チート所有者
独房にぶち込まれてから一週間ほどが過ぎる。
バグったステータスウィンドウいじりにも飽きてきた。
ステータス画面は複数枚出すことが出来た。
また、大きさも自由に変えることが出来た。
いろいろなことが分かったが、実際に脱獄となると難しい。
鉄格子は切れそうだが大きい音が出るし、脱獄した後に行く宛もない。
だったらまだ、囚人としてこの世界の情報を得たほうがいいのではないか。
そう考えると結局状況は変わっていない。
そんなある日。
「ん? 地震?」
昼間から寝床で横になっていたため敏感に反応出来た。
起き上がりなんとなく小窓を覗く。
刑務所の外は草原が広がり、のどかな風景だ。
脱獄しても隠れるところがないくらい穏やかな景色に、変わったところは無さそうだが。
「何だ? 今光った?」
遥か向こうで何かが光った気がした。
天気がいいのに雷か?
とりあえず。
「ステータス・オープン。」
【四天王 リリベルのこうげき】
▼《カオススパーク》……王都に壊滅的なダメージが発生!
▼あと三秒後に到達!
四天王だって?
攻撃?
壊滅的な……三秒後!?
「え? え? えっと! ステータス・オープーーン!!」
俺は咄嗟に、できるだけ大きなステータスウィンドウを展開する。
そして地面に伏せ、衝撃に備える。
ゴゴゴゴゴゴ……カッ!!
地響きが大きくなり、目の前が真っ白になった。
そして気を失いそうなほどの爆音が後からやってきた――――
しばらくして音が収まる。
刑務所は吹き飛び、俺は瓦礫の下敷きになっていた。
砂埃が収まり若干視界が回復する。
痛いところは無い。ステータス画面のガードがうまくいった。
この強度がバグっているステータス画面の壁が、重い瓦礫を支えている。
「うわ……これは酷い……」
瓦礫の隙間から周囲の様子を見る。
そこには無残な貧民エリアの姿があった。
人々が雨風をしのいでいた建物は瓦礫へと変わっている。
建物が無くなったせいか、王都のシンボルである高い塔がはっきりと見える。
周囲に生き物の姿は無い。
とても静かだ。
「ん、いや、何か聞こえる。」
近くの瓦礫の山から――人の声?
「あいつはもしかして[
女の子の声。
いた。黄緑色の魔女っ子服を着た女の子だ。
その近くに高校生くらいの男の子と、鳥人間みたいな格好をした少女も確認出来る。
「ほう、四天王と知ってまだ楯突くか。」
別の方向から、今度は大人の女性の声が聞こえた。
四天王?
この街を破壊した魔法を放ったのも四天王と書いてあった気が。
「さあ、遊んであげなさい。」
「うお、びっくりした……」
思わず声が出た。
近くの瓦礫がボコッと盛り上がり、骸骨の標本が現れる。
それは勝手に動き出し、手に持った剣を振りかざし男の子の方へ向かっていった。
標本を動かしてるんじゃなくて、これが骸骨モンスターってやつか?
キィン……バラバラバラ
え?
男の子に近づいた動く骸骨は、それこそ壊れた標本みたいにバラバラになった。
「き……貴様何をした!」
「別に。歩いてるだけだけど。」
男の子はそういうとゆっくり大人の女性に近づく。
彼女は異変を感じたのか、後ずさりする。
確かに今、彼は何をしたんだろう。
そうだ、情報を見てみよう。
俺はまだ瓦礫に埋もれ身を隠したまま、ステータスを表示した。
【[消滅の勇者 カツヒロ]】
レベル:27
スキル:
詳細:全ての魔法・スキル・関連する効果を消滅させる。
女神より授かった能力。
女神より――俺と同じ異世界転生者か!
