魍魎探偵今宵も騙らず【書籍版/増量試し読み】

綾里けいし/MF文庫J編集部

プロロォグ

 ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!


 さあさ、開幕のブザァが鳴り申した!

 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!


 今よりはじまりますは、語れば悲劇、謳えば喜劇の物語。

 そのまえに、少しだけ、説明をばいたしましょうかねぇ。


 恐怖の大王が降ってくると言われたのが一九九九年。それ自体は嘘っぱちのまやかしだ。

 だが、実際、この国はすとんと終わっちまったよ。その理由を問われれば、ただひとつ。


 あの世とこの世が混ざったからさ。


 いったいぜんたい、なにがあったのか。

 どうして、ああして、こうなったのか。


 常世と現世の境界は、失われちまった。


 そうして、この国は地獄極楽と地続きになった。

 で、あっちこっちに、幽霊、妖怪、幻獣、精霊といった怪異のたぐいが出現するようになっちまったってわけ。しかも、この国はすっぽりと見えない壁に覆われて、他国へ出ることも入ることも不可能となった。逃げ出そうとしたやつが、それに気づいたときは阿鼻叫喚になったもんさ。果たして、外はどうなっちまってんのか。調べようにも、知ろうにも、確かめる術がありゃしない。つまり、国外に助けも呼べないってわけだ。

 この驚天動地の事態を前に、ときの政府は見事に麻痺。人々はみんな大パニック。泣いて叫んで、お国の中は大騒ぎとなったのさ。混乱は十年くらいは続いたかねぇ。

 そのあいだに、妖怪と人間の戦争まで行われた。

 だが、まあ、人は慣れるもの。というか、慣れざるをえない。

 なにせ、嫌がろうが嘆こうが、妖怪はあっちこっちにいるんだから。そうして、最近になって、ようやく人は落ち着いた。混乱期を越えて、やけくそ期に入ったってやつだなぁ。

 今、この国は終戦直後くらいに逆戻りしたような状態にある。

 夜市が立てられ、人々が粥をすすり、一部の富豪は憂さ晴らしの道楽に奔ってやがる。だが、燃料不足もあいまって、インフラは一部機能しなくなった。常世が発展した科学を厭う性質をもつせいで、文明の衰退と荒廃も急激に進んだ。それでも、各自が自治体を設けたり、商売の網が張られたり、やれ、たんと儲ける人間がでたり、今度はそいつらがリィダァになって発電所や電車を動かしてくれたり──赤髭連盟、さよなら同盟、豊穣商会、百鬼夜行商事、福々狸工業──とか、そんなへんてこりんな連中もでてきて、まぁいろいろあって、なんだかんだ、人間は日常ってやつを送ってるわけさ。つまりだね、人間ってやつは雑草のようにたくましい。

 そうして中には当然、妖怪絡みの商売をするやつも現れるって寸法だ。

 結果、人と妖怪の間には、『かたり』が横たわった。


 ああ、そう、『騙り』よ。


 今回はそれにまつわるお話。ぶっ壊れたこの国で、生きる馬鹿やろうたちのお話だ。

 片や、キセルを手に事件を解く探偵。片や、くるくる回って姿を変える妖狐の小娘。


 うん? そんなら、おまえさんは誰かって?


 お気に召されるな。拙者は語り部。所詮、プロロォグだけの存在よ。

 皆様は席に着かれてくださいませ。さあさ、準備はよろしいようで。


 此度の演目は『もうりょう探偵よいかたらず』


 はじまり、はじまりぃ。

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