第5話 3
城内の回廊を進み、途中で現場指揮に向かうニーナさん達、ドリームランド首脳陣と別れる。
俺達が向かったのは城の尖塔の上だ。
ここからはドリームランドが一望できる。
「――若、準備できました」
と、俺の横に立ったエイトは、無数のホロウィンドウを球状に展開している。
映し出されているのは、ドリームランド各地に散った部隊直結の連絡網だ。
今、エイトはターミナルスフィアとして、各地の部隊長とスフィアリンクしている。
小隊規模なら俺も似たようなことができるが、全部隊の統括となると無理な話だ。
この辺りは――人格が破綻しているとはいえ――さすがは万能メイド型
おギン婆はといえば、エイトの後で床に座り込んで、自前のホロウィンドウを展開している。
「――さあ、みんな。訓練の成果を見せる時だ。
侵略者共を追い返すぞ!」
感情の希薄な
警報が鳴り響いた。
上空を見上げれば、巨大な十字型に見える敵艦――<女神>から、大小七つの影が飛び出す。
「――フリート級一、重巡一、駆逐艦が五です」
エイトは報告と同時に、展開された敵艦隊の拡大映像をホロウィンドウとして表示する。
「……
俺の呟きに、エイトは一瞬の沈黙の後にうなずく。
「ありません。あちらの目的はドリームランドと、用いられた技術の確保ですからね。
さすがに地殻自体を破壊しかねない兵器の使用は避けるつもりなのでしょう」
魔道砲と呼ばれることもある兵器なのだが、複数の魔道士による儀式魔法で念動回廊を構築し、その内部の物体を亜光速射出するというシロモノ。
射出されるのは、耐熱耐衝撃処理された
俺としては、初手でこれを使われるのを恐れていたんだ。
亜光速で飛来する
使われていたら、この星の地下部にまでその被害は及んでいた事だろう。
だが、賭けには勝った。
連中はそれを使用する気がないらしい。
「敵艦隊本星上空にて待機。
――戦闘機群の展開を始めました。揚陸艇の射出も開始しています」
俺の前に開かれたホロウィンドウに、それぞれの進路予想図が表示される。
戦闘機群は大気シールドを這うように、地表外周部の方位陣形を取るようだ。
速度に劣る揚陸艇は、その展開後、天頂部から螺旋を描くように降下してくるらしい。
エイトの報告に、俺は右手を振るう。
「よーし、ウィリアム! 予定通り、近づく連中を片っ端から叩き落とせ!」
ウィリアムというのは、地表外周部を守る執事隊の部隊長の名前だ。
広大な外周部防衛の指揮をたった一人で行えるというのも、スフィアリンク能力の高い
俺の指示に応じて、ドリームランド外周部――地平線の遥か向こうから、重レーザーの輝きが瞬く。
「――ニーナ! 揚陸艇が来るぞ!」
上空から旋回しつつ高度を落としてくる揚陸艇に向けて、熱線や大口径ビームが照射され、空に無数の爆発が散る。
中からはユニバーサル・アームやパワードスーツの戦闘員が飛び出してきた。
彼らは降下シェルを開いて、ゆっくりと地表へと降下して来る。
「揚陸隊は近接隊で対処するから無視して良い! メイド隊はとにかく揚陸艇の撃墜に専念しろ!」
「――ここらで一発、ド派手な花火を上げて、揚陸部隊の士気を挫いて置こうかねぇ」
と、呟いたのは背後のおギン婆だ。
「この星は、規模の割に防空システムがねえからおかしい思っとったが、調べてみたら、ちゃあんと用意されとった」
ニシシと笑いながら、おギン婆はホロウィンドウを操作。
途端、パークの各地から上空目がけて、何かが恐ろしい勢いで射出された。
轟音と衝撃波がここまで伝わってくる。
「地下部からのリニアエレベーターを使った、対空迎撃システムだ!