しかもよくあるチート、
それであのモンスターがバラバラになってしまったわけか。
「ならば――《ファイアアロー》! 《アイスエッジ》! 《エアストーム》!」
今度は砂埃が舞っているのが見える。
大人の女性の方からだ。
女性が魔法のようなものを放っている姿が確認できた。
漆黒のドレス。艶のある長い黒髪、黒くて大きな瞳。
だが唇だけは真っ赤で、悪魔のような畏れを感じつつも不思議な魅力がある。
身長は高めで、スタイルはかなり良い。
彼女の周囲に七色の球体が飛び回る。美しい。
「あれは……」
【魔王軍 四天王[
レベル:97
スキル:混沌属性
詳細:第七の魔法属性「混沌」を使いこなす。
混沌を紐解くことで、六大属性全ての魔法を自在に操ることが出来る。
やはりあの人がこの街を破壊した四天王か。
レベルもMAXに近い魔法使い……魔女だな。
「あああっ!!」
魔女が叫ぶ。
勇者の剣から放たれた斬撃で魔女の胸元が切り裂かれ、黒い液体――恐らく血が吹き出る。
先程彼女が撃っていた魔法は全てかき消され、魔法のバリアみたいなやつも粉々だ。
相手は無効化能力持ちの異世界転生勇者。
かわいそうだけど相性が悪い。
「ぐぅぅ、待て、これは――」
ズバッ!
「きゃううう!」
魔女は右手を出したが、腕ごと切り落とされてしまう。
切り口から黒い血が吹き出る。
黒いおかげでグロさは無いが、痛々しい。
「あれ、思ったより弱いな。
今更命乞いをするなんて、それでも四天王かよ。」
余裕そうに剣を担ぐ男の子。
この世界は今、人間と魔族の戦争中だ。行為は正当防衛に当たる。
だが何だろう……チートで蹂躙してるだけなのに高圧的というか……。
「ぐううう、うわああああ!!」
魔女の足元の瓦礫が浮かび上がる。
彼女もそれらと一緒に浮かび上がり、男の子と距離を取る。
「死ねぇえええ!!」
ドドドドドド!!
大小様々な瓦礫が男の子たちに襲いかかる。
しかし瓦礫は彼らの数メートル前で勢いが止まり、地面に落ちる。
「魔法が効かないからって投石か? 原始的だなぁ。
ただ魔法で投げてるんだったら意味ないよ。それも無効化。」
彼の言う通り、瓦礫はただ彼らの前に山を形成するだけだ。
瓦礫と瓦礫がぶつかって粉々になっても、彼らをかわすように粉塵が舞っている。
あれ、これも無効化能力なのか?
小声でこっそりステータスを開いてみる。
【[消滅の勇者 カツヒロ] スキル詳細】
無効化対象・範囲は自由に指定できるので魔道具も使用可能。
生命を脅かす魔法・スキルには自動で反応する。
魔法・スキルが起因となっている運動エネルギー・化学反応も無効化する。
なんだこの使いやすいチートは。
これはパーティ編成によっては魔王討伐余裕じゃないか?
「そろそろ降りてこい――よ!」
男の子が地面を強く踏みつける。
「貴様なにを! あっ」
ドシャッ!
上空にいた魔女が地面に落ちてくる。
恐らく無効化の範囲を拡大して、浮遊魔法を消したのだろう。
「うっ……くそっ……私が人間なんかに……」
「その人間なんかを殺した罰だよ。お前は人間なんかにやられるんだ。」
男の子が魔女に近づく。
魔女は傷を庇いつつ体勢を整える。
「――――……よ。大地の加護により促進しなさい! 土属性魔法、《プラントロック》!」
男の子の近くにいた黄緑色の魔女っ子が何か唱えていた。
どうやら魔法だったようだ。
満足に動けない魔女の足元から太い植物のツルが生えてくる。
ツルは魔女に絡みつき、片腕を上げた状態で拘束する。
「ぐっ! この程度の魔法で!」
「おお、メイア、ナイスアシスト。」
そう言って男の子は親指を立ててサムズアップ。
メイアと呼ばれた魔女っ子も笑顔で応える。
これはもう魔女側が詰んだか。
魔法や魔道具は効かない。
純粋な力技も無さそうだし、中高生くらいの子供たちとは言え相手の魔法は無効化されず強力だ。
筋肉ムキムキの側近でも連れてくれば良かったのに。
さて、ここでちょっと好奇心。
ここからこの魔女が勝つにはどんな手があるだろうか。
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