小さく光る

五感

小さく光る

休校を期待していたあの頃のまなざしのまま台風を待つ


お通しにお金を払うこの国で知らないことを馬鹿にしないで


死ぬまでに私は何度生まれ変わる? マリブコークの明るい甘み


言葉って生ものだから特別に新鮮なのをあなたにあげる


心にも免疫はあり理不尽の種を蒔いたら花が咲くかな


ビルとビルのはざまに吹いた残響を飲み込みながら街はそびえて


口笛は私の代わりにやさぐれたみたいな晩夏の空をはばたく


灰皿にタバコの死骸 文字化けのような人びとが散らばる路地で


夕立は空の仮病だ私たちみんな仮病に振り回される


買い物も淡い労働だとしたら家まで続く色のある風


人はみな誰かの傘を避けて歩く私の傘はすこし小さい


週末の半額寿司のパックへと落ちる水滴、詩のような音


思いやりなんて本当はないのかも湯船に髪を浸してしまう


熱帯魚も光がなければ光らずにあなたにボタンを留めてもらえば


排泄をする 魂で満たせない穴をこの身に飼っているから


来月のシフトを握りしめながら心だけでは息ができない


失言は形なき痣 外からは見えないヘルペスを前歯で噛んで


バナナにはそばかすが増える習慣としての明日が私を過ぎる


とめどない未来のメタファー 早朝のシャワーのあとに踏む珪藻土


シャッターを開ければあなたのピアスだけあなたの代わりに小さく光る

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小さく光る 五感 @sne-5sy

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