重量三トンの亜光速飛翔体! 耐えられるかい!?」
どうやらエレベーターのケージをそのまま飛ばしているらしい。
「――拡大映像、出します!」
エイトが俺の前に新たにウィンドウを開いて。
映し出されたのは、無数のケージに衝突されて爆発する駆逐艦の姿。
「次は重巡を狙うよ。
――ゴンゾー! 準備はできてるね!?」
『おうさ、ドクトル。いつでも行けっぺよ!』
と、四角い顔フレームむき出しのヨサク型リーダーのゴンゾーが、キツい訛り声で応じる。
おギン婆の笑みがますます濃くなった。
……楽しそうだなぁ。
おギン婆がホロウィンドウを撫でる。
それに応じるかのように、ワンダー城の南側にある大型観覧車の土台が旋回を始めた。
「エイト、諸元データを寄越しな!」
「はい、ドクトル!」
エイトが周囲に浮いたホロウィンドウの一枚を選び取り、それをおギン婆に滑らせる。
受け取ったおギン婆は、自身のホロウィンドウにそれを突っ込み、目立つ赤い枠に触れた。
旋回していた大型観覧車の土台が固定され、ゴンドラを連ねた回転輪の角度が微調整された後、緩やかに回転を始める。
その速度はどんどんと上がって行き――やがて紫電を放って目では追えないほどになった。
「――喰らえ! リニアガトリング!」
回転の頂点から、紫電をまとったゴンドラが連続して放たれた。
観覧車の周囲に、巨大な水蒸気の輪が連続して広がる。
――轟音。
三十のゴンドラは一瞬で撃ち尽くされ、遥か上空の重巡を蜂の巣にした。
「ハッハー! 遊戯惑星と舐めてかかって、バリアも張らずにおるからそうなるのさ!」
ボロボロになった重巡から、蜘蛛の子を散らすように脱出艇や揚陸艇が飛び出し、わずかに遅れて上空で巨大な爆発が起こった。
「さあ、お次はとっておきだ! ゴンゾー!」
『あいさ、ドクトル!
――野郎ども、気合い入れっぞ!』
ゴンゾーの応答と共に、ワンダー城の東側にあるリニアコースターのレールが組み変わっていく。
この星に降り立った日に、おギン婆が興奮して見てたアレだ。
豪快な金属音と共に見る見る変貌を遂げたコースターは、いまや巨大な砲台のようになっていた。
観覧車同様に土台が動いて旋回し、砲台は上方に向けられて固定される。
「ドクトル、諸元データ、出ました!」
エイトが再びおギン婆にホロウィンドウを滑らせる。
「よし、行くよ!」
砲台の根本から螺旋を描くように紫電が駆け上がり、その砲身内部は反重力場が充填されて、闇色に覆われた。
「――おい、これって……」
その光景に、俺は息を呑む。
これまでの対空兵器を考えるに、おそらく飛ばされる弾体はコースターなのだろう。
総重量十トン近い金属の塊だ。
と、なるとこれは……
「――喰らいなっ! <
「おいい――っ!!」
思わず俺は驚愕の声をあげたよ。
んなもんがあるなんて、会議で一度も言わなかったじゃねえか!
砲身の中を超光速で螺旋に加速したコースターは、轟音を轟かせて射出され、紫電を纏った灼熱の輝きとなって上空へと駆け上がる。
エイトがホロウィンドウを寄越した時にはもう、戦艦は艦首と艦尾を残して大破していた。
乗組員達は逃げ出す暇もなかったようだ。
「これでかなり有利になるだろう?」
不敵に笑うおギン婆に、俺はため息をつくしかない。
普段はめったに自室から出てこないおギン婆だが、動くと決めたらとにかくやることが派手なんだよなぁ……
「ま、まあ、助かったよ」
確かにコレで、上空からの艦砲射撃を気にしなくてよくなったのは大きい。
揚陸艇もあらかた上空で迎撃できている。
「次のフェーズだな。
――スーさん、カグさん、用意はできてるな?」
燃え墜ちる揚陸艇から脱出してくる揚陸部隊への対処のために、俺はふたりに声をかける。
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