若様、遊戯惑星の為に立ち上がる

第5話 1

 俺達がドリームランドに到着して、銀河標準時ワールドクロックにして一週間後。


 惑星住民スタッフ達の促成訓練を終えて、連携訓練に取り掛かったところで、奴らは現れた。


 バラ撒いたマルチセンサーに反応があったんだ。


 俺は即座に、城の臨時会議室――一番人数の入る応接室をそう呼んでいる――に家臣達やドリームランドの首脳達を集める。


「――現在、敵は本星より四光年の距離を航行中。現状速度を維持するなら、二時間後には、本星上空に到達するでしょう」


 と、ローテーブルを囲んでソファに腰掛ける俺達に、エイトはホロウィンドウに敵艦の航行図を描いて説明する。


「そして、センサーで捉えた敵艦がこちら」


 続いて開いたウィンドウには、敵艦の外観とスペックが表示された。


「十キロ超え――フォートレス級か。

 だが、見たことねえ船だな」


 巨大な艦胴の横に、趣味の悪い羽根模様の主翼が折り畳まれている。


 あの巨体で惑星降下なんてできるわけでもなし。なんで気圏航空機のような主翼があるのか――よくわからん、謎なデザインだ。


「はい。グローバルスフィアを走査してみたところ、艦名は<女神>。クエンティア王国の旗艦として建造されている艦の試作艦を流用しているようです。

 制作は当然、カネヒラ重造船。艦装はカネヒラ重工によって成されています」


 俺はさらにスペックを読み進める。


 メガ級ロジカルドライブ搭載。


 艦載量は一キロサイズのフリート級戦艦が五隻。


 五〇〇メートルの重巡が三十隻。


 二五〇メートルの軽巡を五十隻。


 一〇〇メートルの駆逐艦は七十五隻搭載可能。


「……事実上、クエンティア王国の艦船すべてを艦載艦として搭載できるってことか」


 逆に言えば、艦載スペースを満載にしている事はありえないという事だ。


 いかにカネヒラがクエンティア王国随一の企業だとしても、だ。さすがに国が保有する戦艦すべてを一企業が持ち出してくる事なんて、ありえないからな。


「……なんつーか、頭の悪いフネだねぇ」


 おギン婆が苦笑しながら、ホロウィンドウをつつく。


「まるで子供が考えた、“さいきょーのおふね”そのままじゃないか」


「データリンクと艦体連携が主流の現代戦術から逆行しているような設計思想ですね」


 エイトもおギン婆に同意を示してうなずく。


「主砲もそうです。今どき<惑星砕きスターデストロイヤー>ですよ、<惑星砕き>!

 バリアリンクで簡単に跳ね返せるのに!」


 エイトが言うバリアリンクっていうのは、艦体連携運用戦術のひとつで、バリア・フィールドを張った艦隊が連携して多重結晶体を構築することで、敵主砲を跳ね返すというものだ。


 艦体がバリアシステムを標準搭載するようになった現代戦において、艦砲射撃は弾幕以上の効果がなくなっている。


 艦隊の役割は、敵艦隊のバリアリンクを中和しつつ、弾幕を張って敵の侵攻を食い止めること。


 戦の決定打となるのは騎士や艦載機――ユニバーサル・アームによる白兵戦となっていて、艦隊の支援弾幕の中を突き進み、敵艦隊を制圧する――科学万能な世界であるにも関わらず、その戦模様はむしろ中世のそれに近い有様となっているんだ。


 そんな現代戦術から逆行するような、<女神>の設計思想に俺達は苦笑するしかない。


「――まあ、クエンティアですし……」


 呆れたようなスーさんの言葉で、すべてが理由付けられてしまう。


 ――権威主義。


 大きいモノは良いモノだ。


 とにかく自分達は偉いから強い――という頭のおかしい思想を持つ、彼の国らしい設計思想といえば、確かにそうなんだろう。


 納得して苦笑する俺達に、ドリームランドの首脳陣は怪訝な表情を見せる。


「ああ、説明が必要だな。

 クエンティア人ってのはさ……」


 俺の説明を聞いたみんなは、やはり微妙な表情だ。


「……なんというか……よく国として成り立ってますね……」


 ニーナがかなり言葉を濁して呟く。


 はっきりとバカな国って言ってやれば良いのに。


「帝国が補助金出して、支援してるんだ。

 あんなのでも西領域の緩衝地として、帝国には必要でな」


 蛮族から帝国領域への侵攻を防ぐ盾の役割が、クエンティア王国には与えられている。


 それを理由に、毎年莫大な予算と補助金をふんだくって行きやがるんだから、連中は本当にタチが悪い。


 一部では蛮族と裏で取引しているという噂もあるのだが、今は関係ないので伝えずにおく。


 それから俺達は戦闘となった場合の住民スタッフ達の配置や、戦術について話し合い、シュミレーションを重ねた。


 その上で。


「最後に、交渉についてだな」


 シュミレーション結果を元に、さらに戦術を練り上げているスーさん、カグさん、レオぽんさん達を横目に見ながら、俺はニーナに切り出す。


「前回、急に攻めて来たのに、交渉の場などありますでしょうか?」


「いや、だからこそだ。

 連中は本来、無傷でこの星を手に入れられると思っていたはずだ。

 だが、手痛い反撃にあって撤退を余儀なくされた」


「だから、今度は本気で来たのでは?」


 ニーナは困ったように頬に手を当てて、首を傾げる。


「連中の目的はこの星を手に入れることだ。

 そして、相手は商人だからな。費用対効果――被害は少なければ少ないほど良いと考えるはずなんだ」


 <女神>を持ち出してきたのは、わかりやすい示威行為だな。


 なるほど。


 そうして見ると、戦術を理解してない者を相手にするなら、あのデカいだけの船も、十分に使い道はあると考えられるか。


「恐らく交渉はあるはずだ。ニーナには、その時にこの星の代表としてその場に立って欲しい。

 大事なのは、この星はすでに機属アーティロイドが自治しているという姿勢を示すことなんだ。

 俺達が交渉してしまうと、それを根拠に、この星に知性体は存在しないと言いがかりを付けかねられない」


 俺の説明に、それでも不安そうなニーナ。


 その肩にエイトが手を置いて。


「大丈夫です。スフィアリンクでエイトがしっかりサポートしますよ。

 見てわかるように、エイトは若の知恵袋なんですよ?」


 親指立てて自分を刺しながら、ヤツはウィンク。


「おい、誰が誰の知恵袋だ?」


 だが、俺のツッコミを無視して、ニーナはエイトの手を両手で握り締めた。


「頼りにさせて頂きます! お姉さま!」


 ……なんか納得いかないが、ニーナがやる気になったなら、まあ良いか……


 そうして俺達は、カネヒラとの交渉について、ニーナと一緒に細部を詰めていった。

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