り上げると両断した。
「大丈夫かッ!」
「お兄様、後ろっ!」
ナターシャがケガをしていないか心配だったが、我慢して振り返る。
炎が消えて自由に動けるようになったプルップが水の槍を作りだし、老婆の魔族が数十個もある光の球を放つところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます